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八話 ツワモノ


 ムッシュの宿の前で黒城と幽霊男爵は立ち話をしていた。


「明日には出発だ。男爵、出発のための諸々の準備はできてるか?」

「もちろんです。逆に実体を持たぬ身である俺には、これくらいしか出来ることがありませんから」

「はは、裏の仕事も大切だ」

「お褒めに預り、至極恐悦」


 休息は二泊三日、そしてこの日は二日目。

 黒城達、魔王軍は明日にはここを出発しイサカへと進軍する予定であった。


「しかし、次のイサカは今までの中でも一番の大都市。おそらく守りも相応のものかと」

「まあ、問題はないだろう。そもそも、街を落とすだけなら我ら四人で事足りる。防衛を始めとする占領後に必要な諸々のためと、後は我が少し楽をするためだな」

「はは、それもそうですねな。では俺は別の所で少しばかりの雑用指示を」

「まかせた」


 黒城と幽霊男爵は約束された勝利を思い、明るく話し合う。

 それも当然――それまでの街でまともに抵抗出来た所など一つもなかった。

 全てが豆腐のごとく、すぐに落ちていった。

 そして、その全てが黒城達、魔王軍によって略奪、殺戮され、生き残ったものは彼らの暗黒支配に置かれた。

 

「ククク……ふははは。我に敵無し。これからもね」

「うん、そうだね魔王さま」


 黒城が万能感で良い気分で高笑いしていたその時である。


「ま……おう……様、で、伝令」

「わっ、血だらけ。一体、どうしたのかな……」


 突如、黒城の前方から全身傷だらけで片腕のないゴブリンが駆け寄って来た。


「何事だ」

「突如……敵が西門……島村様のみ孤軍奮闘……しかし、芳しくなく……」


 ゴブリンはそう言ったっきり地に倒れ、そのまま動かなくなった。


「よき忠義だったよ。お前の死は無駄にしない」


 黒城はその忠義に報いるため一瞬だけ目を閉じ、感謝の意を込めて黙祷した。


「しかし、島村と互角以上にやれるなんて……一体何者だ」

「うーん、人間なのにとってーも強かったのにね」


 神崎は驚きの声でそう言う。

 そして、流石の黒城もこれには驚いていた。

 街の西側出入口の監督を担当していた島村葉月は彼女自身が称している通り、人類最強クラスかはともかく、出会ったあの日からかなり強かった。

 そして、複数の都市での戦いを経てその強さはかなりのものとなっていた。

 故に彼女に五角以上にやれるとすれば、中央にいる奴らが最上級魔導師やらを引っ張りだしてきたに違いない。

 黒城はそう考えたが、しかし彼に怯えなど一欠片も存在しなかった。


「ククク……いいね。今までは雑魚ばかりだったからね。強者ぶってる奴を最強の力でねじ伏せればどれだけ気持ちが良いか」


 むしろ、黒城の心の底からはワクワクがふつふつと湧きだしていた。

 弱者を支配するのも悪くないと黒城は思っていたが、かつての四条誠一郎のような強者を貶める事こそが彼本来の願いであったからだ。


「クックック、ハーハッハッハ、堕ちて……泣き叫べ、絶望させてやる。いこうか、神崎」

「はい、魔王さま」


 そして、二人は事件があったという街の西門へ、威風堂々と歩いて行った。



          ☆



「へえ、これは予想外だね」


 街の西側は黒城の予想をはるかに超えて、酷い有様であった。

 防衛隊として存在した魔族達は全て殺されており、そこら中に千切れた手足や首、肉片や胴体がゴミのようにごろごろと転がっていた。

 まさに地獄のごとき有り様。


「うぅ……魔王さま。なにがあったのかな?」

「とりあえず、島村を探そう」


 しかし、これを見てなお黒城の心に恐怖は少しもない。

 あるのはまだ見ぬ敵を叩きのめし、その絶望を味わう少し先の未来を楽しみにしている。

 

「うーん、もういなくなっちゃったのかな?」


 二人の周囲には魔王軍によって破壊された建物の瓦礫の山が周囲に林立している。

 そこに隠れて奇襲の機会を伺っているのか、もしくは逃げたのか襲撃者の影はどこにもなかった。


「確かに普通ならば隠れていない。それならば気配でわかる。だがしかし、我が勘ではあるが、おそらくは――」


 その時である、突如黒城の後方から小型の炎弾が多数飛来した。

 しかし、黒城は躱そうとすらしなかった。


「ふん……」


 何故ならば、この程度の雑魚攻撃は黒城にとっては無いに等しいものであるからだ。

 

「そこか」


 そして、黒城は魔法を使った人の気配を察知し、闇魔法の破壊魔法を瓦礫の山の一つへと放つ。

 魔法によって周囲を激しく震わせるほどの爆発が発生、敵は瓦礫の山ごと消滅した。


「しかし、何故気配が……」


 しかし、黒城には腑に落ちない点があった。

 気配が察知できずに自分が奇襲された事である。

 島村の時のように、普通ならばどんなに隠れていようとも魔王の力で気配察知が可能である。

 それを可能にするレベルの気配遮断魔法は火水風土では不可能。

 出来るとすれば闇魔法――もしくは、光魔法のみ。

 それは即ち――


「よくも俺の大切な仲間を殺したな」


 黒城と神崎は声のした方へと顔を向ける。

 そこには、手錠と足枷で拘束されている島村を背負ったメガネの男と多数の少女を引き連れた一人の男が瓦礫の山の上に堂々と君臨していた。

 そして、その男は山頂から見下ろすように黒城へと語りかけた。


「ま、魔王様……やっぱり私……負けるような屑で……ごめんなさい……」

「あ、あんなところに島村ちゃんが。よくも、島村ちゃんを、返せ!」

「お、お前は……ふふふ、ははははは。ああ、なんて事だ。ははは、許せない許せない、また奪う気か……島村を返せ」


 黒城は地獄の底に住む亡者のごとき、禍々しき声を呟く。

 ああ、素晴らしい――次こそは絶対に殺してやる。

 黒城は積み重なった激しい憎しみと、二度目の機会が与えられた歓喜の入り混じった視線をその者へと向ける。


「まさか、こんな所で会うことになるとはな。まあ、お前なんて現世と同じく俺のために苦しむだけだ――そう、『勇者』である俺が真なる英雄となるためにな」


 彼の名は四条誠一郎――魔王を殺す者、勇者である。


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