第六話
夜が深まり、騎士団本部は緊迫した空気に包まれていた。私は医務室で、ミラと共に負傷者を治療するための準備を進めていた。
「大丈夫よ、リディア」ミラが優しく声をかけた。「あなたの癒しの力があれば、多くの命が救えるわ」
「リディア」
振り返ると、鎧姿のセリックが医務室の入り口に立っていた。
「少し話せるか?」
彼は私を最上階の塔へと案内した。そこからは一面の森と、星空が見渡せる。
「明日の戦いは厳しいものになるだろう」
「リディア、明日は医務室にいてほしい。最前線は危険だ」
「無事で…帰ってきてください」思わず口にした言葉に、自分でも驚いた。セリックは一瞬、驚きの表情を見せたが、すぐに柔らかな微笑みを浮かべた。
「約束しよう」
「明日の戦いで何かあったら、この塔に避難してほしい。ここは最も守りが固い場所だ」
「わかりました」小さく頷いた。「約束します。でも、その代わり…あなたも、必ず無事で戻ってくると約束してください」
セリックはしばらく私を見つめた後、静かに頷いた。「騎士の誓いとして、約束しよう」
そして彼は右手を胸に当て、左手を差し出した。騎士の誓いの仕草だ。私は自分の手を彼の手に重ねた。彼の手は大きく、剣を扱うための硬い握りがある。でも不思議と温かく、安心感があった。
夜明け前、騎士団本部に警鐘が鳴り響いた。
「魔獣接近!全員、戦闘態勢!」
私は約束通り、医務室へと急いだ。次々と運び込まれる負傷した騎士たちを、緑の光で癒していく。力を使うたびに疲労が蓄積するが、目の前で苦しむ騎士たちを見れば、休む余裕などなかった。
そんな中、突然の衝撃が建物全体を揺るがした。
「本部内に魔獣が侵入!」
部屋の扉が勢いよく開き、血まみれの騎士が飛び込んできた。
「医務室を移動します!ここは危険です!」
彼の指示で、動ける負傷者たちが次々と別の場所へ移動し始めた。その時、強烈な衝撃と共に、医務室の壁が崩れ落ちた。
灰色の煙の向こうから、巨大な魔獣が現れる。赤く光る目が、部屋にいる人々を一人ずつ見渡し、そして…私に止まった。
「リディア、逃げて!」
魔獣が私に向かって飛びかかってきた瞬間、金属音と共に影が魔獣を薙ぎ払った。
「リディア!」
血に染まった鎧姿のセリックが、私の前に立ちはだかっていた。
「塔へ!約束だ!」
彼の叫び声で我に返り、私は走り出した。階段を上り、最上階の見張り場に辿り着いた。しかし、そこも安全ではなかった。
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