表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/30

女装は、もう二度としません。


今年も学習発表会の時期になった。

クラスでの発表は、主に多数決で決まる。

去年は合唱だったのだが、今年は、なんと劇に決まった。


それもミュージカル風にするらしい。


それに関しては、賛成だ。

個人的にミュージカルは好きだし、みんなで作り上げる楽しみもある。



だけど、この結果には、納得ができない。



「…………」

「よっ!!美女!」

「日本一!」


黒板に書かれたのは、配役を決めるための名前だった。

うちのクラスは「美女と野獣」をやることになったんだけど……。


野獣が、まさやんなのは、わかる。

身体も大きいし、野獣っぽい。


【 ベル役 大白崎かんた 】


だが、ヒロインのベルの横に、俺の名前が書いてあるのは、どうあっても理解ができなかった。


「意義あり」


「多数決です!!」

「みんなからの投票です!!」

「観念しようぜ、おかん!!」

「一回だけだから!!一生のお願い」


よっちゃんの一生のお願いを、俺は一体何回聞いたと思ってる。


頭が痛くなってきた……。


「いや、おかしいだろ、なんで俺が?」

「だって、実際女子がお姫様役やったら、あれじゃん」

「あれって?」

「周りから、付き合ってるんじゃねーのって、からかわれたりするだろうし、可哀想かなぁって」

「本音は?」

「おかんがお姫様役の方が絶対面白い!」

「よし、わかった。帰る」


複数人に引きとめられ、席に戻される。

というか、俺がからかわれるってところは気にしてくれないのかよ。


「俺に、舞台で女装しろってこと?」

「うん!!」

「返事が大変よろしい……はぁ、いじめか?」

「いじめじゃない!!純粋に、似合うと思ってる!!」

「そっちの方が嬉しくない」


女装が似合うと言われて喜ぶ男はいないはずだ。

断りたいし、却下したいけど、みんなの視線が突き刺さる。


これは、何が何でも、断れないやつだ。


「……わかった、でも条件がある」

「え!マジで!やってくれんの!」

「やったー!!おかんがお姫様だってよ!!」

「うちのクラスが学習発表最優秀賞クラスで決まりだな!!」


みんながキャッキャッしてる中、俺はクラスを出てある人を呼びに言った。



ダダダダダダーーッ!!!!!


「かんたくんが!!ミュージカルで!!お姫様をやるですって?!!!」


その人は、俺の言葉に、三秒で協力してくれた。

そう、上野先生だ。


「え、上野先生、どうしたの?」

「目が血走ってる……」


俺が連れてきた上野先生を見て、クラスのみんなは唖然としていた。


「いいか、やるなら徹底的に本気でやる。俺も本気で演技するし、女装もするし、努力する。その代わり、全員本気でやること。お遊びみたいな雰囲気で劇をするつもりなら、俺は大道具になる」


俺がキッパリと宣言すると、みんなが「おおおお!!」と盛り上がった。

どうやら、最初から本気でやるつもりだったらしい。


そして、ミュージカルと言うからには、上野先生の出番だろう。

今までに見たことがないくらい目を輝かせている。


「かんたくん、歌は?!歌はどうするの?!」

「落ち着いて下さい、上野先生。とりあえずは、みんなの歌の指導をお願いします、俺も合わせるところは合わせるし、ソロのところは何とか頑張ってみますから」

「はぁ~~~楽しみだわ!!」

「生徒より楽しんでますね、先生」


上野先生が喜んでいるので、何よりだ。

母さんに教えてもらったあの歌じゃなければ、植物が育つことはない。

あまり、学校では歌わないようにしていたけど。


今回ばかりは、特別だ。




そして、その日から、俺たちの特訓という名の練習が始まった。


小学生だからと言って、嘗めてもらったら困る。

脚本、照明、音響、大道具、役者。

それぞれの本気が終結すると、どうなるか。


奇跡だって、起こせてしまうものなんだ。



◇◇◇



「かんた~!学習発表会、もうすぐだよな?父さん、有給取って……!」

「あ、来なくていいから」

「なっ!!!!!」


夕飯の時に、嬉々として聞いてきた父さんを一刀両断すると、父さんは床に四つん這いになって落ち込んでしまった。


「かんたが、反抗期……?」

「違うよ。今回のは……見られたくないだけ」

「なんで!!!」

「女装するから」

「女装……?」


父さんが頭にはてなマークを浮かべていた。

これ、説明するのも恥ずかしいんだけど……。


「ママにいは、お姫様なのよね!」

「さくらのところまで、知れ渡ってるのか……はぁ」

「ふふっ、たのしみぃ!」

「え、かんたがお姫様?本当なのか?」

「うん、なんか、配役の多数決で、美女と野獣のベル役になっちゃったんだ」

「なんだって?!!!!」

「まぁ、本気で演じるから、そこまで恥ずかしいクオリティーのものは出さないつもりだけど、流石に父さんに見られるのは恥ずかしいっていうか、」

「ハンディーカム!一眼レフ!!ハイビジョン!高画質!!!!!」

「……こうなることがわかってるから、来なくていいって言ったんだけど、」


父さんの耳には、どうやら俺の声はもう届いていないらしい。

頼むから、アマゾンで無駄遣いするのだけはやめて。

お願いだから。


「来ないでって言っても、来るならしょうがないか……」

「父さん、かんたに本気で来ないでって言われたらショックで寝込む」

「はは、」


そんな堂々と言われても。

もう、言っちゃったけど。


「わかった、来ていいよ。そのかわり、あんまり騒がないでね?」

「うん!!うん!!」

「目立つことは禁止だよ?」

「うんっ!!」

「アマゾンで無駄遣いもしないで」

「うん!!わかってる!!」


本当にわかっているのか、怪しいな。

でも、仕方ないか。


父さんに恥ずかしくないくらいのものを見せなければ。


そう思って気合いを入れたんだけど……。




◇◇◇




「……気合い、入れ過ぎでは?」

「~~~~~っ!!!!」

「先生、言葉が出てません」


上野先生が、なんとメイクまでしてくれた。

ウィッグと衣装を身に纏い、メイクまでされると……結構それなりに女子に見えてくる。


「かんたくん、腰細すぎ……!!」

「この服、ウエストしまりますね……」

「それが入るのが凄いのよ!!はぁ、本当にお姫様みたい!!」


先生が太鼓判を押してくれたので、複雑だけど、少し安心した。

あまりにも見れない女装だったら、いくら本気で演じたところで、ギャグになってしまう。

流石に舞台に穴は空けられない。

俺は鏡に映る自分を見て、苦笑した。


「この出来栄えなら、何とかなるかな……?」


そして、本番直前の練習日。


クラスで初の女装お披露目会をすると、周りが予想外の反応をしてきた。

もっと、騒いでくれるかと思ったのに、みんな無言だ。

俺は、一気に不安になった。


「え、なんの反応もないの?」

「お、おかんか……?」

「それ以外に誰だと思った?」

「…お姫様?」

「はい?」


目がおかしくなったのか?

そう思って周りを見るけれど、みんな目が丸くなっていた。


どうやら、ここに俺の味方はいないらしい。


「嘘、超美人……!!」

「洒落にならない……っ」

「負けた、」

「まさか、ここまで似合うなんて、」

「本当に男……?」

「おかんは、おかんだけど……お姫様だったのか?」

「落ち着け、おかんの性別は、おかんだ!」


落ち着くのは、おまえだ。

性別おかんって、なんだよ。


褒められているのか。

男として、貶されているのか。


ここは、開き直っておこう。

落ち込んでも、いい舞台にはならない。


「満足?」


俺がみんなに聞くと、みんなは全力で頷いた。

まさやんの顔が赤くなっているのが気になるが、気付かないフリをしておこう。


「当日は、とにかく本気を出すぞ」

「「「おう!!!」」」


みんなの意識が最高潮まで高まった。

最後の最後まで、徹底的に練習する。


そして、三日後。


本番の日がやってきた。




◇◇◇




「緊張する……」

「大丈夫だよ、頑張ろう?」

「ねぇ、最初って、なんだっけ?」

「おかんのソロよ、そこから舞台は始まるんだもの……」


舞台袖で、みんな緊張していた。

それは、俺も同じだ。

だけど、覚悟を決めるしかない。


舞台が始まると、俺はベルになりきった。

学校中の人間が、俺が「男」だと言うことは知っている。

だけど、みんな目を疑っていた。


「―――っ」


さぁ、舞台が始まる。


俺は笑顔で、舞台から観客たちを見下ろした。

スポットライトが当たる。

片手には、本と籠を。


俺の歌声が体育館に響き渡る。


練習でもここまで本気では歌わなかったので、同じ舞台に立つクラスメートも、みんな驚いていた。


胸がワクワクする。

まさやんとの息もぴったりだった。

みんなで、劇を盛り上げていく。

俺たちは、舞台の上で一つになった。


飛び交う歓声。

鳴り止まない拍手。


どうやら、俺たちの舞台は大成功どころじゃなかったらしい。

小学校では、伝説となったみたいだ。


上野先生は、号泣していた。


そして、俺の父さんも……。




「父さん、」

「えぐっ、えぐっ、かんたぁ」

「赤バラの花束って……」

「綺麗だよ、ベルぅ……ぐすっ」


目立つことはしないでくれって、あれほど言ったのに。

劇が終わった俺の元に駆け寄って来た父さんは、あろうことか俺に赤バラの花束を差し出してきた。


これ、俺が持って帰るの?

というか、部屋に飾っておくの?


呆れつつも、こんなに泣いてたんじゃ、怒れない。


みんな、写真撮りまくってるし。


舞台は楽しかったけど。

女装は、もうこりごりだ。



「次からは、コーヒーカップの役を希望するよ」



そう言って、俺は女性らしい仕草でお辞儀をしたのだった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ