第4話:森に入ってきた、ひとりの人族
ミューラと暮らし始めて数日。
悠は、朝は薬草摘み、昼は料理、夜はミューラのしっぽを布団代わりにされながら眠る――そんな生活にもすっかり慣れていた。
「こっちの世界、意外と悪くないかもしれないな……」
スマホの画面には、今日も5Gのマークと100%のバッテリー残量。
異世界とは思えない快適通信にツッコミたい気持ちも、今ではすっかり日常になっていた。
だが、その日は少し違った。
森の奥から、足音がした。
ミューラがぴくりと耳を動かす。
「悠……だれか、来てるにゃ」
ふたりは身を潜めて様子をうかがった。
現れたのは――人間の男。
黒いマントを羽織り、手には鋭い杖。目つきは鋭く、明らかに“この森の空気”には馴染んでいない。
「……こんなところに“境界の揺らぎ”があるとはな」
彼は何かを呟き、杖で空間をなぞる。
その軌跡に、うっすらと光の筋が浮かんだ。
(……境界? こいつ、ただの旅人じゃない)
悠の中に、ぞわりとした違和感が走った。
⸻
その夜。モカが森の影から現れた。
「“外の人族”が来たか……」
「知ってるのか?」
「いや。だが、我々の世界にそう簡単に来られる者ではない。
あれは“知っている”目をしていた。君と同じく、向こうの世界を知っている者だろう」
「……転移者かもしれないってこと?」
「可能性はある。ただし、“向こうから意図して来た”のならば、話は別だ」
⸻
その後、悠のスマホにまたノイズが走る。
《外部エントリ検出:人族(確認中)》
《識別:未確定。接触注意。》
《調整者・観察優先度:上昇》
悠はスマホを握りしめながら、考えていた。
この世界に、何が起きているのか。
自分は本当にただの“迷い込んだ人”なのか――
それとも、何かの役割を背負わされているのか。
⸻
翌日。
森の外れに、見慣れない足跡が残っていた。
悠とミューラは、それを追うことになる。
「悠、あぶない気がするにゃ……でも、行くにゃ?」
「……放っておける感じじゃないんだよな」
小さな家と平穏な日々を後に、ふたりは森の奥へと足を踏み入れていった。
その先に待っているのは――
懐かしいはずの“人間”との再会、そして新たな選択だった。
第4話では、物語に初めて“外からの変化”が訪れました。
静かな森の生活の中に、一筋の緊張が走り始めます。