第五話
それから数日が過ぎ、私は騎士団本部での新しい生活に少しずつ馴染んでいった。朝は魔法の基礎訓練。昼食後は図書室で過去の「赤い雨」についての記録を調べる。夕方には時々、軽い負傷を負った騎士たちの治療を手伝った。
ある晩、中庭で星を見上げながら、セリックは静かに打ち明けた。
「私の両親は『赤い雨の事件』で命を落とした。それ以来、真相を知ることが私の使命だった」
彼の言葉に、胸が締め付けられる思いがした。「私が原因だと思っていたのでは…?」
「最初はそうだった」彼は正直に認めた。「しかし調査を進めるうちに、疑問が生まれた。なぜ六歳の子供があのような災厄を引き起こせるのか」
「そして、あの日の緑の光の記憶。あれは災いではなく、救いの光だったのではないかと思うようになった」
彼はふと、私の首飾りに目をやった。「その緑の石…特別なものだね」
「母の形見です」私は首飾りを握りしめた。「癒しの魔法を使う時、この石が暖かくなるんです」
彼の真剣な眼差しに、心が揺れた。初めて誰かが私の力を恐れるのではなく、可能性として見てくれている。
「セリック」勇気を出して尋ねた。「私は本当に…役に立てるでしょうか」
彼は静かに微笑んだ。それは彼が見せる数少ない笑顔の一つだった。
「あなたはすでに命を救っている。それ以上に役立つことがあるだろうか」
三週間が過ぎた頃、私は騎士団本部での生活にすっかり馴染んでいた。いつの間にか笑顔が増え、自分の意見を口にすることも恐れなくなっていた。
ある日、訓練場の奥の小さな部屋で、セリックと共に特別な魔法練習をしていた。中央に置かれた萎れかけの白い花を蘇らせる試みだ。
集中して花に向かって手を伸ばし、命の温もりを感じ取る。首飾りが暖かくなり、指先から緑の光が溢れ出す。花が見る見るうちに元気を取り戻していく。
その瞬間、急に頭に鋭い痛みが走った。目の前に、断片的な映像が浮かぶ。
——赤く染まった空。泣き叫ぶ人々。そして中央の広場に立つ、黒い装束の男たち。何かの儀式を執り行っている——
「リディア!」
我に返ると、セリックが心配そうに私を支えていた。「記憶が…少し」息を整えながら言った。「赤い雨の日、黒い服の人たちが儀式をしていて…私はそれを止めようとした」
彼の表情が引き締まる。「黒い服の男たち…」
その時、急な知らせが入った。
「団長!緊急事態です!大規模な魔獣の大群が近づいています。通常の移動パターンとは全く異なる方向から」
「方角は?」
「西の森です。騎士団本部の方角に向かっています」
セリックと私の目が合った。西の森—それは私たちが王都から来た方角だった。
「これは自然な現象ではない。魔獣がこのような行動を取るのは、何かに操られている時だけだ」
「エドガー・ロムフェルトの動きも調査すべきだろう」
その名前を聞いた瞬間、背筋に冷たいものが走った。婚約者だと思っていた人物の真の素顔。
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