第四話
目を覚ますと、窓からは午後の柔らかな光が差し込んでいた。身支度を整え、部屋を出ると、初老の女性マーサに出会う。彼女の案内で騎士団本部を歩いていると、訓練場からの金属音と掛け声が聞こえてきた。
扉を開けると、そこには数十人の騎士たちが訓練に励む光景が広がっていた。そして場の中央に、彼がいた。
セリックは二人の騎士を相手に剣術の指導をしている。彼の動きは流れるように滑らかで、無駄がない。まるで舞を見ているかのような美しさだった。気づくと、私は息を呑んで見入っていた。
訓練が一段落すると、セリックは私に気づき、こちらへ歩いてきた。
「リディア、休めたようで何よりだ」
彼の声には昨夜の優しさが戻っていた。周囲の騎士たちは好奇心に満ちた視線を向けてくるが、セリックの存在がそれを遠ざけてくれるようだった。
「騎士団本部を案内しよう。ここがしばらくの間、あなたの居場所になる」
セリックに導かれるまま、私は騎士団本部を巡った。訓練場、食堂、図書室、医務室…そして最後に、庭園へと足を運んだ。
騎士団本部の中心に位置する中庭は、武の場所とは思えないほど美しい花々で彩られていた。特に白い花が多く、その香りが心地よい。
「ここは戦いで命を落とした騎士たちを偲ぶ場所だ」セリックは静かに答えた。「白い花は彼らの魂の清らかさを表している」
「ところで」セリックは話題を変えた。「あなたの魔力について聞きたい。伯爵家の娘として、魔力測定は受けたはずだ」
私は少し俯いた。「はい、十六歳の時に。結果は…『不安定』と診断されました。使わないよう勧告を受けています」
「使わないように?」彼は眉を寄せた。「通常、魔力は使わないと暴走する危険性が高まる。誰がそんな勧告を?」
「魔法省の役人…でしたが、エドガー様の推薦だったと」
セリックの表情が硬くなった。「そうか…彼の関与か」
会話の続きは、突然の叫び声で遮られた。
「助けて!誰か医師を!」
振り向くと、若い騎士が血まみれの仲間を抱えて走ってきた。訓練中の事故らしい。
負傷した騎士の状態は深刻に見えた。このまま医務室まで持ち運ぶ余裕はなさそうだ。その時、私の体が勝手に動いた。
「ここに寝かせて!」
私は震える手を負傷した騎士の胸に置いた。心の奥で何かが目覚める感覚。母の首飾りが暖かくなり、緑の石が淡く光り始めた。
『お願い…助けて…』
必死に祈る私の手から、淡い緑色の光が溢れ出した。その光が傷口に吸い込まれていき、徐々に出血が止まっていく。
光が消えた時、私は疲労で倒れそうになったが、セリックが支えてくれた。負傷した騎士は静かな寝息を立て始めていた。
「これは…癒しの魔法」セリックの驚きの声。「最も稀少で貴重な魔法だ」
「あなたの魔力は破壊ではなく、癒しのためにある」
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