さくらが一年生になりました。
「はーい、かんたもさくらも、こっち向いてー!」
「父さん、早く、早く!」
家族三人で、朝から家の前で写真を撮った。
今日は、さくらの入学式だ。
さくらは、今日から小学校一年生になる。
◇◇◇
「おかんの娘が入学してきたんだって?!」
思わず、頭を抱える。
こんなアホな会話を朝から、もう何度したことか。
さくらが一年生になった。
ということは、当たり前に俺も小学五年生に上がったわけなんだけど……。
同級生たちの会話を聞いていると、本当に進級したのか疑いたくなる。
「俺の娘じゃない。い、も、う、と、だ!」
「めっちゃ可愛いんだろ?!」
「うん、可愛いよ」
「そこは、頷くのかよ!」
「ははっ、おかん、親ばか~!」
「親バカじゃなくて、せめてシスコンだろ」
「シスコンはいいのか?」
「まぁ、いいじゃん!どっちでも!おかんが妹ばかってことだろ?」
「よっちゃんには、もう宿題教えないからな」
「あーーーー!おかん、ごめんっ!ごめんなさい!!」
まったく失礼な。
家族大好きで何が悪い。
俺は、元々こういう性格なんだよ。
家族が仲いいことでたまにからかわれたりするけれど、今更なので、もはや開き直っている。
入学式から数日が経った。
それなのに、こんなに落ち着かないものなのか?
俺の妹がそんなに気になるのか?
次の休み時間に、みんなで見に行こう!なんて、話しをしている。
オイオイ、そこまで気になるのかよ。
「見る必要ないだろ?」
「いや、見たい!おかんの妹なら、なおさら!」
「可愛いなら、なおさら!」
「一年生がびっくりするだろ」
「ちょっとだけ、だから!」
これは、何を言っても聞かないパターンだ。
俺は諦めて、せめて危ないことにならないようについていくことにした。
これじゃあ、引率の先生だ。
授業中、俺は、やれやれと髪を掻きむしった。
◇◇◇
「さくらー」
「あ、ママにい!」
「あ、さくらちゃんのお兄ちゃんだ!」
「違うよー、お母さんだよー!」
「はは、」
周りの子たちも、俺の認識が曖昧らしい。
さくらが俺のところにやってくると、俺の友達は一斉にさくらを見た。
「可愛い!」
「おかんと似て……ないか?」
「さくらは、父さん似」
「そうなんだ!」
「ママにい?この人たちは?」
「ママ兄の友達だよ、さくらに逢いたかったんだって」
「なんで?」
んー、なんでだろうねー。
俺が聞きたいし、知りたいよ。
そう思いながら、さくらの頭を撫でる。
どうやら、クラスで浮いているわけでもなさそうで安心した。
近くにいたさくらのお友達らしき子に、目線を合わせるために俺は膝を曲げて腰をおろした。
「こんにちは、お名前は?」
「え、ま、まゆかです!」
「わたし、ゆきなです!!」
「まゆかちゃんに、ゆきなちゃんか。さくらのことよろしくね?仲良くしてあげて」
「も、もちろんです!!」
「さくらちゃんのママにいさん、素敵……」
一年生とはいえ、少しおませさんらしい。
俺は二人の頭もよしよしと撫でた。
すると、隣からさくらが腕にガシッと捕まってきた。
「ママにい!うわき、めっ!」
「……う、浮気ぃ?」
俺は思わず目をぱちくりさせた。
「どこで習ったんだ、そんな言葉?」
「テレビで言ってた!」
最近のテレビは、教育に悪いな。
と言うか、一年生の吸収力は恐ろしい。
意味がわかっていて使っているのか微妙だけど……。
さくらよ、その言葉は使っちゃいけません。
「おかんが浮気か……」
「よっちゃん、変な噂広めたら、本気で怒るよ?」
「冗談、冗談だって!ただ、おかんってほら、人気あるじゃん?」
「何の人気だよ、おかんとしての人気か?」
「そうじゃなくて、女子から!でも、女子からしてみたら、ライバルが妹って言うのは、大変だろうなーって思ってさ」
「あのな、お前らが思うほど、俺女子から人気ないから」
「嘘だー!」
「おかん、おかんって、言いやすいだけで、別にモテるわけじゃねーよ」
自分で言ってて悲しくなるから、これ以上は突っ込むなと言わんばかりの目で睨むと、さくらが純粋にキョトンとした目で言った。
「ママにい、モテないの?」
「ん?あぁ、モテないよ」
「そうなの?なら、よかった!」
「「「ん?」」」
さくらは相変わらずニッコリと可愛い笑顔で笑っているが、その場にいた友達全員が、一瞬固まった。
もしや、本当にラスボスは、さくらなのか?
その時タイミングよく、予鈴が鳴った。
「あ、そろそろ帰らないと。じゃあな、さくら。帰る時は気を付けるんだぞ?」
「はーい!」
元気よく返事をするさくらを背に、俺たちは慌てて教室へと戻っていった。
当然、その後も俺の妹の話題でもちきりなわけで。
さくらは、いつの間にか、ラスボスとして崇められるようになっていた。
◇◇◇
「あ、ママにい!おかえりなさい!」
「さくら、ただいま」
玄関を開けて、すぐにさくらが迎えてくれた。
いつもは、自分がおかえりと言っていたので、なんだか不思議な気持ちだ。
「ママにい、買い物行く?」
「行くよ。さくらも一緒に行く?」
「行く~~~!!!」
さくらは嬉々として、俺についてきた。
商店街では、俺とさくらが買い物している姿を見て、みんな微笑ましそうにしている。
「あらあら、今日はさくらちゃんも一緒なの?」
「うん!」
「さくらちゃん、小学生になったんだもんね?」
「あら、じゃあお姉さんねぇ!」
「うん、さくら、おねえさんなの!」
近所のおばちゃんたちに、さくらはとても可愛がられていた。
それを見て、俺も笑っていると、あきさんが傍にきた。
「おかんちゃん、さくらちゃんと買い物?」
「うん、さくらが一緒に来るって言うから、ね?」
「うん!」
「仲良い兄弟ねぇ」
あきさんは嬉しそうに笑いながら、俺にさくらと食べなさいと、またチョコレートをくれた。
「あきさん、いつもありがとう」
「今度、うちに遊びにきてねぇ」
「うん、さくらと行くよ。ほら、チョコレートもらったよ。さくらもあきさんにありがとうは?」
「あきおばあちゃん!ありがとう!」
「ん、いいこねぇ、いいこねぇ」
あきさんはそう言って、さくらを撫でて行ってしまった。
「さくら、何がたべたい?」
「おむらいす!」
「じゃあ、今日はオムライスにしよう!」
ご飯は炊いてある。
必要な材料を買って、俺たちは家に帰ろうとした。
すると、さくらが自分も荷物を持つと言い出した。
「え、さくらが持つの?」
「さくらも、お手伝いするの!」
「でも、これ重いし、卵もあるからなぁ……あ、そうだ」
俺は、小さな小分けのビニール袋を切って、中に玉ねぎを一つ入れた。
「じゃあ、さくらはこっち持ってね!」
「うん!!」
「落とさないように、家まで持って帰れる?」
「帰れる!!」
さくらは、キリッと目を輝かせて玉ねぎを運んだ。
俺は、その後ろ姿を見ながら、まるで初めてのおつかいみたいだと思った。
家に帰って、急いで食事の支度をする。
お風呂も沸かして、テーブルに皿を並べていると、父さんが慌てて帰ってきた。
「どうしたの?おかえりなさい??」
「はぁっ、はぁっ、ただいまぁ~……」
「走ったの?」
「間違えて、さくら迎えに行こうとしちゃって、保育園で気づいて、それで……はぁぁ、疲れたぁ~……」
「もう、何してるの、父さん……ほら、ごはん食べよう?」
父さんのスーツをハンガーにかけて、お茶を差し出す。
さくらは、もう食卓について、スプーンを掲げていた。
「おお、さくら偉いなぁ、ちゃんと待ってたのか」
「さくら、もう小学生よ!おねえさんだもん!」
「そうだよなぁ~、ごめんなぁ、パパ間違えちゃったよ」
「ほら、ぱぱもすわって!はやく!」
三人揃ったところで、「いただきます」をする。
今日の玉ねぎは、さくらと一緒にお買いものに行って、さくらが持って帰ってくれたことを伝えると、父さんは感動しながら、オムライスを食べていた。
「うっうっ、さくら成長したなぁ~~~」
「泣きながら食べたら、しょっぱくなるよ?」
「ううう、ケチャップおかわり!」
そんな、おかわりってあり?
俺は苦笑しながら、ケチャップを父さんに手渡したのだった。




