ジョブの覚醒
追放者ギルドの幹部であるエレンに組織について色々なことを教えてもらった。
例えば、
・勇者パーティーを追放された人が幹部になる
・創立から今年で300年
・一般ギルドではこなせない内容のクエストを受注
などなど。
そして、1番興味深かったのは「ジョブの覚醒」だった。
今まで聞いたことのないジョブの覚醒――転職はそのジョブの上位互換のジョブになる儀式みたいなものだ。ジョブによって異なるが、ある一定の条件を満たすとできるという。追放者ギルドのメンバーは全員が二次転職を済ましていて、このギルドに入るには二次転職が必要だという。また、今のところ最大で4次転職まであるらしい。
「あの、召喚術師の二次転職ってどうすればできるんですか?」
「それを鑑定してもらうからギルド本部に向かっているのだろう?」
「ギルド本部……いきなりですか!?」
「そこにしかいないんだ鑑定士が。それか、自分で探すか?」
「いえ、大人しくついて行きます」
そうは言ったものの王国図書館を後にしてどれだけ移動したか分からない。王国図書館を出たのが夕方、今が日の出、半日は立っている。しかし、無言で後ろを歩き続ける。食べず寝ずで真夜中をぶっ通しで歩いたせいでヘロヘロだ。完全に心を折りに来ている。
「もうすぐだ」
「もうすぐってどのくらいですか」
「1時間くらいだ」
到底短い時間ではないが、12時間に比べれば屁のようなもんだった。
「着いたぞ」
心を無にしていたせいか、1時間なんて案外あっという間だった。
顔をあげるとそこは大きな都市の入口だった。未開発の土地――魔の森の中にあるギルド――いや、都市というべきだ。
魔の森とは凶悪な魔物が多く生息し、『デスフォレスト』とも呼ばれている。
「こんなところに創るなんて……見つからないわけだ」
「ちなみに、支部もこの魔の森の中にある」
俺はすっかり疲れていてツッコムことさえできなかった。そんな疲れ果てた俺を見て、エレンはギルドの中枢――大聖堂までテレポートしてくれた。
(最初からテレポートしてくれよ)
俺は大聖堂の真ん中に立たされ、いかにも幹部って人達に囲まれている。足元には大きな魔法陣。大罪の裁判を受けている気分だった。
「これからレンくんの鑑定を始めます」
女性の声がした。その声は追放されたことなど気にも止めないような自信のある声だった。
(俺もいつかあんな声が出せるようになるのかな)
俺は気付かぬうちにあんなに疑っていた追放者ギルドに入る気になっていた。
鑑定をしてくれた彼女が結果を発表する。
名前やジョブなど、分かりきったことは省くが、彼女が言うには、
・既に二次転職が終わっている
・新しいジョブは『神獣使い』
・いまの従魔は神獣『キュウビ』である
俺は耳を疑った。しかし、幹部たちはそんなことはなかった。
「おめでとう。既に二次転職が終わっているとは。しかも誰の補助もなしに。こんなのは創立以来初めてだ」
いかにも幹部のなかのリーダーみたいな人が拍手をしながら近づいてきてそういった。
「あの……それで俺はどうなるんですか?」
「まぎれもなく才能の塊だ。今から28人目の幹部として迎えよう」
28人……それは今まで28もの人が勇者パーティーから追放されてきたことを意味する。そして28もの勇者パーティーが魔王討伐に失敗しているということでもある。
「ようこそ追放者ギルドへ。それで、早速で悪いんだが、模擬戦をやってもらおうと思う」
「模擬戦ですか?でも、俺たちじゃそこら辺の魔物すら倒せないし……」
「模擬戦とは言ったものの、ただ俺に攻撃をするだけでいい。反撃はしないからな。それと、俺たちの自己紹介が遅れたな。まずは俺から、ジェイドだ。コードネームはホーリー。任務中などに名前バレ防止のためのコードネームだ」
コードネーム……なんかカッコイイ。人を助けた時、「お名前は……?」って聞かれたら「ホーリー」って答えるのかなぁ。本名を明かさず人助け。ロマンのある活動だ……
「じゃあ、俺にもコードネームあるんですか?」
「もう既に決まってる。レン、お前のコードネームはネフィリムだ。そしてお前の従魔はそのままでいい。わかったな?」
「わかりました。他の人たちは……何と呼べば?」
「ああ、そうだったな。お前を連れてきたエレンのコードネームはウーミンで、鑑定してくれた人は本名はイルポ・キップでコードネームはニーシ。ほかのメンバーはその都度紹介するよ。じゃあ訓練場まで行こうか」
幹部じゃない人にもコードネームがあるのだろうか。そしたらその名前は誰がつけているんだろうか。気になることばかりだが今はそれどころじゃない。来ていきなり模擬戦と言われているのだからな。
訓練場にて――
「ここが訓練場……いや、ただの魔の森の中じゃん!」
訓練場と言われたが、そこはまさに魔獣が多い魔の森の中であった。周りに柵などはなくいつ魔獣に襲われてもおかしくなかった。
「こんなところでやるんですか……?」
「あぁ、集中しないと首が飛ぶのは一瞬だからな。気をつけろよ」
「首が……飛ぶ……」
ジェイドと呼ぶべきかホーリーと呼ぶべきかはわからないが、彼の表情と口調に冗談はなかった。本当に油断したら首が飛んでしまうかもしれない。
「レン、君自身は戦うのか?」
「いえ、基本的には指揮官的なのをやってました」
勇者パーティーにいた頃、俺は仲間に指示を出す係だった。言うなれば司令塔。司令塔オンリーなのがいるのは珍しかった。本来パーティーはリーダーが戦いながら指示を出すものだからだ。それもあって追い出されたわけなんだが……
「指揮官か、珍しい。まぁ、神獣を扱うんだもんな。じゃあレンは指揮を従魔が攻撃を。わかったな」
「わかりました。よし、アル、行くぞ」
「炎の真髄よ 今我が魂に宿りたまえ ファイヤーチャージ」
俺の詠唱が終わるとアルの口からはファイヤーチャージ――いや、この威力では火の玉と名乗った方がいいくらい弱い炎が発射された。ホーリーの場所までは約10mだというのにそのファイヤーチャージは1mも飛ばなかった。あまりの弱さに俺もアルも赤面した。しかしホーリーは「ガハハハ」と笑っていた。俺たちはバカにされたと思いムスッとした。ホーリーはそれに気付き、訂正した。
「バカにしたわけじゃない。ただ、伸び代がありすぎると思ってな。いくつかアドバイスをしよう。1つ目、キュウビに炎系の詠唱はいらない」
「なぜです?魔法をするには詠唱が必要でしょう?」
「レン、お前はなにも知らないようだな。キュウビってもんを」
なにも知らない?ずっと一緒に過ごしてきたのに知らないことがあるなんて……
「キュウビはな、炎の神なんだ」
「炎の神!?」
「ああそうだ。だから……」
「じゃあ、神様を従魔にしてるってこと!?」
「ああそうだ、だから……」
「じゃあ、なんでこんな弱いの?」
「おい!人の話を最後まで聞け!」
俺は少し夢中になっていたようだ。ホーリーに一喝されて冷静になった。
「はい、ごめんなさい」
「で、キュウビが炎の神様って話なんだけど、レン、お前のジョブは?」
「神獣使い……あ!神の獣か」
「そういうことだ。だから主人の詠唱無しで自分の意思で魔法を使えるんだ。1つ目はそこだな」
炎の神だからこその無詠唱。今まで知らなかったとは……
「じゃあ2つ目はなんですか」
「二つ目は主人の魔力量が少なすぎるところだな」
「じゃあどうしたら……」
「それはお客さんを森に帰してからだ」
「お客さん?」
ホーリーが目をやる方を見ると赤い点がいくつも光っている。その方向だけじゃない。全方その点で囲まれていた。それと同時に影も見えた。それは点ではなく目だった。その目の持ち主の正体は……
「ジェネラルスパイダーのお越しだ!」
ジェネラルスパイダー――それは繁殖力の高い大型の蜘蛛で一家族で数十から数百までになる。小さな村なら10匹いれば簡単に落ちる。そして、今ここにいるのは少なく見積もっても50はいる。
絶対絶望なこの状況。レンは神獣キュウビで挽回できるのか。
カクヨムにて先行配信中
URLはこちら→https://kakuyomu.jp/works/822139841209555512




