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メニュー画面の能力持ち一般人、勇者パーティから依存され求婚される  作者: 椿


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8/11

魔の力

 コツ、コツ。階段を下る度、足音が反響する。以前まで、この道を歩くのに感じていたのは、恐怖と絶望だった。今は違う。ひたすらに、虚しかった。


 「お待たせしました、神父様」


 「おぉ……!ようやく帰ってきたか!!! 待ちくたびれたぞ!」


 神父様は私に背を向けたまま、そんな言葉を吐きました。以前とは違う、媚びへつらうような嫌な笑い方と、私を罰する時と変わらない声色。そのちぐはぐさが、苦手です。


 「君は、神聖術を私以上に扱えるようになった。もはや、君を聖女と疑う者は居ないだろう。つまり、時期が来たのだ」


 「……どういう、ことでしょう」


 「分からないか? 近頃、邪神王の軍勢はこの大陸を着実に侵略しつつある。必要なのは、希望なのだよ」


 神父は語る。私を王国大教会へ推挙させ、かの伝説の7聖女の末裔として大々的に売り込むのだ。この混迷の時代において、その風評はいたく気に入られることになるだろう。そして、彼はその恩恵に預かる。


 あぁ、なんと素晴らしいことでしょう! 何者でも無かった私が、聖女として世界に希望を照らす存在となれるのです。神父様への孝行も行えるのですから、もう私が思い悩むことも無くなるのです。


 仮初めの聖女であろうと、問題は無いのです。いや、私は仮初めでなくてはならないのです。本物の聖女であれば、その立場や進退など、何の価値も無いはずなのですから。


 全ては、神のお導きのままに──


 『ユリ』


 「……っ! ち、がう……」


 「ん……? 何か言ったか?」


 その時、彼の声がした。優しくて、暖かくて、私を照らしてくれた太陽。私が憧れ焦がれ、光が曇るならばいっそ自分で穢したいとすら思った、私だけの光明。誰にも渡したくない、一筋の糸。


 それを手放し、欺瞞だらけの教会で生き続ける、なんて。


 そんな運命は、要らない。そんな在り方は、必要ない。そんな結末は、認めない──!


 そう、そうです! 私はずっと疎ましかった! この環境も、境遇も、因果も! 何もかもが私の全てを否定しようとする! 私だけの光を、神様を、奪おうとする!


 要らない、要らない、要らない──! そんなくだらないもの、全部壊れてしまえば良い!


 「あは、アハハッ……! そうでした! そうすれば良かったんです! 今更、何の呵責があったと言うのです!!!」


 「ゆ、ユリ……? い、一体どうし──」


 「『罪を絶て』『罪を贖え』『罪を認めよ』『断罪の礫』『吊された神人よ』」


 「きさ、貴様ッ!!! 気が狂ったか!?」


 神父はその術の詠唱を聞き、猛った。彼女が唱え、行使しようとしているのは、上位神聖術『断罪』。教義に基づき、対象の罪を精査し、その数だけ出力の上がる神聖術だった。


 しかし、『断罪』は教会の人間に対し、殆どその効果を及ばさぬ術だった。それもそのはず、大多数の教会の人間は教義に則った行い、祈りと禊ぎを欠かすことが無い。それ故、罪は比較的軽い。それこそ、生きていることが罪、のようなものばかりになる。


 だからこそ、『断罪』を信徒へ放つことは、最大の侮蔑となるのだ。ましてや、育ての親に罪ありと指を指すなど、許されることでは無い。神父は、目の前の少女に途方もない怒りを抱いた。もはや、この不敬者を生かしておくべきではない。

 

 「さぁ放て! その『断罪』、私は逃げも隠れもせぬぞ! 私に罪など、一欠片たりともありはしない!!!」


 「えぇ、そうですよね。貴方はそういう人です。自らを敬虔な信徒と信じて疑わず、非道な行為も、神の名の下に神聖な行いにすら昇華していた。全くもって虫唾が走ります」


 少女は右腕を振り上げ、その光を一点に集めた。それを振り下ろせば、神の裁定の元、神父には罰が下るだろう。最も、その威力は下位魔法と背を並べる程度の出力しか無いだろう。だからこそ、神父は黙って見守っているのだ。


 ユリは思う。なんと、歪な術なのだろうと。この男は、私を散々殴りつけた。骨を折った。罵声を浴びせた。心に傷をつけた。挙げ句の果てには、この身の貞操まで売り払おうとした。


 だというのに、この術はそれを罪と認めない。この男を、罰さない。こんな在り方は、絶対に間違っている。


 「『揺蕩う闇』『贋作の虚栄』『漆黒の裁定』『荒ぶる雷』『堕ちた天使』」 


 「──はっ? それは、なんだ……?」


 だから、私が裁く。通常、5節の祝詞からなる『断罪』に、追加で5節、呪言を足した。それはもはや『断罪』では無かった。左手の暗黒に塗りつぶされたそれは、邪神王の手の者が扱うそれに酷似していた。


 何故、ユリがそんな術を扱えるのか、神父には分からなかった。ただ、現実として、その尋常ならざる術を、ユリは易々と唱えた。一気に、恐怖が押し寄せてきた。


 「ま、待ってくれ! 私が悪かった! お前の言うとおりにする! だ、だから命だけは……!」


 「元からそのつもり、ですよ? 育ての親を殺すだなんて、そんなこと、致しません」


 「そ、そうか……! なら、この術も――」


 「その程度で、終わらせるつもりはありませんから」


 少女は無感情に、そう呟いた。男はその顔を引き攣らせると、そのまま黒の一刀に両断された。神父に、裁定が下る。


 神父が意識を失うその時、彼は見た。目の前の少女が、黒色の魔力と、その身に宿すはずのない器官……黒い尻尾を蠢かす様子を。


 「ばけ、もの、めぇ……!!!」


 神父は倒れた。死んでいるわけでは無い。ただ、それ以上の責め苦を受けることになるだろう。具体的に言えばそう、ユリに振るった暴行や、痛みをそのまま体験することになる。


 彼女が味わった恐怖や絶望も、それはそれは鮮明に再現されるだろう。全て終われば、彼は自由の身だ。これが、ユリなりの『断罪』だった。


 「あぁ、そうなんですね……私は、聖女どころか人ですら無かったのですね」


 ユリはぽつりと、心中を吐露した。その胸にあるのは、ただひたすらの絶望しか無かった。自分の身は、穢れていた。どういった理由があるのかは分からない。しかし、この身が汚れているのは事実だ。現に今、感情の高ぶるままに一人、私刑を下した。許されないことである。


 自分に神聖術を扱う資格は無い。自分に教会の信徒たる資格は無い。自分に……生きている資格は、無い。ユリは、そう決めつけた。


 私は、穢らわしい存在。早急にこの命を終わらせなければならない。だとすれば、これ以上この場を踏み荒らす訳にはいかないだろうと、その場を後にしようとする。


 「……これ、は。どういう、ことなの?」


 「あぁ……見つかってしまいましたか。サリナさん」


 出口には一人、緑髪の修道女が立っていた。ユリはただ、悲しげにその少女を見つめていた。もはや、後戻りは不可能だった。 

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