創像機 その5
「あっけなく倒せたな」
目の前の剣だけが転がっている光景を見て正宗は呟く。
レバーから手を離し手を握る、握り放すを繰り返す。
「何だろう。こう、よく言う感触ってのがないな」
「そんなものなくて結構っす! そんなの感じたくもないっす」
正宗の言葉に薙扨は怒鳴り声を上げる。
高校生になりたての少女はそんなものは知りたくない。
大人でも自分から知りたい者はいないだろう。
『知りたくないのは人間としては普通だ。死の実感などは知らないほうがいい』
「人間じゃないあんたに言われるとなんか違う感じがするっすよ……」
『ハハハ。意思疎通ができるのだから同じものと思ってくれ』
薙扨の呆れ声に創像機の意思は笑って返す。
薙扨はその返答を聞いて目を瞑り口を歪め、うなだれる。
『まぁいい。そろそろ君達を元の場所に戻そう。戦いは終わった』
「戻す? 降ろすってことか?」
『そうだ。君たちの思い描く場所に戻してあげよう』
正宗に対する創像機の意志の肯定の返答。
正宗は再び手を握る。
そして目の前の台の上に手をのせる。
「なら家に……」
「いえ、今回は私の思ってる所に送ってください」
正宗の言葉を薺が遮る。
三人はみんなそろって薺のほうを向く。
「それはわたし達に創像機の説明にってことかい?」
「今回はあなたにする気はなかった。ついでに聞けばいい」
「何回言われただろうねその言葉。しかしまぁ、次回があるみたいだしついでに聞くよ」
「そう、で、あなたたちは?」
薺が正宗と薙扨に問いかける。
正宗と薙扨は無言で頷く。
「では、創像機の意思。あたしの思い描くところに送って」
『了解した……』
するとあたりが光りだす。
そしてその光に四人は包まれる。
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「ここは?」
光が消えた後に正宗は左右に首を振る。
薙扨は頭を押さえながら立ち上がる。
「ふぁれ!? 正宗。後ろです! 毎度の如く後ろにすごいものがあるっすよ!」
「天丼が多すぎるな……で、後ろにあるすごいも、のっ!?」
後ろを振り向くと大きな屋敷があった。
正宗達はその屋敷に見覚えがあった。
「い、田舎の大屋敷……」
「ここらに住んでてこの大屋敷を知らないやつはいねぇ」
「ハッハハ、ありがたいことだね。有名と言うのは」
正宗達は目の前の屋敷から笑いながら出てくる男を見た。
優男と言わんばかりの人だった。
すると二人の隣にいた薺が近づいていく。
「葉木さん。彼があたしのパートナー」
「へぇ、君かい?」
「あ、おれ? あ、なんかパートナーらしいですよ」
そう答えながら頭をかき、あどけた顔をする正宗を見て薙扨はムッとした表情になる。
そして正宗の前に仁王立ちする。
「正宗のパートナーはぼくっす!」
「ほう。君もパートナーだというんだね?」
「ぼくもってよりできればぼくだけであってほしいと……」
体をクネクネとしながら恥じらう薙扨。
その姿はまるで可憐な乙女と言わんばかりのものである。
正宗はあまり見たことない薙扨を見て少し唖然としている。
「ハッハハ。そうか、二人か。話に聞いていたものより多いな」
「はぁ、おれにも何が何だか……」
「いけない。いけないなぁ~それでは。どれ、話をするためにも私の家に来なさい」
そう言って、葉木は屋敷の入口へと向かっていく。
そして入口の前で振り向く。
「この黒巻 葉木。君たちをワタシの家に招待しよう」
そしてただニッコリとほほ笑んだ。
まるで心の中にでも入ってくるように。