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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

私の後輩

作者: ささみし

「せんぱーい」

月曜日の廊下に底抜けに明るい声が響く。

声を無視して歩き続けていると、声の主は後ろから猛ダッシュで私を追い抜いて振り向いて

「おはようございます!今日は朝から先輩に会えて幸せです」

満面の笑みを浮かべて歯の浮くようなセリフを言った。


「ああ、うん、おはよう…」

私は朝が苦手なので、そのテンションに合わせるのは辛い。いや朝じゃなくても大体こんな感じだけど。

「あのですね、今日は夢に先輩が出てきて朝からすっごい嬉しかったんです。だからきっと良い事あるなって思ったら、朝の占いで恋愛運最高だったんですよ!だから私と付き合ってください!」

「…ごめん、眠いしもう授業始まるからまた後で。っていうかお前は1年の教室に帰れ。」

「はーい。じゃあ後で返事聞かせてくださいね!」

予鈴のチャイムが鳴ったところで、ばたばたと騒がしい音を立てて自分の教室に帰っていった。


「朝から凄いねー。いきなり告白とか胃もたれしそうだわ。」

と友人の圭が呆れながら声をかけてきた。

「あ、圭。おはよ。…告白?」

「おいおい、あんた聞いてなかったのかよ。なにげに酷いな。そしておはよう」

そういえば付き合ってくれとかそんな事を言われた気がする…。そうか、あれはそういう意味だったのか。頭がぼーっとしていたので適当に流してしまった。

んー、告白かー。確かに今までも好きだのなんだのと言われる事はあったけど、「付き合って」なんて言われたのは初めてだ。たぶん。

私も「後で」と言ってしまったからには何かしら返事をしなきゃダメなんだろうなー。うん。


教室の席に着いて考え事をしていると、一時間目の授業が始まった。


バシッ!

音と衝撃を感じて顔を上げると、眩しい光とともに圭の姿が目に入ってきた。

「…はっ」

「はっじゃねえ。もう昼だよ!」

「まじかー。うぐ…寝すぎて首が痛い。…私としてはまだ一時間目のつもりだったのに。これがタイムリープか。」

「先生も何度か起こそうとしてたけど全然反応なくて諦めてたよ。タイムリープできるもんなら戻って授業受けてこい。」

「だが断る。」

それにしても、もう昼休みとは…。どうしようかな。

「先輩、ご飯食べましょう。」

「うわっ、お前いつの間に。忍びか!」

「いいですねー忍者。私も先輩の忍になって邪魔なやつらを排除しましょうか。」

「物騒な事を言うんじゃない。…やりかねないところが怖いよ。」

「やだなー、リアルにそんな事したら犯罪者ですよ。だいたいそんな先輩に害を加えそうな人なんて先輩の周りに居ないですし。実際やるとしたら常に影から見守るとか先輩の部屋の天井裏に住むとか?」

「それストーカーだし犯罪だバカ。」

「同意があるから大丈夫です。」

「いつ同意した…?」

「ところで先輩はお弁当ですよね、どこか外で食べませんか?…あ、圭先輩も一緒に行きます?」

「…いや私は遠慮しとくよ。その夫婦漫才に入る勇気はないから。どうぞお二人で。」

そう言って圭は隣のクラスの友達のもとへ向かった。なんかちょっと引いてような気がするが、気のせいだろう。


幸いにして木陰のベンチが空いていた。

昼休みの人気スポットなのだが、今日は季節外れの暑さのせいか、外に出ている人が少なかった。

実際、弁当を食べているとじっとりと汗をかいてきた。日陰とは言え、蒸し暑いのはどうにもならない。

「暑いな…」

「そうですか?私あんまり汗とかかかないので気にならないですね。」

確かにいつも涼し気な顔をしている。私は結構汗をかく方なので羨ましい。腕を触ってみると本当に汗一つかいていないようで、サラサラとした触り心地だった。

「せ、せんぱい!?急にそんな、そんなところ触られたらっ!ひうっ」

「変な声出すなよー。腕触ったくらいで…。」

「だって、…先輩に触られた事なんて殆どなかったですし」

「そうだっけ。そうかも。へー、お前自分からはぐいぐいくるくせに、不意打ちに弱いのか。」

「そう言われると、なんかヘタレみたいで不本意ですよ!」

「まあまあ。あ、自分からと言えば、今朝の話だけど。」

「今朝?なんかありましたっけ。」

「ああ、付き合ってくれって言ってたじゃん。あれね、良いよ。付き合おう。」

「……へ?」

「だから、付き合おう。」

「付き合う?どこか行くんですか?」

「おい、その手のボケは私が言う側なんじゃないのか…。だーかーらー、私の事好きなんだろ?」

「すっ、好きです!…大好きですよ!?」

「私もお前の事が好きだし、付き合ってなんて言われたの初めてだったし…。嬉しかったし。だから付き合おうって言ってるんだよ。」

「えっ、えっ、いま、私のこと好きって?先輩が私のこと好き?…幻聴?なにこれ…?夢?…痛い。夢じゃない?」

ぼそぼそと独り言を言ったかと思ったら、両手を顔にあてたりほっぺたつねってみたり…。なんか意外な反応というか、可愛い。なにこの可愛い生き物。

次第に顔が赤くなって、耳まで真っ赤になったかと思ったら、涙をぽろぽろと流しはじめた。

「えー、ちょっと…、大丈夫か?」

「だ、だって、先輩、いきなりそんな事…頭混乱して…」

「だから、朝告白してくれたから、その返事をしたんだよ。もしかして冗談だったのか?私としては結構考えたし、それで、その、恋人になれたら良いなと思ったんだけどな…。」

「冗談じゃないです!好きです!恋人にしてください!」

涙で濡れた真っ赤な顔を私にむけてそう答えた。

「おう、じゃあ恋人だ。」

良い返事をもらったら嬉しくなってしまって、思わず目の前の身体を抱きしめていた。

「ふあっ、せんぱいぃ」

小動物のようにきゅっと縮こまっているのが可愛くて、背中いっぱいに腕をまわして強く抱きしめる。離したくない。

さっき汗をかかないと言っていたけれど、今はしっとりと湿った感触がする。それだけ慌てさせてしまったのだろう。

「せ、せんぱい、あの…私、汗かいて…すみません…」

「いいよ、大丈夫、私も汗かいてるし」

そう言ったら、おずおずと私に手を回してきて、互いに抱きしめあう形になった。

今日は季節外れの陽気で、じっとしていても汗が滲んでくるような不快な気温だったけれど、この体温はずっと感じていたいと思った。


昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴る。

まだ離したくないな…。

「あの、先輩…、もう昼休み終わっちゃいますよ…」

「いいよ、そんなの。」

「そ、そろそろ限界です…。暑いです、先輩…。」

しぶしぶ腕を離すと、二人の汗で制服がじっとりと濡れていた。

「あー、汗で透けて…なんかエロいね。」

「せ、先輩!?なんかキャラ変わってません!?」

「そうかな。」

「そうです!なんだろ、もー…。あー、えっと、授業始まっちゃうので…また、後でっ」

そう言うと、走って行ってしまった。暑いのに、元気良いなあ。

なんだか気が抜けてしまって、ベンチに横になった。

そよ風が吹いて汗が引いていく。気持ちいいなあ。


「…先輩、先輩」

「ん、寝てた…?」

「まだここに居るとは思いませんでしたよ。もう放課後ですよ?」

「なんと。今日は午前中も寝てたし、全く授業受けない一日だった。」

「大丈夫なんですか、そんなふうで。」

「まあ、いつもはちゃんとしてるから大丈夫だよ。ところで(しおり)。…って恋人になったんだし、こんな感じで名前で呼んでもいいかな。」

「…っ、不意打ちはずるいですよぉ…。」

栞の顔がみるみる赤くなっていく。

「じゃ、じゃあ私も、さ、(さくら)先輩って呼びますよ!?」

さらに顔を赤くして言うものだから、ちょっとからかってみたくなる。

「それじゃあ長いんじゃない?桜って呼んでいいよ。」

「先輩に対して呼び捨てなんてできませんのでっ!」

「わかった。じゃあキスしよう。」

「キっ…!?話の流れがおかしいです!だいたいキスなんてまだ早いです!私、高一ですよ!?そういうのはもうちょっと大人になってからでしょう!?」

「なにそれ、栞は何時代の人なの?」

「いいでしょう別に!…だいたい先輩は恥じらいっていうものが欠けてますよ。キスっていうのはですね、付き合い始めて徐々にお互いの事を知っていって、ロマンチックなシチュエーションになったときに初めてするものなんです…!」

「んー、私達はお互いの事知ってるし、付き合ってるし、私は栞と一緒ならいつでもロマンチックなシチュエーションだよ。だからキスしよう。」

「だ、騙されませんよっ!とにかく今はダメです!…お昼食べてから歯も磨いてないし汗もかいてるし臭いとかあるかもだし…」

栞は小声でなにやらつぶやきながらこちらに背を向けた。

「ん?なに?よく聞こえなかったけど。…まあ栞がそう言うなら我慢するよ。」

「…やっとわかってくれましたか。んぐっ!?」

私が諦めたと思った栞が気を抜いてこちらを振り返ったとき、背後に接近していた私はすかさず栞の唇を奪った。

「なっ、なにするんですか!!」

「なにって、キスしたんだよ。」

「そういう事を言ってるんじゃなくてっ!…あーファーストキスだったのに。こんな適当な感じでするなんて酷いです…」

「ファースト…やった!じゃなくて、えーと、ごめん…。でも今やっとかないと次いつできるかわかんないじゃん。栞ってなんか奥手…初心…ヘタレ?だからずっとおあずけくらったままになりそうだったし。」

「へ、へたれ…。こんなつもりじゃなかったのに…私のビジョンがぁ…」

「栞が私の事をどういう人だと思ってたかはともかく、恋人同士になった以上、私は栞とやりたいこと我慢しないでヤるから、そのつもりでいてね。」

「ヤる?いまヤるって言いました?なんか変なニュアンスを感じるんですけど!?」

栞は慌てる姿も可愛い。たぶん冗談だと思っているのだろうけど…。


いつも私のことを慕ってくれた後輩にいつからか私は欲情していた。

その気持ちを隠すのは大変だったけど、栞はニブいから気づかなかったみたいだ。

ずっと今日みたいなチャンスを狙っていたのだ。私に「付き合って」なんて言ってしまったのが運の尽き。

今は混乱しているから大丈夫だけど、冷静になったら私から離れてしまうかもしれない。そうなる前に私から離れられないようにしないとね。

ずっとずっと、死ぬまでそばに居てもらうから。

ああもう、私の栞は可愛いなあ。

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