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第二話

ガラスが砕け散るような音が耳の中で鳴り響いた。しかし、それは実際の音ではなく、私の心が砕ける音だったのかもしれない。

「エドガー…様?」

信じられない思いで、私は彼の名を呼んだ。しかし彼は私を見ようともせず、引き続き堂々と語り続けた。

「フォンブラット家の令嬢は美しく聡明ではありますが、我がロムフェルト家の血統に相応しくないと判断いたしました。特に彼女の体に宿る不吉な力は、十年前の『赤い雨の事件』の原因とも噂されています」

会場がざわめいた。私の体が凍りついたように動かない。婚約破棄だけでなく、公の場で「赤い雨の事件」まで持ち出すとは。これは単なる婚約解消ではなく、社会的な処刑宣告だった。

「事実、最近の調査で、彼女が事件の引き金になったという証拠が見つかりました」

エドガーは懐から羊皮紙を取り出し、高々と掲げた。「これが彼女の罪の証拠です。星の祭りを前に、この災いをもたらす存在を王都から追放すべきです!」

おぞましい静寂が広間を支配した後、一斉に非難の声が湧き上がる。

「追放すべきだ!」

「災いの子を王都に置いておけない!」

「星の祭りの前に浄化を!」

私は足元から崩れ落ちそうになりながらも、必死に背筋を伸ばし続けた。涙を見せれば勝ちを与えることになる。十二年間、私はそう自分に言い聞かせてきた。

「待て」

広間の入り口から一人の男が歩み寄ってきた。漆黒の髪と鋼のような青灰色の瞳。高い背丈と引き締まった体格。その胸には王国騎士団の紋章が輝いている。

会場が息を呑んだ。私も含めて。


セリック・グランヴァレ——王国騎士団長。平民出身ながら若くして頭角を現し、王太子の側近として絶大な信頼を得ている人物だ。彼が何故ここに?

「彼女の罪は証明されていない」

騎士団長の声が、冷静に広間に響いた。彼は堂々とエドガーの前に立ち、その証拠とやらの羊皮紙を一瞥した。

「この証拠には王国司法省の印がない。正式な裁判なしに市民を裁くことはできない」

エドガーの顔が僅かに歪んだ。「騎士団長、これは貴族間の問題です。どうか余計な—」

「王太子殿下の名において宣言する」セリックの声が、エドガーの言葉を遮った。「私が真相を究明するまで、リディア・フォンブラット嬢は騎士団の保護下に置かれる」

私の目が見開いた。何故この人が、一度も会ったことのない私を守ろうとするのか。

エドガーが反論しようとした瞬間、別の声が響いた。「騎士団長の判断を支持する」

振り向くと、そこには王太子アレクサンダーが立っていた。青と銀の正装に身を包み、毅然とした表情で広間を見回す。「正式な裁判なしに処罰を決めることはできない。騎士団長の下で調査を続行せよ」

一瞬で広間の空気が変わった。騎士団長と王太子の判断の前に、エドガーも反論できない。彼は一瞬、憎悪の眼差しを私に向けたが、すぐに優雅な貴族の仮面を取り戻した。

「フォンブラット嬢」

低い声に我に返ると、騎士団長が私の前に立っていた。近くで見ると、彼の顔には一筋の傷跡が額を横切っている。そして、その鋼のような瞳は、不思議と温かみを感じさせた。

「私と来ていただけますか。ここは安全ではありません」

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