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【短編小説】爆死したい面接

掲載日:2025/12/26

「失礼します」

 3回ノックしてから頭を下げて入ったところで、何か根本的なミスをしている気がした。

 それが何かは分からない。

 しかしもう巻き戻す事はできない。

 いつも通りやろうと決めて、部屋の真ん中あたりに置かれた椅子の傍に立った。



 広い会議室の正面に置かれた長机と椅子に、中間管理職めいた甲殻類型の怪人が背筋を伸ばして座っていた。

「どうぞ、おかけください」

 甲殻類型怪人はどこから声を出しているのか、カシャカシャと何かを鳴らしながら流暢な日本語で着席を促した。

 傍らには頭まですっぽりとした全身タイツの戦闘員と、同じデザインの覆面をした旧ドイツ軍風の制服姿をした男女がいた。


「はい、失礼します」

 俺は一礼してからパイプ椅子に腰掛けた。

 パイプ椅子には何の仕掛けも無いようだが、甲殻類型怪人の傍に座っている制服の覆面戦闘員たちはすでに卓上のノートに何かを書き込み始めている。

 全身タイツたちは後ろ手のまま直立不動の姿勢を保っていた。

 不安が一気に背筋を駆け上がる。

 しかし何とか耐えて「よろしくお願いします」と言う挨拶を絞り出した。

 甲殻類型怪人は黒い球体のような眼を俺に向けた。

「……それで、志望動機には”爆死したい”とありますが」



 きたな、と思う。

 自分で書いておいてこう思うのもどうかしているが、博打が過ぎる。

 仮に今までの筆記試験や実技が首尾よくいっていたとしても、ここで全てを台無しにしかねない。

 しかし他との差をつけるならここだ。

 俺は腹に力を込めて言った。

「はい、爆死をしたいです」

 ただ、アクセルを踏むならとことん踏むしかない。


 甲殻類型怪人はしばらく俺を見つめた後、カシャカシャと音を立てて

「爆死をしたいとはどう言うことでしょう、我々の結社はその様なカミカゼ戦闘員を募集しておりませんが」

 と言った。

 ビビるな、ここで退いたら全てお終いだと自分に言い聞かせてみたものの、一気に咽喉が締まった気がする。



「はい、存じております。御結社の怪人幹部候補生と言う募集要綱を見て応募させて頂いた次第です」

 掠れた声を気合いで繋ぐ。

「また、自分は今後にどう生きて死ぬかを考えた時に、是非とも御結社の怪人として闘い、その暁には爆死をしたいと考えました。

 それというのも、この先にどう生きるかをある程度はコントロールできるかも知れませんが、どう死ぬかまでは決める事ができません」



 甲殻類型怪人は微動だにしない。

 制服たちはすごい勢いで何かをメモに書き込んでいる。

 速筆か?

 散りかけた気をかき集めて集中し直す。

 甲殻類型怪人の黒い球体を見据えた。

「もはやピンピンコロリと言う時代ではありません。病死であったり、呆けてしまうと言う事もあるでしょう。

 それも仮に長生きしたらの話で、それまでに事故死であったり通り魔や移民に襲撃されると言う事も予想されます。

 そこで自分がどう死にたいか、と考えた時に御結社の怪人として闘い、最期に爆死すると言う結論に至ったのです。

 自分の意思で動き、闘い、そして爆死する。その美しさに心惹かれて、今回の応募に至りました」


 肺の中に1CCの酸素も残っていない気がする。

 出かけた咳を気合いで飲み込み、両手を膝に置いて甲殻類型怪人の反応を待つ。

 練習の4割も話せていないが、噛まずに喋り遂げただけでも及第点だろう。

 帰りは家系ラーメン全トッピングを飲み、その後で特盛フラペチーノでも買わなきゃやってられん。



 黙って聴いていた甲殻類型怪人はおもむろに

「爆死する、と言うことはつまり負ける、と言う事ですが──」

 と、カシャカシャ擦れる音と日本語を同時に発した。

 ホーミーみたいだな、と思う。

 そんなことを考えられる程度には余裕が出てきたらしい。


「はい、私は戦闘に全力を尽くします。

 しかし、いくら私が全力を尽くしたところで百戦全勝不敗とはならないでしょう。つまり、いつかは敗れて爆死する事になります。

 その瞬間に、御結社は私の敗戦データから次の戦闘に繋がるデータをお取り頂き、他の怪人に活用して頂きたいと思っております」

 そうだ。

 俺は社会の歯車、その礎で構わない。

 ヒーローじゃなくていい。エースだって望まない。サポート要員、アシストですらない。


 制服の覆面戦闘員たちは相変わらず何かを書き記しており、甲殻類型怪人は大きく頷くように身体全体を上下させた。

 まだ内定通知すらもらっていないが、俺は早くも自分がどんな怪人になるか夢想し始めた。

 軟体生物の怪人は厭だな。

 銃とか刀とかの武器っぽい怪人が良いけど、まぁ仮に昆虫だとしても芋虫だとかで止まる事は無いだろう。

 案外と蝉なんかは良いしな……。




 後日、俺が受け取った内定通知には猫型怪人幹部とあり、結社が解体されるその日までナントカと言うライダーに蹴られて爆死する事は無かったが、これはまた別の話。

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