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ベーコンレタスな旦那様  作者:
公爵家編
5/8

閑話 ショーザック・フィルイールの事案帳 Ⅰ



「アルサンドラ・ディ・ドゥールと申します。よろしくお願いします」


本物の蜂蜜のように美しい髪を揺らして、義理の妹となった東朝の王女は頭を下げた。


「フューリーです。よろしくお願いします」

「……ショーザックです」


兄妹揃って挨拶をするか、いささかぎこちない。

ショーザック自身も女性に対して腰が軽いと言うわけではないし、妹も初対面で積極的なタイプではない。仲がいい友人とはベタベタするが、あまり外部の人間と接触をしないからだろう。

その夜は父母も含めて五人で夕食を摂ったが、両親が話しかけるばかりで自分たちはほとんど話さなかった。


「アルサンドラ様って本当は王女じゃないんですって」


夕食の後、ショーザックの部屋にやってきたフューリーが言う。


「お父様とお母様のお話を盗み聞きしたんだけど、うちと同じ公爵家のご令嬢だそうよ」

「……盗み聞きはやめろと言っただろう」


フューリーはしょっちゅう人の話を盗み聞きしてくる。そのためか、情報が異様に早く手に入るようで、度々報告してくるのだが、自分も罪を共有しているようで心苦しい。


「いいじゃない、本当に聞かれちゃ困る話なら盗み聞きされないように話せばいいのよ」


盗人猛々しい妹の言葉に頭が痛む。


「それより、俺は勉強するから自分の部屋に帰れ」

「なんで、アルサンドラ様が王女として嫁いでくるかっていうとね」

「おい」


ショーザックの言葉を軽く聞き流してフューリーは続ける。


「一人だけいた王女様が亡くなったから、その身代わりなんですって。かわいそうよね」


元々、公爵家に来るのはフューリーと同い年のレイサンドラという名の王女だと聞いていたので変だと思った、とショーザックは納得する。


「公爵令嬢として暮らしてきたのに突然王女様になって、しかも他の国に嫁がなきゃいけないのよ。私も同じ公爵令嬢だけど、絶対嫌だわ」


そうか、フューリーが東朝の王子に嫁ぐようなものなのか。

はたと気づいて、もう少し優しくすればよかったかと後悔する。

今日はろくに話すことすらできなかった。そんなでは、約半年間暮らす公爵家と上手くやっていけるか、さぞ不安なことだろう。


「選ばれた理由がね、王家の血を引いていて、髪の色も王族のものだからなんですって」


初対面で目を引いたあの髪が、ただ綺麗なだけのものではないと気づいて、記憶の中の蜂蜜が寂しそうな色合いに変わる。



唐突に、コンコンとノックの音が響いた。


「どうぞ」

「おい、俺の部屋だぞ」


フューリーが勝手に返事をしたのを咎める。


「あの、アルサンドラです」


噂をすれば何とやら。

本人が部屋にやってきた。手に何か箱と大きな袋を持っている。


「大したものではないんですが、お世話になる公爵家に御子息と御令嬢がいらっしゃると聞いたので……」


おずおずと妹に差し出したのは大きな袋。ショーザックにはお菓子でも入っていそうな大きさの箱である。

フューリーは開けてもいいかと聞いて、早速中身を見ている。


「お兄様、見て‼︎ ショコラベアよ‼︎」


きゃあっと悲鳴をあげてフューリーは大喜びだ。


「子供っぽいかもしれませんが、気に入らなかったら鬱憤を晴らすために殴るなり蹴るなりなさってください」


……公爵令嬢に何て提案をするのか。

心の中でつっこむが、もらった本人は嬉しくてたまらないらしく、一抱えもあるチョコ色のぬいぐるみに力いっぱい抱きついていた。


「あの、ショーザック様もよろしければ開けてみてください」


アルサンドラに促されて箱を開けてみると、中身は高級感溢れるペンと革の手帳だ。


「これは東領のブランドの……」


今度西領に出店する予定の東領の高級ブランドの文房具だ。

いち早く手に入れた同級生がその使い心地を自慢していたのを思い出す。


「東領のブランドのものばかりで、お気に障ったら申し訳ありません」


その重厚感に感動していると、アルサンドラが恐縮したように言う。


「まさかっ。こんないいもの……」

「ありがとうございます‼︎」


ショーザックの言葉を遮ってフューリーが言う。


「どんな人か不安だったけど、優しい方で安心しました‼︎」


ちょろい。

単純な妹に呆れる。


「これからこの子と一緒に寝ますね。あ、あの……」


フューリーが興奮したのか真っ赤な顔をして、アルサンドラを上目遣いに見る。


「あの、よければ一緒に寝ませんか? アルサンドラ様もここで初めての夜で寂しいでしょう? 私もアルサンドラ様と色々お話ししたいです」


アルサンドラは目を見開いたあと、照れ臭そうに笑って了承する。


「それではお兄様、おやすみなさいませ‼︎」


バタンっと乱暴に扉を閉めて、妹は去っていった。



* * * * * *



翌日、隣のクラスで初等部から仲のいいユリアンとキルモに夕べの話をした。


「フューなんてすっかり懐いてさ、今日の朝には『お姉様っ』だぜ。アルサンドラ様はまだ学院に通わないから、行きたくないって駄々こねるし」

「それはよかったですね」


ユリアンはにこにこと笑う。


「僕も義理の姉がいい方のようで安心しました。トゥーファ兄上は不器用ですから」

「多分悪い人じゃないな。突然、他国に嫁ぐことになって、あんなに気を配れるんだから」


甘やかされた御令嬢なら、当たり散らしてもおかしくない。


「でも、義理の妹が突然出来るとか俺がこの間ショーザに貸した小説みたいだなっ」


キルモが目をキラキラさせていう。


「ああ、この間読んでた大衆小説ですか」


大衆小説とは、元々庶民の間で流行っていたもので、最近貴族の子息の間でも密かに流行り始めている。

キルモが貸してくれたのは『俺に妹なんていない』という題名の本で、突然義妹が出来た子爵子息が主人公の物語だ。


「あれの主人公みたいだよなー」

「どんな物語なんですか?」


『俺に妹なんていない』を読んでいないユリアンにキルモがあらすじを説明する。

主人公のデリックの家に、突然義理の妹のチェリーがやってきて、恋に落ちるという話だ。

ショーザックもまた読み終わっていないので、結末は知らない。


「ユリアも読む?」

「僕は遠慮しときます」


キルモが布教活動を試みるが、ユリアンはあっさりと断る。


「えー、面白いよー?」

「今、読みたい本が溜まってるんですよ」


興味を持ったキルモが今は何を読んでいるのかと尋ねると、


「クレメンス王の伝記ですよ」

「……誰それ」

「大陸を実質統一したヘネルリクス帝より前の、まだシルファイド王国だった時代の王の一人です」


歴史に興味のないキルモは苦い顔をする。

その様子にユリアンと顔を見合わせて苦笑いしていると、ガタガタと机や椅子を動かす音が聞こえてきた。


「そろそろ朝のレンシの時間だな。キルモ、教室に戻るぞ」


レンシとは連絡指導の略で、朝と帰りに担任から諸連絡を聞いたり提出物を集める時間のことだ。

キルモとショーザックは七組なので、戻らなければならない。


「じゃあ、またな」


と言って、キルモと席を立つ。


「そういえば、『オレイモ』読み終わった?」


教室に戻る道すがら、キルモが聞く。


「まだ途中だけど」

「早く読んだ方がいいよ‼︎」


拳を握って力説される。


「せっかく、デリックと同じシチュエーションなんだし‼︎ 面白いよ‼︎」

「今家だから、帰ったら読むよ」

「読み終わったら続きも貸すからね‼︎」


それと、と教室に入りながら、キルモが続ける。


「新しい妹さん、アル……なんとかさん?」

「アルサンドラ様な」

「そう、その子ね」


ショーザックをピッと指差す。


「きっと、不安だろうから話しかけてあげた方がいいよ‼︎」


言い終わると、キルモは自分の席に戻って行く。

なんだか楽しそうな友人の様子に呆れながら、ショーザックも自分の席に座った。



* * * * * *



その夜、寝る前になってようやくショーザックはキルモの言葉を思い出す。

『俺に妹なんていない』は本棚に入れっぱなしだし、アルサンドラとも昨日と同じく喋っていない。

フューリーと会って二日とは思えないほど打ち解けていたが、ショーザックはほとんど話していない。


まあ、フューと楽しそうだからいいか。


と思いながら、ベッドに入るのだが。

それから数日、アルサンドラとはほとんど話せないままだったのである。




本当は一話で終わるつもりだったのですが、フューリーと仲良し三人組のおかげで、次話まで伸びます(もしかしたら、もっと伸びるかも……)


では、今回の登場人物紹介


ユリアン・エク・ドゥール

……妾腹の第四王子。敬語がデフォルト。


キルモ・ハイドル

……ハイドル子爵家の次男。天然。



ブックマークや評価をありがとうございます‼︎

また評価して頂けると、やる気がでます笑



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