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予想外の訪問者です。


母さんが死んじゃったのが、俺が八歳の時。

あれから三年が過ぎた。


五年生になった俺は、一通り家事を覚えた。

苦手だった料理も、裁縫もできるようになった。

母さんから言われてたから、勉強も頑張ってた。


……つもりだったんだけど。


「これは、マズイな……」


戻されてきたテストの解答用紙を見て、眉を寄せる。

五年生になると、流石に塾に行っている友達との差が見えてきた。


悪い点数なわけじゃない。

だけど、これじゃあ足りないと、俺は思ったわけで。


俺は、意を決して、父さんに話をすることにした。




◇◇◇




「父さん、お願いがあるんだけど…」

「ん?!どうした!かんたがお願いだなんて!何でも言って!!」

「ちょっと、落ち着いて」


予想以上に食いつかれた。

と言うよりも、何故か凄く喜んでる……。


さくらが寝た後に、父さんとリビングのソファーに座った。

父さんは、隣でそわそわしている。

俺は、学校のカバンからテスト用紙を取り出して父さんに見せた。


「これ、この間のテスト」

「80点、82点、65点、92点、74点!うん!いい点数じゃないか!偉いなぁ、かんた」


父さんが俺の頭を撫でてきたので、違う、そうじゃない、と俺は首を横に振った。


「えっと、その勉強は毎日してるんだけど、そろそろ授業も難しくなってきてて……私立の中学に行きたいわけじゃないんだけど、塾に通ってる友達と大分差が出てきてて」

「うん?」

「あのね、つまり、俺も……」

「かんたも、塾に行きたいのか?」

「ううん、それはしたくない。さくらが帰った時に、あまり一人でいさせたくないし、父さんのご飯も作りたい」

「無理しなくていいんだぞ……?かんたは、我慢し過ぎだ」

「我慢じゃなくて、俺がしたいの!さくらに寂しい思いさせたくないし、父さんがコンビニ弁当食べるのも嫌なの」


そうハッキリ言うと、父さんは感極まって俺を抱きしめた。

ぎゅうぎゅうに抱きしめてくるものだから、少し痛い。

そのまま、ひょいっと俺の体を持ち上げて膝に乗せてきた。


「俺の、息子が、世界一、優しい……」

「ハイハイ、泣かないで。それでさ、お願いなんだけど、父さん仕事後で疲れてる中、悪いんだけど……俺に、勉強を教えてくれない?」

「!!」

「本当に疲れてる日はいいから、わからないところだけでも教えてもらえたらって思ったんだけど……だめ?」


おそるおそる小首を傾げながら聞くと、父さんは泣きながら「だめじゃなぃい」と唸っていた。

父さんの頭をポンポン撫でながら、宥めていると、父さんが「でも、三日だけ待ってほしい」と言った。

何が三日かわからなかったが、俺は素直に頷いた。





そして、三日後。

父さんは、何冊かの本を俺に手渡した。


「一応、わかりやすい参考書探してきた。六年生までの内容が入ってるから予習も復習もできると思う。ある程度、俺もこの三日で見返してみたけど、教えられると思うからいくらでも聞いていいぞ」

「父さん……わざわざ、勉強してくれたの?」

「仕事の合間に参考書広げてたら、みんなの話のネタになったよ」


会社を抜け出して、本屋に行ってくれたんだ。

俺のために……。


「ありがとう、俺、頑張るね」

「頼むから、それ以上頑張らないで。家族の前ではもっと甘えてくれ」

「甘えてるじゃん」

「もっと!!父さんは、もっと欲しいの!我が儘言って!!」


駄々をこねる父さんを見て、クスリと笑ってしまった。

こんなところを母さんが見たら、どっちが子どもがわからないわね、とか言いそうだ。


「勉強だって、もう十分だと思うけど、かんたがしたいって言うから……」

「うん、だって、勉強はできて損はないでしょ?」

「ないかもしれないけど!かんたは十分頭がいい子だよ!!」

「そんなことないよ、俺は父さんと違って平凡だし」


キョトンとして言い返すと、父さんは珍しく顔を歪めた。

眉間に皺が寄るのは珍しい。


「かんたは周りのことによく気がつくし、覚えるのも早いし、自分から勉強したいなんて言えるいい子です。頭のいい子です。でもそれ以上に優しくて、可愛くて」

「わかった、父さんもうわかった、いいから、十分だから」

「まだまだ言い足りない!!」

「俺が悪かったから、ね?そろそろお風呂入って寝よう?ね?」


何とかいいくるめて、父さんを風呂に入れた。

俺はと言うと、やれやれと台所で一息いれた。


母さんも、ストレートに愛情表現する方だったけど、多分そこに関しては、父さんの方が上だ。

父さん以上に、真っ直ぐというか、はっきり愛情をぶつけてくる人間は見たことがない。


「父さんからのアプローチが凄かったって聞いてたけど……ほんと、そうだったんだろうな」


俺は苦笑しながら、テーブルに突っ伏したのだった。



◇◇◇




それから、父さんに教わりながら、毎日勉強をした。

結果、俺の学力はみるみるうちに上がっていった。


あ、言い忘れてたけど、俺の父さん頭いいんだ。

確か、すごく。

人は、見掛けによらないというのかな。

小さい頃は、本当に天才だって言われてたんだって。

どれだけ頭が良かったのかは知らないけど。

海外だったら、飛び級してたんじゃない?って、前に父さんの従兄弟のおじさんが言ってた。


母さんが死んだ後は、それこそ抜け殻みたいだったけど、今はバリバリ仕事してる。

会社のことは、あまり詳しく知らないけど、結構優秀なんだって。

これも、人から聞いた話だけどね。


でも、父さんと勉強する時間が増えたのは、よかった。

父さんも頼られて嬉しいのか、三割増しで、デレデレしている。


お陰様で次のテストでは、殆ど90点台。

中には、100点もあった。

苦手な英語も90点を超えた。

さらに、俺たちの勉強している姿を見たさくらが羨ましくなったのか、自分も俺たちと一緒に勉強したいと言い出した。

平日は、夜遅くから勉強を始めるから、さくらはすぐに眠くなってしまう。

妥協案として出したのが、休日の午前中に一緒に勉強することだった。



そして、今は、土曜日の朝十時。

俺たちは、三人で仲良くリビングで勉強をしていた。


「さくらは小学一年生だけど、テストってあるのか?」

「さくらは、満点だよ?」

「え、満点取ったことがあるのか?」

「そうじゃなくて、全教科満点なんだよ」

「へ?」

「さくら頭いいよ。父さんに似たんじゃない?」


さくらの頭を撫でながら、「な?」と言うと、さくらはにっこり笑って「うんっ!」と答えた。


「うちの子は聖人君子と神童だったのか……」


父さんは何やら、親バカ炸裂な発言をしている。

俺はさくらみたいに頭がいいわけじゃないから、努力するしかない。

でも、さくらも勉強が好きそうでよかった。

たまに、俺の参考書を覗いている。

読めているのかは、わからないけど。


多分、さくらは本当に天才型だと思う。

その内、俺がさくらに教えてもらうようになりそうだ。


「さくらは、私立の中学でも入れそうだなぁ」

「やだ!さくらはママ兄と同じ学校行くの!」

「そうなの?」


中学からはママ兄と学年的にかぶらないから一緒には通えないんだけど……まぁ、いいか。

今は、さくらの夢を壊さないでおこう。


俺たちがニコニコしている姿を、隣から父さんが携帯で連写している。

親ばかは相変わらずだな、と思っていた。



その時だった。


「そうだ、新聞取ってくるの、忘れてた」

「あ、俺が取ってくるよ」

「いいから、かんたは勉強してなさい!お父さんが、すぐ取ってくるから」


父さんの言葉通り、俺はリビングに座り直した。

だけど、数分後、父さんが首を傾げながら戻ってきた。


「どうしたの、父さ……」

「なぁ、かんた、お前の友達だって言うんだけど……本当か?」

湯女(ゆな)()おじいちゃん!!」

「え?!本当に知り合いなのか?!」


父さんは驚いていたけど、俺はこの人をよく知っていた。


だって、この人は……。








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