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我慢は身体に毒でした。


ピピピ…ピピピ…


「……37.1、微熱か」


起きた時から、何となく身体が火照っていた。

だけど、そこまで、寒気がするわけではない。

案の定、熱を測っては見たものの、大したことはなかった。

高熱というわけでもないし、このくらいなら風邪薬を飲んでおけばよくなるだろう。


「父さんたちには、言わなくていっか……、余計な心配かけるだけだもんな」


幸い、頭も痛くないし吐き気もない。

父さんに体調が悪いと言おうものなら、すぐさま休ませられるに決まってる。

ただでさえ、心配性の不安症なのだ。

あまり、心配をかけたくはない。


「明日には、よくなってるだろう」


そう思って油断していたのが、間違いだったらしい。




◇◇◇




「……やばい、頭がくらくらする」


四限目が終わると、途端に視界がぼやけた。

朝からどんどん悪化している。


普段は健康体なだけに、たまにひく風邪は結構重かった。

まだ吐き気はしていないけど、熱は上がっている気がする。


保健室に行くべきか。


でも、そうしたら強制的に早退させられるだろう。

そうなったら、父さんに連絡行くよな……。


父さんに会社早退させるわけにはいかないし、ありがたいことに今日は木曜日。

授業は五限だけで、三時には帰れる。


あと、たった一限だ。

それさえ乗り切って、帰れば、あとは最悪寝てればいい。

家に帰った後に、父さんに連絡して、今日はごはんを買ってきてもらおう。


明日まで酷かったら、病院に行きたいけど……父さん、会社休ませちゃうかな。

一人で病院に行ければいいけど。

保険証とか持っていけば、大丈夫だろうか。


熱でボーッとしているわりに、頭の中はしっかり働いていた。


とはいえ、給食は殆ど食べなかった。

流石に吐いたら困るし、食欲がない。


周りからも心配されたけど、あと一限だから大丈夫だと言って、誤魔化した。


大丈夫、まだ大丈夫。



五限目の授業も終わり、俺は何とかカバンを背負った。

やっと、長い一日が終わった。



(これで、帰れる……)



その時、安心してしまったせいか、立ち上がった瞬間に、身体がぐらついた。


意識が遠くなる。


気付けば、俺は床に倒れていた。



「――!?」

「――!」


周りでみんなが何かを言っている。

けど、何を言っているのかは全く聞こえなかった。

そのまま、静かに目を閉じて行く。


あぁ、倒れちゃったんだ。


俺がそのことを自覚したのは、三時間後の話だった。




◇◇◇




「……ん、……」

「かんた…っ!!」

「ママにい!!」

「父さん、さくら……ここは?」


そこは、病院のベッドの上だった。

どうやら俺は学校で倒れた挙句、救急車で運ばれてしまったらしい。


さくらは大泣きしているし、父さんの顔もぐちゃぐちゃになっていた。


「ごめんね、心配かけて、」

「かんた…っ、無事で、よかった……っ!」

「風邪だったのかな?」

「念のため検査してもらったけど、おそらく酷い風邪だろうって、医者は言ってたよ……それよりも、かんた」

「父さん?」


見れば、父さんの顔が笑っていなかった。

あ、ヤバイ。

これ本気で怒ってる時の顔だ。


「帰ったら、お話しがあります」

「……はい、」


どうやら、拒否はできそうにない。

その後、俺は止めたけど、無理矢理父さんにお姫様抱っこで車まで運ばれて家まで連れていかれた。


家に帰ってから、俺の隣で寝ると言って聞かないさくらを何とか宥めて寝かしつけた。


「で、かんた、お話しだけど」

「起き上がるよ?」

「このままで!かんたは、風邪ひいてるの!」


父さんは変なところで気を使う気がする。

そう言って、無理矢理布団を被せられ、何故か父さんも隣に寝そべって俺の顔をジッとみてきた。


「なぁ、かんた…体調悪いの、自分で気付いてたんだろう?何で言わなかったんだ」

「あと1時間だけ授業受ければ帰れると思ったから、我慢しちゃったんだけど……結果的に仕事早退させちゃったし、みんなにも心配かけたよね……ごめんなさい」


普段は、ここでハグをするところだけど、今日は風邪をひいているので自重する。

すると、父さんが布団ごと俺を抱き寄せた。


「違う、かんた、仕事早退させるとか、仕事休ませるからとか、そんなことは気にしなくていいんだ…、」

「父さん?」

「父さんの一番は仕事じゃなくて、かんたとさくらなんだよ。それなのに、かんたが知らないところで倒れていたりしたら、本末転倒だ。かんたが辛いときに側にいれないなんて、耐えられない」


大好きな人が困っている時に、辛い時に、側にいれないことが、一番つらい。


それは、母さんも言っていた言葉だ。

母さんも昔、そう言われて嬉しかったと言っていたけど……。


そっか。

相手は、父さんだったんだ。


「父さん、」

「情けないかもしれないし、頼りないかもしれないけど、お願いだから、頼って欲しい。かんたとさくらの為なら何でもする……かんたが、倒れたって聞いた時、心臓が止まるかと思った……っ」


母さんも何度か倒れたことがある。

その度に、父さんは死にそうな顔で病院にかけつけていた。


父さんにとって、病院は鬼門なのだ。


「父さん、ごめんなさい」

「そのごめんなさいは、どのごめんなさい?」

「体調悪いの黙っててのごめんなさい」


俺が、今度は自分からギュッと父さんの首に抱きついてそう言うと、父さんは俺の髪を優しく撫でた。


「体調悪いって気づいたら、これからはすぐに父さんに言うんだぞ?絶対だぞ?」

「うん、絶対言うよ。それで、会社休ませちゃったりするかもしれないけど……俺が、倒れたら、父さんもさくらも、悲しむもんね」

「すっごく悲しい!!」


思いっきり頬を膨らませて、そう怒る父さんを見て、少し笑ってしまった。

心配かけたのは、凄く悪いと思っているけどね。


「明日は、しっかり休むこと!病院の先生から薬は貰ったから、後は安静にしてれば治るからな?」

「うん、わかった。ちゃんと休むよ。だから、父さんはちゃんと仕事に言ってね?」

「もう、有給なら取ったぞ?」

「何してるの?!」


だから、言うの嫌だったんだよ!!とは、言わなかったけど、喉まで出かかった。


「薬貰ったんだし、一日家にいて寝てるから、大丈夫だってば!」

「ダメだ!病気の時は、心細いし、誰か傍にいないと心配だ!万が一、今日みたいに倒れたら、どうする?!」

「今日みたいに無理しなければ、倒れることはないよ!」

「もう有給取ったし、会社にも息子が病気で倒れたって言ったら、一週間くらい来なくていいって言われたから、問題ない!」


いや、なんかそれ以前の問題があった気がするけど……。

一週間くらいこなくていいって……父さんの会社、それでいいの?


父さんは、こう見えて、結構頑固者だ。

一度、決めたら早々譲ることはない。


俺は仕方ないと、諦めた。


「……明日は、看病してくれるの?」

「あぁ!父さんのことを独り占めしていいぞ!!」

「はは、」


独り占めはいいけれど、頼むから、台所にだけは入らないでほしい。

コンビニのおかゆを所望します。


「父さんに風邪うつしたら、どうしよう」

「大丈夫!父さん、風邪ひいたことないから!」

「あ、そう言えば、そんなこと言ってたっけ」

「なんでか、昔からひいたことないんだよなぁ。馬鹿は風邪ひかないって、よく言われたもんだ!」


馬鹿は風邪ひかない、か。

でも、父さん、超頭良いよね?

勉強ができる、できないじゃなくて、性格ってことなのかな。


ちなみに、さくらも殆ど風邪をひかない。

健康優良児だ。


俺は、身体は弱くないはずなんだけど。

一年に一度くらい、たまにこうして体調を崩したりする。

今までは、休みの日と被ってたりしたから、ここまで大事になったことはないけど。

今後は、自分の体調管理について、もっと厳しくしていこうと決意した。


「で、父さんはいつまで、そこにいるの?」

「え、かんたと一緒に寝るつもりだけど?」

「風邪がうつらないにしろ、流石にこのベッドで二人は狭いよ」

「大丈夫!大丈夫!……と言うか、本音を言うと、さっきの病院のベッドで目を覚まさなかった時のかんたの顔が瞼に焼き付いて離れなくて、軽く震えが止まらないんだ。頼むから、父さんの精神安定のために、ここで寝かせてくださいお願いします」

「……ごめんって、父さん」


どうやら、軽いトラウマを作ってしまったらしい。

ごめん。

本気で、反省します。


「いいけど、蹴とばさないでね」

「うん!少しでも体調悪くなったら、夜中でもすぐ起こすんだぞ?」

「わかった、その時はちゃんと起こすよ、父さん」


父さんを安心させるために、その背中をぽんぽんっと撫でる。

明日は、大人しく寝ていよう。

そして、早く元気にならなくちゃ。


友達にも、家族にも。

たくさん心配をかけた。


大事な人を、一秒でも早く安心させるためにも。

俺は、自分の身体を大事にするということを学んだのだった。











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