表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メニュー画面の能力持ち一般人、勇者パーティから依存され求婚される  作者: 椿


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/11

聖女の資質

 あの日から、私の生活は一変しました。あれほど結果の出なかった神聖術は綿が水を吸うかの如く、日に日に強力になっていきました。


 「私は信じていたぞ! 今まで辛く当たっていたのも、逆境に耐えうる精神を磨いて欲しかったからなのだ! 本当に良くやったぞ!」


 神父様は手のひらを返し、私を讃えました。私は吐き気を催しながらも、作り笑いをきちんと浮かべました。表面上は、私は聖女であらなければならないのです。


 「ユリ様! 今日も素晴らしい御業でした! ルナエール教会の信徒として、誇らしい限りです!」


 今まで散々私を無視してきた信徒達は、その顔に尊敬を浮かべて笑いかけてきます。気持ち悪くて仕方ありませんでした。


 「…………」


 「あ、ちょっとサリナ! ユリ様に挨拶は!?」


 「……別に。必要ないでしょ」


 「す、すみませんユリ様! あの子、前までこの教会の筆頭でしたから……きっと、ユリ様に嫉妬してるんですよ。信徒にあるまじき卑しさですね」


 「あはは! 前から調子乗ってたんですよ、アイツ! 全く、いい気味ですね!」


 そういって、私の代わりに他の信徒を迫害する。気持ち悪い。彼女らは、神の信徒だというのに、その実態はこれだ。気持ち悪くて仕方が無い。


 「ユリ! 君の才能を信じていた!」


 気持ち悪い。


 「ユリ様! 貴女はこの教会の誇りです!」


 気持ち悪い。気持ち悪い。


 「「「ユリ様! ユリ様! ユリ様!」」」


 気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い──!


 「ユリ、どうかしたの?」


 「な、なんでもありません……少し、疲れているだけです」


 「……そっか。なら、今日はお昼寝をしよう」


 「そういう訳にはいきません。折角、シスさんのお時間を頂いているのです。もっと有意義に使わなくては……」


 「休息も大事だよ! ほら、横になってみな」


 「…………」


 言われるがまま、私は横になりました。青い空は美しく、僅かではありますが現実を忘れさせてくれました。シスさんはそんな私を見て、微笑んでいます。


 汚くて醜いあの場所とは違って、この瞬間だけ私は心の底から笑みを浮かべられました。適当な理由をつけ、この人の時間を独り占めするこの時だけ、私は幸せを享受出来ました。その度に、私の心は締め付けられます。


 私は清貧を心掛けなければなりません。清く、正しく、皆が望む聖女を目指さなければなりません。だというのに、私の胸のうちは神への否定ばかりが溜まっていきます。


 聖女なんてどうでも良い。教会なんて無くなってしまえば良い。神なんて居るわけが無い。私を救ってくれたシスさんを認めない教えなんて……無くなってしまえば良いと。そんな考えばかりが浮かんでしまいます。


 「シスさん。手、握ってください」


 「……ユリ。君はもっと距離感を考えた方が良い。僕だって男なんだぞ? 勘違いしてしまったらどうするんだ」


 「勘違いしてくださるのですか? うふふっ、それはとても喜ばしいことですね♪」


 「はぁ……揶揄うんじゃない。僕は君のことを心配して──」


 そう言いながらも、シスさんは私の手を握ってくれます。暖かくて、優しい。私はその指を絡めながら、隣の彼の顔を眺めます。その愛らしい顔も、少し赤らめた頬も、懇々と私を思いやる言葉を綴る言葉も、全てが愛おしいのです。


 貴方が欲しい。貴方を独占したい。貴方を貪りたい。貴方を汚したい。貴方を穢したい。貴方を染め上げたい。貴方を埋め尽くしたい。貴方を崇めたい。貴方を虐めたい。貴方を愛したい。貴方を……私だけの神様にしたい。


 欲望が溢れて止まりません。シスさんのためなら、私は迷いなく教えに反することが出来るでしょう。それほど、私はシスさんに毒されていました。


 その度に思うのです。私は清く正しい聖女に相応しくありません。だというのに、この身の聖印は刻まれたままです。いつになっても、教えが私を否定してくれません。


 もし、神様が本当に居るのなら……清廉とはかけ離れたルナエール教会も、信徒達も、私も、天罰が下るはずなのです。そうならないのは、つまりは神は居ない……ということなのではないでしょうか。


 教会の教えは、いつだって私を救ってはくれませんでした。祈っても痛みは無くなりません。縋っても助けてはくれません。どれほど教えを実践しようと、救いなんて訪れませんでした。私を救ってくれたのは、シスさんだけです。


 貴方が、欲しい。それだけが、私の望みなのです。


 「……シス? 何、してるの?」


 暗い欲望を煮立たせていると、そんな声が聞こえました。鈴が鳴るような綺麗な音が、確かな不快感を滲ませて突き刺さりました。そこには、綺麗な銀髪の少女が居ました。まるで、お伽噺に出てくるような綺麗な妖精さんのよう。


 「大したことはしていませんよ。少々、スキンシップを嗜んでいただけです」


 私は笑みを貼り付けながら、少女の前へ立ちました。刺すような殺気と、思わずたじろいでしまいそうになる威圧感。それだけで分かりました。彼女もまた、シスさんに脳髄まで焼かれてしまった一人なのだと。


 「……シスは私のだ。お前なんかにあげない」


 「うふふ……可愛い子ですね。心配なさらずとも、そのような魂胆はありません。シスさんとは、ただのお友達ですから」


 まるで鏡を見ているみたいでした。道理も理屈も無く、ただひたすらに自らの感情に支配されていて、それを冷静な自分が恥じている。貴方は罪な人ですね。まだ幼い子に、そんなものを教えてしまうなんて。


 「私はお邪魔のようですし、これで失礼致します。シスさん、今日はありがとうございました」


 「うん……じゃあね」


 私は二人に背を向け、その場を立ち去りました。一人になって、私は気付きました。あの少女に対し、確かな不快感を持ってしまっていることに。


 考えてしまうのです。あの子がシスさんに甘えているところを。あの子がシスさんに愛を囁くところを。あの子が……シスさんを汚しているところを。


 「……いけませんね。なんと、はしたないことでしょうか」


 私は口元の血を拭って、神聖術で元通りにしました。このような醜さ、教会の人間にあるまじき行為です。やはり、私は聖女などではないのです。


 「あっ! お帰りなさい、ユリ様! 神父様がお探しになっていましたよ!」


 「ありがとうございます、シスターリサ。わざわざ待っていてくれたのですか?」


 「えへへ……私、この教会では一番の後輩ですから。まだまだ至らない点も多くありますので、これくらいなんてこともありません!」


 茶髪の少女がそう言って笑いました。リサは、最近この教会へ入信した見習いです。その明るさは孤児とは思えぬほど快活で、私はその笑顔を見る度に思い知るのです。私のとはまるで違う、本物の善性であることに。


 彼女のような人間にこそ、聖女は相応しいと。


 「……? わ、私……何か気に障るようなことをしてしまいましたか?」


 「っ……! なんでも、ないのですよ。貴女は何も、悪くありませんから」


 一瞬、考えてしまいました。その純粋さが、清廉が、私にあったらと。何よりも恥ずべき、浅ましい考えでした。


 「リサー? そろそろ勉強のじか──!?」


 「あっ、サリナさん! すみません、お待たせしてしまったようで」


 「……では、私はこれで」


 私は足早にその場を立ち去りました。やはり、私にはこの聖印は相応しくない。いっそのこと、これを消し去ってしまえれば良いのに。


 「……サリナさん? どうかしましたか?」


 「貴女は、どう思う? ユリについて」


 「素晴らしい人だと思いますよ! いつも落ち着いていて、神聖術の扱いも凄くて、誰よりも教えの実践に熱心です! その有り様は、本物の聖女様みたいです!」


 「そう……やっぱり、リサは可愛いわね。これからもその純粋さを忘れないで」


 「も、もう~! 頭撫でないでくださいよ~!!!」


 「……憐れだわ。あの子に、聖女なんて似合わないって言うのに」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ