女装は、もう二度としません。
今年も学習発表会の時期になった。
クラスでの発表は、主に多数決で決まる。
去年は合唱だったのだが、今年は、なんと劇に決まった。
それもミュージカル風にするらしい。
それに関しては、賛成だ。
個人的にミュージカルは好きだし、みんなで作り上げる楽しみもある。
だけど、この結果には、納得ができない。
「…………」
「よっ!!美女!」
「日本一!」
黒板に書かれたのは、配役を決めるための名前だった。
うちのクラスは「美女と野獣」をやることになったんだけど……。
野獣が、まさやんなのは、わかる。
身体も大きいし、野獣っぽい。
【 ベル役 大白崎かんた 】
だが、ヒロインのベルの横に、俺の名前が書いてあるのは、どうあっても理解ができなかった。
「意義あり」
「多数決です!!」
「みんなからの投票です!!」
「観念しようぜ、おかん!!」
「一回だけだから!!一生のお願い」
よっちゃんの一生のお願いを、俺は一体何回聞いたと思ってる。
頭が痛くなってきた……。
「いや、おかしいだろ、なんで俺が?」
「だって、実際女子がお姫様役やったら、あれじゃん」
「あれって?」
「周りから、付き合ってるんじゃねーのって、からかわれたりするだろうし、可哀想かなぁって」
「本音は?」
「おかんがお姫様役の方が絶対面白い!」
「よし、わかった。帰る」
複数人に引きとめられ、席に戻される。
というか、俺がからかわれるってところは気にしてくれないのかよ。
「俺に、舞台で女装しろってこと?」
「うん!!」
「返事が大変よろしい……はぁ、いじめか?」
「いじめじゃない!!純粋に、似合うと思ってる!!」
「そっちの方が嬉しくない」
女装が似合うと言われて喜ぶ男はいないはずだ。
断りたいし、却下したいけど、みんなの視線が突き刺さる。
これは、何が何でも、断れないやつだ。
「……わかった、でも条件がある」
「え!マジで!やってくれんの!」
「やったー!!おかんがお姫様だってよ!!」
「うちのクラスが学習発表最優秀賞クラスで決まりだな!!」
みんながキャッキャッしてる中、俺はクラスを出てある人を呼びに言った。
ダダダダダダーーッ!!!!!
「かんたくんが!!ミュージカルで!!お姫様をやるですって?!!!」
その人は、俺の言葉に、三秒で協力してくれた。
そう、上野先生だ。
「え、上野先生、どうしたの?」
「目が血走ってる……」
俺が連れてきた上野先生を見て、クラスのみんなは唖然としていた。
「いいか、やるなら徹底的に本気でやる。俺も本気で演技するし、女装もするし、努力する。その代わり、全員本気でやること。お遊びみたいな雰囲気で劇をするつもりなら、俺は大道具になる」
俺がキッパリと宣言すると、みんなが「おおおお!!」と盛り上がった。
どうやら、最初から本気でやるつもりだったらしい。
そして、ミュージカルと言うからには、上野先生の出番だろう。
今までに見たことがないくらい目を輝かせている。
「かんたくん、歌は?!歌はどうするの?!」
「落ち着いて下さい、上野先生。とりあえずは、みんなの歌の指導をお願いします、俺も合わせるところは合わせるし、ソロのところは何とか頑張ってみますから」
「はぁ~~~楽しみだわ!!」
「生徒より楽しんでますね、先生」
上野先生が喜んでいるので、何よりだ。
母さんに教えてもらったあの歌じゃなければ、植物が育つことはない。
あまり、学校では歌わないようにしていたけど。
今回ばかりは、特別だ。
そして、その日から、俺たちの特訓という名の練習が始まった。
小学生だからと言って、嘗めてもらったら困る。
脚本、照明、音響、大道具、役者。
それぞれの本気が終結すると、どうなるか。
奇跡だって、起こせてしまうものなんだ。
◇◇◇
「かんた~!学習発表会、もうすぐだよな?父さん、有給取って……!」
「あ、来なくていいから」
「なっ!!!!!」
夕飯の時に、嬉々として聞いてきた父さんを一刀両断すると、父さんは床に四つん這いになって落ち込んでしまった。
「かんたが、反抗期……?」
「違うよ。今回のは……見られたくないだけ」
「なんで!!!」
「女装するから」
「女装……?」
父さんが頭にはてなマークを浮かべていた。
これ、説明するのも恥ずかしいんだけど……。
「ママにいは、お姫様なのよね!」
「さくらのところまで、知れ渡ってるのか……はぁ」
「ふふっ、たのしみぃ!」
「え、かんたがお姫様?本当なのか?」
「うん、なんか、配役の多数決で、美女と野獣のベル役になっちゃったんだ」
「なんだって?!!!!」
「まぁ、本気で演じるから、そこまで恥ずかしいクオリティーのものは出さないつもりだけど、流石に父さんに見られるのは恥ずかしいっていうか、」
「ハンディーカム!一眼レフ!!ハイビジョン!高画質!!!!!」
「……こうなることがわかってるから、来なくていいって言ったんだけど、」
父さんの耳には、どうやら俺の声はもう届いていないらしい。
頼むから、アマゾンで無駄遣いするのだけはやめて。
お願いだから。
「来ないでって言っても、来るならしょうがないか……」
「父さん、かんたに本気で来ないでって言われたらショックで寝込む」
「はは、」
そんな堂々と言われても。
もう、言っちゃったけど。
「わかった、来ていいよ。そのかわり、あんまり騒がないでね?」
「うん!!うん!!」
「目立つことは禁止だよ?」
「うんっ!!」
「アマゾンで無駄遣いもしないで」
「うん!!わかってる!!」
本当にわかっているのか、怪しいな。
でも、仕方ないか。
父さんに恥ずかしくないくらいのものを見せなければ。
そう思って気合いを入れたんだけど……。
◇◇◇
「……気合い、入れ過ぎでは?」
「~~~~~っ!!!!」
「先生、言葉が出てません」
上野先生が、なんとメイクまでしてくれた。
ウィッグと衣装を身に纏い、メイクまでされると……結構それなりに女子に見えてくる。
「かんたくん、腰細すぎ……!!」
「この服、ウエストしまりますね……」
「それが入るのが凄いのよ!!はぁ、本当にお姫様みたい!!」
先生が太鼓判を押してくれたので、複雑だけど、少し安心した。
あまりにも見れない女装だったら、いくら本気で演じたところで、ギャグになってしまう。
流石に舞台に穴は空けられない。
俺は鏡に映る自分を見て、苦笑した。
「この出来栄えなら、何とかなるかな……?」
そして、本番直前の練習日。
クラスで初の女装お披露目会をすると、周りが予想外の反応をしてきた。
もっと、騒いでくれるかと思ったのに、みんな無言だ。
俺は、一気に不安になった。
「え、なんの反応もないの?」
「お、おかんか……?」
「それ以外に誰だと思った?」
「…お姫様?」
「はい?」
目がおかしくなったのか?
そう思って周りを見るけれど、みんな目が丸くなっていた。
どうやら、ここに俺の味方はいないらしい。
「嘘、超美人……!!」
「洒落にならない……っ」
「負けた、」
「まさか、ここまで似合うなんて、」
「本当に男……?」
「おかんは、おかんだけど……お姫様だったのか?」
「落ち着け、おかんの性別は、おかんだ!」
落ち着くのは、おまえだ。
性別おかんって、なんだよ。
褒められているのか。
男として、貶されているのか。
ここは、開き直っておこう。
落ち込んでも、いい舞台にはならない。
「満足?」
俺がみんなに聞くと、みんなは全力で頷いた。
まさやんの顔が赤くなっているのが気になるが、気付かないフリをしておこう。
「当日は、とにかく本気を出すぞ」
「「「おう!!!」」」
みんなの意識が最高潮まで高まった。
最後の最後まで、徹底的に練習する。
そして、三日後。
本番の日がやってきた。
◇◇◇
「緊張する……」
「大丈夫だよ、頑張ろう?」
「ねぇ、最初って、なんだっけ?」
「おかんのソロよ、そこから舞台は始まるんだもの……」
舞台袖で、みんな緊張していた。
それは、俺も同じだ。
だけど、覚悟を決めるしかない。
舞台が始まると、俺はベルになりきった。
学校中の人間が、俺が「男」だと言うことは知っている。
だけど、みんな目を疑っていた。
「―――っ」
さぁ、舞台が始まる。
俺は笑顔で、舞台から観客たちを見下ろした。
スポットライトが当たる。
片手には、本と籠を。
俺の歌声が体育館に響き渡る。
練習でもここまで本気では歌わなかったので、同じ舞台に立つクラスメートも、みんな驚いていた。
胸がワクワクする。
まさやんとの息もぴったりだった。
みんなで、劇を盛り上げていく。
俺たちは、舞台の上で一つになった。
飛び交う歓声。
鳴り止まない拍手。
どうやら、俺たちの舞台は大成功どころじゃなかったらしい。
小学校では、伝説となったみたいだ。
上野先生は、号泣していた。
そして、俺の父さんも……。
「父さん、」
「えぐっ、えぐっ、かんたぁ」
「赤バラの花束って……」
「綺麗だよ、ベルぅ……ぐすっ」
目立つことはしないでくれって、あれほど言ったのに。
劇が終わった俺の元に駆け寄って来た父さんは、あろうことか俺に赤バラの花束を差し出してきた。
これ、俺が持って帰るの?
というか、部屋に飾っておくの?
呆れつつも、こんなに泣いてたんじゃ、怒れない。
みんな、写真撮りまくってるし。
舞台は楽しかったけど。
女装は、もうこりごりだ。
「次からは、コーヒーカップの役を希望するよ」
そう言って、俺は女性らしい仕草でお辞儀をしたのだった。




