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わたしたち……

わたしたちの恋は~キスはわたしから~

作者: 水上翡翠

 

 例のごとく、わたしはいつものカフェで親友とお茶をしていた。話し出すと長くなり、夕方に落ち合ったはずなのに外はもう真っ暗だ。


「それでね、それでね。彼、不意打ちでキスしてきてね!」


「あー、はいはい」


 親友がほっぺを真っ赤にしてうっとりと話してくる。

 うんうん、幸せそうなこったい。親友の彼氏さんは結構かっこつけだが、男らしくて、なんていうかこう、頼りになる!を地でいく人だ。まったくもってわたしの彼氏とは正反対と言える。


「ねぇねぇ、みーちゃんは?みーちゃんは彼氏とキスとかしないの?」


「はぁ?」


 キスとか、のとかになにが含まれているかなんて考えたくない。ていうか、絶対にあり得ないだろうな。

 あぁ、そうとも。正直に言おうではないか。わたしは羨ましい。この幸せそうオーラをまき散らす親友が、羨ましすぎる!なんだよ、ちゅーしちゃったって!わたしの彼氏?あの草食系、いや草にそんな勇気もなければ欲望もないだろうな。は、性欲?なにそれ?てきな。……おいおい、これじゃあわたしが痴女みたいじゃないか。


「え、みーちゃん、彼氏さんとキスしたことないの?」


「ねぇよ、悪いか?」


 おっと、口調がいつも以上に悪いが気にしないでほしい。わたしは苛つくといつもこうなのだ。


「えー、なにそれ、我慢させてるの?かわいそう。」


「は?」


 おい、親友よ、わたしの頭はいま疑問符でいっぱいだぞ?


「え、かわいそうってなに?我慢ってあいつが?え、ないないないない!冬に花火は上がっても、夏に雪は無理なくらいないわーー」


「みーちゃん、そのたとえなに?あ、やっぱいいや。みーちゃん作家だもんね。」


「うん。で、かわいそうって?」


「だって、それさ、みーちゃんが彼氏さんのこと男として見くびってるってことだよね?みーちゃん、ちゃんと彼氏さんのこと男だってわかってる?」


「わたし、女の子を好きになる趣味はありませんが。」


「でしょ?みーちゃんの彼氏さん、聞いた感じ確かに優しすぎてなよなよ感あるけど、でも男だよ?」


 親友よ、男って単語を連呼しすぎだとわたしは思うぞ?


「男の人だったら、しかも彼女もちなら、キスしたくない人なんていないと思うけど。」


「へーーー」


「みーちゃん、棒読みだよ?」


「だってー、今更ーー」


 そう、今更、あいつが男でわたしが女で、そういうことをする関係で、というのがとっても変な感じなのだ。


「みーちゃん、わたしだってなにもしてないわけじゃないよ?みーちゃんも頑張ろうよ!」


「……わたしは十分頑張っていると思うんだけども」


 初デートだってわたしから誘った。そのあとだって。でもそれは、わたしの部活が忙しくて、あいつがわたしのオフの日を知らないからまだ文句はなかった。誕生日も、バレンタインも、時間なかったけどわたしの部活が終わってあいつのバイトが始まる前のほんの短い時間に届けに行った。たいして話すことなんてないし、わたしもわたしでなんか恥ずかしくて、あいつの目を見て話せなかった。

 わたしは基本、人見知りだ。照れが入ると余計に、人の目を見て話せない。


「みーちゃんの彼氏さんいま呼び出せる?会って話してみなよ、ていうか誘惑してみな!」


「……むちゃ言わないで。あいつ今、バイトだと思う。」


「あー、じゃあだめね。」


 親友がため息をついた。ため息をつきたいのはこっちだよ。


「みーちゃん、頑張って」


「すっごく、アバウトだね、りん。」


 もやはお手上げか。わかるぞ、大いにわかる。本当に、拓斗と一年間も付き合っていた元カノさんを尊敬してしまう。

あぁー、こういうときすぐに、別れたいな、別に彼氏とかいなくてもやっていけるし、なんて思ってしまうわたしは女子として終わっているのだろうか。

 ぶっちゃけ、吹奏楽と小説があれば、わたしは生きていける。でも、 


「りんーー」


「なぁに?」


「わたし、もし別れたら吹奏楽やめる。」


「え、なんで!?みーちゃん、吹奏楽大好きでしよ?」


「そうだよ。でも拓斗のことはそれ以上に好きなの。拓斗と出会わせてくれた吹奏楽には感謝してるけど、だからこそ拓斗と別れたら吹奏楽は続けられない。わたし、本当はそんなに強い人間じゃないんだよ?」


 あ、また泣きそうになってきた。やばいな。


「でも、吹奏楽やめたら、わたし生きていけないかも。吹奏楽がないなんて、それこそ色のない世界になっちゃうよ。」


「みーちゃん……」


 親友がうるうるの目でわたしを見つめた。


「みーちゃんにはわたしがいるよ!」


「りん!!」


親友とひっしと抱き合うと、親友のふかふかのお胸に窒息しそうになった。……ちっ、どうせわたしは小さいですよーだ。っと、そういう話ではなかったな。


「りん、わたしちょっと狂ってみるわ。」


「え、みーちゃんなにするの?」


 怖いよ~と親友が怯える。失礼な、わたしは危険なことをしようと言っているわけではないぞ。


「まぁ、見ててよ。」


 わたしはスマホを取り出して、無料通話アプリ、まぁいわゆるラ○ンを開く。

「ちょっと変なお願いしてもいい?、っと。」


 うん、やっぱりバイトのようだ。さすがにすぐに既読がつくようなときには送れないからね。


「あのね……好きって、言って?」


 んでもって、可愛いスタンプ、っと。


「みーちゃん、みーちゃん。」 

 

「なんだね、りんさん。」


「ものすっごく、あざといね。」


 ……なんと、今更ですかい親友よ。


「バレた?」 


「みーちゃん……それなのにどうして進展しないのかなぁ。」


「さぁね、あいつが鈍すぎるからじゃない?」


 ま、いいや。今日はもう帰らねば。なんせもうすぐ期末考査である。三学期のテストは重要度が高い。わたしが通っている高校はそれなりの進学率のある学校なので、手を抜けないのだ。ちなみに、拓斗は違う高校。


「じゃあね、りん。わたしは勉強をしますよ。」


「分かった~。じゃあね、みーちゃん頑張って!」


「分かった、分かった。」


 じゃあね~とりんに手を振って、別れた。





 家に帰っても、とてもではないがテスト勉強をする気分じゃなかった。幸せなそうな親友の顔が脳裏にちらつく。


「あーー、小説に逃げちゃおっかなー」


 んで、結局スマホを開いてしまった。ほんと、馬鹿だ。勉強をしろよ!とわたしのなかの天使ちゃんが言っているが、あいにくと勝ったのは悪魔ちゃんだ。


「創作につかえそうな~、お題探し~っと。」


 ちょうど連載が行き詰まっている。早く更新したいのはやまやまだが、迷いのバレる文章にはしたくない。アマチュアなりのプライドである。


「あ、これよくない?」


 目にとまったのは、ポエムのような一文だ。


《ずっと一緒にいるのが当たり前で、こんなにも大切なことに気付かなかったなんて今更過ぎる。》


「うんうん、わかるわ~。一緒だからこそ、勇気が出なくてね。」


 わたしと拓斗も、ずっとそうだったんだよなぁ。


「続きは……え。」


《大好きな君の隣は、もう僕のものじゃないのに》


 突き刺さった。傷心に、傷心だと思っていた心に突き刺さったぞ!


「そっか、そうだよね。今更の使い方、間違ってたかも。」


 今更そんなべたべたする関係じゃないから。

 違う。

 そうじゃない。


 好きなら、大好きなら!当たって砕けろよ!


「……行かなきゃ。」


 気付けばわたしは家を飛び出していだ。




 拓斗のバイト先は知っている。彼の家のすぐ近くだから。

 さっき送ったメッセージに既読はついていなかった。まだ仕事中なのかもしれない。

 それでも、彼に会いたいという気持ちがわたしを走らせた。


「……拓斗!」


 奇跡だ。

 じゃなきゃ、テレパシーだ。


「美春……!?」


 バイト先の店の手前、公園の脇。彼はスマホを片手に、低い塀に腰掛けていた。


「今メッセージ見て……え、どうしたの!?なにかあった!?」


「え、え……あの。」


 拓斗は本気で心配してくれている。まさか試してみました、なんて言えないのだが。


「あ、あの、拓斗?どうしたのってなにが……」

 

「美春が好きって言って、なんて変なこというから!」


 変なこと………

 ほおぉ?わたしには、似合わないセリフだったと?

 ぶちっと切れて……いないはずだ。そうさ、切れてはいない。すこーし腹が立っただけよ。


「それはごめん。気まぐれだよ、気まぐれ。」


「え、気まぐれ……?」


「そうそう、気まぐれ。」


 ひらひらと投げやりに手を振ると、今度は拓斗はがっくりと項垂れた。しょうがないじゃないか。キスもしてない関係が、もどかしくて、不安になったなんて言えないじゃないか。今どき中学生でもちゅーくらいしているぞ?……うん、今どきの中学生よ、偏見ではない。


「……甘えてくれたのかと、思ったのに……」


「……あ」


 そうだった。甘えるって、たまには頼るって決めていたのに。


「あ、まって、まって拓斗。」


「ねぇ、美春。美春やっぱり、分かってないよね。僕たち、中学のころとなにも変わってないよね?」


 怒気が感じられた。珍しく、拓斗が怒っている。


「ち、ちがう!違うよ、拓斗!」


「なにが違うの?」


「ちがっ……」


 どうしよう。いままで、わたしが彼に突っかかったり、八つ当たりしたりはあった。それでも彼がわたしに起こることはなかった。だから、彼を怒らせたときの対処の仕方がわからない。

 拓斗が起こっている内容は、先ほどまでわたしが思っていたことだというのに、それにも気付かないでわたしは慌てた。


「た、拓斗……」


 どうすればいい。やばい、泣く。やばい。こんなときに泣いたら、卑怯じゃないか。卑怯で悪い女になってしまう。涙がたまり始めている目を拓斗のほうに向けて、わたしはいちかばちかを賭けをした。


「み、美春、なんで泣いて……」


 彼の言葉が切れた。わたしが背伸びをして彼に抱きついたからだ。拓斗の首に腕をまわして………


「もうっ!みんなしてわたしに頑張れ頑張れって、君もちょっとは男気見せやがれよ!」


 と、ぼろっぼろ泣いてやった。ふん、いい気味だ。わたしの涙浴びやがれ、この草食系!


「うわっ、みみみみ美春!ごめん、ごめんってば!」


 案の定わたわたし出した拓斗が、わたしの背中に腕をまわすかどうするか迷っていやがる。しゃきっとしろよ男だろ!?


「拓斗、こっち見て。」


 しゃあないな、もう恥じらいとか知らん。おまえも捨てろよ?こっちゃかき捨てだ!


「……っ!」


 ふわっと触れただけだ。それ以上なんて出来ない。……勇気を振り絞ってキスをしてみた。拓斗はフリーズして動かない。あ、結局、抱きしめ返されてない。……こんの草食系!


「いやだった?ごめんね。」


 反応がない。


「ごめん…」


 まだ反応がない。いやならそう言えばいいのに。だったらすぐに別れる。え、急展開だって?そりゃあそうだろ。彼女とキスするのがいやだってそんな男、わたしは受け付けないね。拓斗の首にまわしていた腕をそっと離そうと……したのだ。でも無理だった。


「い、痛い痛い痛いっ!手加減しろバカ!」


 抱きしめられた。ものすごい力で。さっきまでためらっていたやつとは、大違いだ。が、痛い! 


「ご、ごめん。なんか、嬉しくて。」


 ちょっと腕が緩んだ。顔をみると、照れ照れと笑っている。……む、可愛いから許してしまいそうだ。


「美春……」


 拓斗が優しい声でわたしを呼んだ。じっと見つめ合う。死ぬほど恥ずかしかったが、ここでそらしてはいけないことくらい。恋愛初心者なわたしにもよくわかった。ふわっと、唇が触れた。


「……恥ずかしい、拓斗。」


「それは、僕もだし。ていうかその言葉、なんかいいね。」


「……なにが」


「えー、なんでもー」


「む……」


 また、キスされた。キスで黙らせる、とはよく言ったものである。しかし、小説のキスシーンを少し見直さなければならないな。こんなに、こんなに恥ずかしいものだなんて知らなかった。


 今が夜で、ここが人気のない公園で良かったと思う。もうしばらく……もうしばらく、こうして幸せに浸っていれそうだ。



 やっと、また一歩、進めたわたしたちの一コマ。



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