短編小説*保存用
なんであと数年、早く生まれてこなかったんだろう。
なんで僕は、年下なんだろう。
なんで君は、、、、
「キヨちゃん、おはよう」
玄関を出るなり、声をかけられる。
振り向くとお隣兼幼なじみの葵ちゃんがニコニコしながら立っている。
「おはよう、葵ちゃん」
「久しぶりだね、キヨちゃんと会うの」
可愛らしく笑いながら葵ちゃんは僕に近づく。
「あれ? キヨちゃん背ぇ伸びた? ほとんどあたしと同じくらいになってる……」
「まあ、成長期だしね。いつか葵ちゃんを見下ろすのが夢なんだ」
だって毎日、牛乳を欠かさず飲んでるから。
一時期は鉄棒にぶら下がったりもしてた。
背を伸ばすために一通りやった。
すべては、葵ちゃんに釣り合いたいから。
ただそれだけ。
「そっかぁ。キヨちゃん、大きくなったらかっこよくなりそうだよね、今はかわいさが勝ってるけど。それで背も高かったら引く手数多だよ!」
相変わらずニコニコしながら、葵ちゃんは僕を見る。
「……モテたい人にはモテないんだけどね」
小声で呟くと、「なに?」と聞き返された。
いっそ告白してしまおうかとも思ったけど、『可愛いキヨちゃん』のままじゃ軽くあしらわれてしまいそうで。
そうでなくても、フラれるのは目に見えてるし。
「僕、そろそろ行くね。」
「あっ、キヨちゃん……!」
葵ちゃんに背を向けて学校へ向かう。
角を曲がろうとしたところで、飛び出てきた誰かとぶつかりそうになる。
「うわっ!」
「………!」
「ごめん、大丈夫?」
すんでのところで回避し、衝突は免れた。
が、その人物を見てテンションが一気に下がる。
「いえ、大丈夫です。こちらこそすみません」
相手の目を見ずにその場を去る。
顔を見なくてもわかる、この人は―――。
「あお、おはよー!」
「奏くん!」
嬉しそうな葵ちゃんの声が聞こえる。
奏くん、と呼ばれた男子高校生は葵ちゃんの彼氏。
僕が一番嫌いな男。
あの二人に出くわさないように、避けて登校していたのに。
なんで今日に限って……。
僕がもう少し早く生まれたら、葵ちゃんの彼氏になれたのかな?
僕が小学生じゃなかったら、葵ちゃんは振り向いてくれたのかな。
そんなことをいまさら考えても、仕方がない。
そう自分自身を説得しても、このモヤモヤした気持ちが晴れる事はないのだろう。
また、僕の憂鬱な一日が始まった。