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九話 勇者四条

「殺してやる、今度こそ。そして島村を取り戻す」

「やれるものならな、雑魚め。それと島村、あの少女は光魔法の洗脳解除魔法すら効かなかったが彼女は俺が必ず救う。悪はすぐに退場しろ」


 黒城と四条――魔王と勇者は今ここで、遂に対峙した。


「魔王……さま?」

「勇者様……」

 

 双方の間で交わされる暴風のごとき殺気に両陣営の付き人達は動けずにいた。

 遠くから鳥の鳴き声と風の音が聞こえるほどの静寂が数秒間流れる。


「睨み合っていても仕方ない。いくぞ、悪を討ち平和を俺たちの手に!」


 そして、それは勇者である四条誠一郎によって破られた。

 彼は光魔法――勇者にのみ使える魔法によって双剣を召喚し、黒城へと襲いかかる。


「勇者様、私達も続きます! みんな!!」

「了解……撃ち殺す」

「いくぜ! 魔王の首を屋敷の飾りにしてやら!」


 四条の仲間らしき三人の少女達のうち、魔法使いらしき者が号令をかける。

 そして、それと同時に他の少女達も四条に続いて、ある者は黒城へと突撃し、ある者は遠隔武器を黒城へと向けた。


「セイって呼べっていってるだろ、勇者様じゃなくて」

「あ、ご、ごめんなさい」

「ったく、俺はあまり堅苦しいのは苦手だからな」

「まったく、理恵はちょっとお固いのが欠点よね」

「あなたは柔らかすぎるのよ、彩音」

「はは、喧嘩してる場合じゃないぞ。続きは奴を殺してからだ」


 仲間たちと勇者である四条の仲は会話からして良好なのは間違いなかった。

 

「イチャつくな!」


 それが黒城には気に入らない――鬼畜外道のいじめっ子である四条が、そんな罪など持っていないかのごとく幸せを与えられるなど。

 故に黒城は最初に一太刀には狂気のごとき憎しみを込めた。


「お前が幸せになって……いいはずがないだろ!」


 普通の剣や盾ならばたとえ防御しても、武具ごと真っ二つになるほどの一撃。

 しかし、勇者四条はその一太刀を光魔法に召喚された双剣で受け止めた。

 そして、再び双剣の暴風の如き攻撃と黒城の両手剣は激しく打ち合う。


「ふん、そんなつもりは無いんだがな。ここにいる以上、俺も現世で死んだわけだしな。まあ地を這う鼠には高みにいる人間の思考など到底理解できないだろうがな」


 そして、四条は現状打開と反撃にために光の魔法の呪文をその口で紡ぐ。


「裁断――ジーザス・フラッシュ」


 その魔法の効果か突如四条の剣が光りだし、それと同時に黒城の体中から血が噴き出た。


「鍔迫り合いだけで相手を殺す裁きの光……光……魔法か。ふん、お前らしいな」


 片や地元権力者の嫡男で人気者だった四条。

 片やいじめられっ子で四条の卑劣な策略で評判も悪かった黒城。

 光と闇。


「ならば我は光をも飲み込み、お前を殺し決着をつけ、そしてその時こそ真に最強の存在として君臨する!」


 もはやいじめの復讐だけではない――自分の弱さの象徴とも言える奴を惨殺して事こそ、はじめて自分は最強の存在として君臨できるのだ。

 魔王再生力によって傷が治っていくのを感じながら、黒城はそう強く思っていた。


「傷は治させません。紫電――サンダーボルト」

「いくぞ、お前の首をとってやるぜ!」


 しかし、それを待つ勇者チームではない。

 先ほど、理恵と呼ばれていた少女による魔法攻撃と四条が連携し黒城に襲いかかる。

 一歩間違えれば同士討ちにもなりかねないその連携を絆の力だろうか、四条と魔法使いは難なくこなしていた。

 

「よし、奴らの仲間が島村から離れた。神崎、隙を見て島村を救助、それから雑魚を排除しろ! こちらはどうにでもなる」


 しかし黒城も雷撃と剣撃に耐えながら、神崎に指示を出す。


「はい、魔王さま」


 黒城は、神崎を島村の奪還と取り巻きと戦わせる事で四条とタイマンに持って行こうと図っているのである。

 

「まて、そっちには行かせんぞ、邪悪な小悪魔め!」

 

 そして、事は思い通りに動いた。

 彩音と呼ばれていた剣士の少女が神崎の救助を妨害しようと黒城の隙を伺うのをやめた。


「闇魔法をくらえー!」


 しかし、神崎は強い。

 たかが一人の女剣士では神崎を止める事は出来なかった。

 神崎は闇魔法で剣士を吹き飛ばし、島村へと背中の小さな羽で飛行し迫る。


「ぐっ……」



 しかし、敵も馬鹿ではない。

 一人で無理なら二人――弓の少女が剣士を援護するために神崎に弓矢を向ける。


「大丈夫……私が援護……撃ち落とす……」


 弓の少女はまるでマシンガンを撃つかのごとく、とてつもない早さで矢をつがえ雨のごとく大量に撃つ。

 それを神崎は全て回避。


「えへへ、そんなの当たらないよ」


 しかし、神崎が矢の回避に気を取られた一瞬の隙を突き女剣士が神崎に切り込んでくる。


「うらあああ、消し飛べ!」

「うわぁ!」


 神崎は剣撃の直撃は回避したが、それによって飛行バランスを崩し失速。

 彼女は落下し、地面に強く叩きつけられた。

 

「神崎!」


 黒城は自分の幼馴染に似ている神崎が傷ついた事に心が揺れ動く。

 ここ数ヶ月の戦いでは、彼女の側には常に最強である自分がいて、彼女はそのサポートだった。

 また、神崎自身もかなり強かった事から彼女が今日ほど傷つく事はなかった。

 それ故にその心のゆらぎは戦闘中においては致命的と言えるレベルとなる。


「おっと、余所見している暇はないぜ。何、あの島村という少女も神崎とかいう小悪魔も俺がちゃんと生かして捕らえて改心させ、悪の道から足を洗わせてやる。だからお前だけ死ね!」


 黒城が神崎に気を取られた一瞬の隙を突き、四条は黒城の心臓を一突きした。

 

「ぐぉ……がはっ」

「なんだ、やっぱり弱いな。強い言葉ばかり使うものだからてっきりもう少し強いものかと……」


 その一撃によって、黒城は噴水のごとく鮮血を吹き出し地に倒れ伏した。


「ま、魔王さま!」


 そして魔王が倒れた事に神崎が動揺する。


「おっと、隙あり! 死なない程度に死ね!」

 

 そして、その隙を逃す女剣士と弓使いではなかった。


「ぐ……あぁ……ごめん……なさい、魔王さま」 


 多数の矢と剣の一撃を受けて神崎も地に膝を突いた。

 彼女は致命傷こそ外していたが治療しなければいずれは死ぬ程度の傷を追っていた。

 そんな彼女に対し、四条は優しく微笑みかけた。


「さあ、一緒に帰ろうか」


 それはまるで親しい恋人に向けるような甘く優しい笑顔であった。


               ☆


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


 島村葉月は黒城と神崎が血を吹き出し、倒れた姿を見て自身の弱さを嘆いていた。

 どうして、また負けてしまったのか。自分が屑なせいで魔王様が大変な目に。

 気が付くと島村は嘆きと悲しみの涙が自身の頬を流れていくのを感じていた。

 しかし、魔法は使えない――魔法封じの手枷と足枷を島村はされているからだ。


「嫌……やっと見つけた居場所が……」


 呪う、呪う、島村葉月は自身の弱さを呪い続ける。


「大丈夫、俺がちゃんと居場所を用意してあげるから」


 神崎をお姫様抱っこして、四条が島村の前からやってくる。


「黙れ…………お前なんて私の父と同じ……」


 島村にとって、その笑顔、その優しい言葉は怒りを呼び起こす要因にしかならなかった。

 所詮、四条は島村の闇を認めず、抑えこもうとしているに過ぎない。

 形こそ違うがそれは彼女の父と同じ――世間にとっての正義であり、彼女にとっての敵。

 本当の自分を決して認めないどこにでもいるゴミクズ。

 故に許せない――そんな奴には従えない。

 島村はそんな怒りを抱きつつ、憎しみの視線を勇者一行に向ける。

 それに対して、少女の仲間たちはむっとした顔で返した。


「はは、まあ仲良くしていこうじゃないか」


 そしてニコニコと笑う四条誠一郎。

 大抵の女なら落ちそうな爽やか笑顔である。

 

「…………」


 一方、メガネの少年は戦闘中、そして今も無言を貫き通していた。

 その目は死んだ魚のように生気がなく、常に四条達を見ている少女達とは違って遠い空を無感情に眺めていた。


「それじゃあ、馬車まで帰ろうか。みんな、島村ちゃんと神崎ちゃんは丁寧に扱うんだよ」

「はーい」


 嫌だ――そう島村は思うが、無常にもメガネの少年にお姫様抱っこされてしまう。

 激しい嫌悪感とここにいる全てを皆殺しにしたいという地獄のごとき殺意が止まらない。

 憎い、憎い、復讐――しかし、何も出来ない現実に島村は絶望するしかなかった。

 しかし、その時である。


「魔王は……死なず」


 突如、神崎が普段の幼く可愛らしい声とは真逆の、ドスの効いた凄みのある女帝のごとき声でそう呟く。

 そして次の瞬間、異変は起きた。

 一本の黒色の光が四条の心臓へと一直線に飛来する。


「ぅっ、な、なんだ」

 

 四条は辛うじて直撃は避け、腕に当たるだけで被害を済ませた。

 しかし、それだけでは終らない。


「お、お前は……」


 流石の勇者四条誠一郎も驚き呆けたような声をあげた。


「我が名は魔王黒城。もう二度と我から奪わせはしない。神崎と島村、ただのいじめっ子のお前には過ぎた者だ。故に真の鬼畜外道である我に返してもらおう」


 四条たちの前に傷ひとつない魔王黒城が威風堂々の直立不動で君臨していたからだ。

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