出会い その5
「とうちゃーん!」
「薙扨~」
入学式が終わり、校門の前に来た正宗達は目の前で親子の愛情表現を見守っていた。
正宗はいつものことなので和やかに見ていた。
村雨は少し引き気味に笑いながら見守っていた。
「おや、正宗とその隣にいるのは……友達かい?」
「あ、ど、どうも。わ、わたしは正宗君と薙扨ちゃんの友人になりましてですね……」
「ははは、しどろもどろになる必要はないよ」
霞にそう言われる村雨だが、その姿に圧倒される。
細い体に眼鏡で短髪というひょろひょろした男である村雨。
そんな村雨が屈強な体をした低く重圧感のある男が目の前にいるのだ。
その重圧に押されてたどたどしくなるのも仕方がない。
「にしても正宗以外にも仲良くしてくれる子ができてうれしいよ」
「は、はは。ま、まぁ、これから仲を深めていく所存です、です」
「そうか、そうか。それは嬉しい限りだな」
そう言いながら霞は村雨の肩をたたく。
村雨は固くなりながら笑うしかできなかった。
そして霞は薙扨の方を振り向く。
「薙扨。すまないがおれは早速仕事に帰らなければならない」
「あ。そ、そうっすか。仕方がないっすね」
「本当にすまないと思っている……あ、そうそうこれを渡しておこう」
すると霞は背中に背負っていたバックから包みを取り出す。
そしてその包みの中からキーホルダーを取り出す。
「これは探検に行った先で見つかったものなんだが……」
「って、それをプレゼントにってことっすか? いいんすかねそれ」
「別にいいだろう」
「というか結構古いっすねこれ……」
薙扨は受け取ったキーホルダーを見て呟く。
「にしても結構古いのにキーホルダーとは……」
「それは元キーホルダーではないぞ」
「へ?」
薙扨が首をかしげると霞が説明を始める。
「おれがキーホルダーにしたんだ。ペンダントだったんだが、薙扨はそういうの嫌いだろう?」
「まぁ、確かに……」
そう言いながら薙扨はチラッと正宗を見る。
正宗はなぜ薙扨がこちらを見てきたのかはよく分からなかった。
「あ、もう一つ同じのがある。これは正宗に」
「あ、どうも」
そう言って正宗もキーホルダーを受け取る。
薙扨のものと対になっているようである。
「対っすか。いいっすね。最高っすね」
「早速、家のカギにでもつけておきます」
「ぼくも家のカギにつけるっす」
早速二人はキーホルダーをカギにつける。
正しいキーホルダーの使い方である。
「そうだ、君にはこれを上げよう」
「は? わ、わたしに? いや、でも……」
「いいから受け取りたまえ」
そして、村雨は霞から渡されたものを受け取る。
そしてそれを握りながら霞に問う。
「あの、これ、棒? ですか? なんかキーホルダーにされてますけど」
「これは別場所。露店で売ってたもので記念に買っただけのものさ」
「あ、そうなんですか」
「まぁ言わばお土産だな」
そう言われた村雨は何も言わず自分の家のカギにキーホルダーをつける。
そしてキーホルダーをじっと見る。
「あれ、これなんか棒が途中で折れてるように……」
「確かにな。本当なら別のものだったのだろう。……おっと時間だ」
霞は時計を確認して時間が迫っていることに気がつく。
そして薙扨の方を向く。
「父ちゃん。次はいつ帰ってくるっすか?」
「それは……わからない」
「っすか……」
薙扨はうつむく。
その表情は一五歳という年相応な少女の顔だった。
高校生と言っても少し前までは中学生。
気にしないそぶりを見せるほど大人にはなっていない。
「本当にすまないと思っている……正宗。二人で家を守ってくれ」
「はい。おじさん」
「キミは鋼太の兄貴の息子。頼りになる男だと思っている。薙扨を頼むぞ」
「はい」
正宗がそう頷くと霞はフッと笑う。
そして駅の方向を向き歩きです。
「じゃあな。セイラも待ってるんでな」
「母ちゃんにもよろしく言っといてほしいっす~」
「ああ」
そう言うと振り向いて手を振り、そのまま歩いて行った。
三人は見えなくなるまで霞を見ていた。