第六章 盟約の刻
ここまで読んでくださりありがとうございます。
ここから先は再編中です。
大筋は変わりませんが、細かい設定が違っていたり、間に章を追加しようと思っています。
少々お待ちください。
夜明けの薄青い光が、樹間からこそりと差し込む。
冥界の門をくぐり抜けた先の小高い丘――背後には朽ちかけた石造りの円環が沈黙し、前方には見慣れたローデンブルクの城壁が霧に霞んで浮かび上がっていた。深い森と瘴気の迷宮から脱した安堵と、しかしまだ払拭しきれぬ余韻が、誠の胸中に混在している。
「……無事か?」
背後で静かに響いた声に、誠は振り返った。そこに立つのは、夜の闇よりも黒いフードに身を包んだ女――冥界での闘いを影から見守っていたという魔導士セレナだ。透き通る肌、細長い指先、瞳の奥に深い知性と憂いを宿す彼女は、冷えた朝露を纏いながら、まるで幻想の一部のように佇んでいた。
「氷牙との剣戟、……見事だった」
セレナはゆっくりと近づき、地面に滴る誠の血を意に介さぬ様子で見下ろす。額にかかった前髪をはらいながら、彼女の声は澄んだ響きを帯びている。
「あなたが……?」
誠は戸惑いながら剣を収め、深く一礼した。「祠では囁きと光だけでした。あなたは、いったい……」
「わたしはこの地に伝わる『冥界の予言』を研究し、門の守護を誓った者。だが自ら剣を取る力は足りず、君に助力を乞うために影より送られた」
そう言うと、セレナは袖口から小さな巻物を取り出す。古びた羊皮紙には、戦神の紋章と同じ三日月の刻印が浮かび上がっている。文字は流れるように踊り、魔力の残滓を帯びて薫り立っていた。
「――これが、冥界の予言の一節。『戦神の血脈を継ぎし者、門を封じる盟約を結ばん』とある。君が試練を越えた今、わたしと盟約を結ぶことが、世界を守る鍵となる」
誠の胸の家紋が、おぼろげに光を取り戻す。まるで古の呪文に呼応するかのように、刻まれた紋様がじわりと熱を帯びた。
「盟約……ですか?」
言葉を絞り出す誠の視界に、セレナは静かに頷いた。
「血の盟約――とまではいかなくとも、この契約には君の意志が必要だ。剣と紋章をもって誓い、わたしの魔力を君に預ける。二つの力が交わることで、門は真に封印される」
セレナは巻物を広げると、そこに映る文字がふわりと浮遊し、誠の家紋へと吸い込まれて