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即興シリーズ

今日は夕陽が綺麗です。

作者:






『今日は夕陽が綺麗です』





そんな文章と、夕焼け空の写真。遮るものは何一つない、穏やかな赤色。



ふと見上げれば。ビルの隙間からオレンジ色の光が差し込んでいる。無機質な針を見ずに夜の訪れを感じたのはとても久しぶりな気がする。

景色に目を向ける暇もないここが嫌なわけじゃない。戻りたいなんて思うこともない。空に向かってそびえ立つ建物や、すれ違うことすら気にもとめない人混みも、窮屈に感じても困るほどではない。世界は今日も流れていくと実感できるから。






何もかもが嫌いだった。都会に憧れていたわけではなく、ここではない『どこか』ならなんでも良かった。



「平和でいいけどなぁ」



君は隣でそう言っていた。穏やかな風が吹いて、雲はゆっくりと流れていたのを覚えてる。


「のんびりできていいじゃんか」

「・・・ 私はそれが嫌なの」



変わらないことが、嫌だった。10年先も、ずっとこのままで、なんて考えたくなかった。時間は流れていくのに、何一つ変わらないなんて。取り残されていると考えると恐怖すら感じた。君と過ごしたあの町は、私が生まれたあの場所は。きっとこれからも、変わらずあのままなんだろう。

進むことも出来ず、朽ちることも出来ない。人は温もりや、安心なんて言葉で表現するかもしれないけれど。私にとっては『停滞』と言うなの敗北だ。 変わらないことが良い? それを否定はしないけれど。私は何もせず、ただ年を重ねるのだけは嫌だったんだ。




だから。捨てた、なにもかもを。親との関係も、友人も。一人で生きていくなんて無謀な考えは持っていない、だけど私はここでまた、一から始めると決めたんだ。





















『そちらの夕陽は綺麗ですか?』



・・・ 君の望むようなのは見えないよ。なんて言ったら驚くんだろう。君にとってはあの町が全て。変わらない、君も。



「・・・ もしも」




捨てた物の中に、一際輝くものがあったとして。そのゴミの塊に手を入れて、それを必死に掴もうとしたら。それは、とても恥ずかしいことですか? 捨てたくせに、未練がましいと言われてしまいますか。でもそれが、もしも。




捨てられないから、ゴミに紛れ込ませて手放したものなら。それでも・・・ 一度手放したならもう、触れては駄目ですか?

君との繋がりを消せないのだから、答えはもう出てる。必要なものなんだ、どうしようもなく。だけど・・・・





『もう、夜だよ』

『ああ、じゃあ今日は見れませんね』




時間は流れる。変わらないものなんてない。あの町だって、気づかないくらいのスピードで。歩くような、速さで。変わっているんだ、私はそれに耐えられなかっただけ。






『そっちの、月は』


『月ですか?』


『今日の月は、綺麗ですか?』











「・・・・ ふふっ」


きっと、気づいてない。少し、言い回しも違うけど。そんなこと気づかないよね、君は。こんなことで、嬉しくて辛くなるのは私だけだから安心してね。




「・・・ 君だけは、変わらないで」



変わらないことが嫌いなのに。今はただ、君が変わってしまうことが何よりも嫌だよ。


















『はい。今日は月が、綺麗ですよ』




そんな文章と、白く鮮やかな満月。













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