第1話:目覚めたら、猫がしゃべってた。
「……定時って、なんの呪文だっけ……」
残業を終えて家にたどり着いた佐藤 悠は、
ぬるくなったビールを片手に、猫動画を流しながらソファに沈み込んだ。
「は〜、猫吸いたい……」とスマホに向かって顔を寄せ、最後の意識を失ったその瞬間。
次に目を開けたとき、見慣れない天井と木の匂いがした。
「おきたにゃ!? 人族、しゃべったにゃ!?」
目の前には、猫耳がピコピコ動く少女。
ちょっとコミカルな声色で、言葉は――日本語。普通に通じてる。
「……俺、夢見てる?」
「これはゆめじゃないにゃ〜。ここ、ルファリア村ってとこにゃ!」
そう言いながら、彼女は悠のポケットに差し込まれていたスマホを見つけた。
「あ、それは大事な――」
「なにこれにゃ!? 平たい魔道具にゃ!? ぴかぴか光ってるにゃ!!」
彼女の手をとり返し、電源を入れてみると――
画面の右上に、見慣れない表示。
『5G/フルアンテナ』
「は? 5G? ここ、Wi-Fiも基地局もないだろ?」
試しにGoogleを開いてみると、普通に接続。現実世界のページがサクサク表示された。
「……え、マジでなんなんだこの世界」
だが、「異世界 猫耳 文化」「異世界 5G 理由」などで検索してみると、どれも――
《検索結果が見つかりません》
《このリクエストは現在ご利用になれません》
代わりに、ちらつくように浮かんだ一文だけが残った。
《境界は揺らぎ、調和を求めている》
「……誰かふざけてんのか?」
そう言いながらも、悠は気づいていた。
疲れた自分の心が、さっきからほんの少し、軽くなっていることに。
「ま、猫耳がかわいいなら……それだけでいいか」
こうして、猫耳と5Gの異世界スローライフが、ゆるく、しかし確実に始まったのだった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
第1話は主人公が転生(?)してすぐの、異世界とのファーストコンタクトを描きました。
ゆるめの雰囲気ですが、後々にはちゃんと「スマホがつながる理由」や「異世界と現実の関係性」も伏線として描かれていきます。
現代社会の疲れを、異世界の優しさで癒してもらえるような物語を目指してます。