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現れたナイファー

 深い森の中、静寂が漂う緑に包まれた戦場で、優里はM4を構え、周囲を鋭く見渡していた。敵チームはすでに半数が倒れ、残りわずかなメンバーも追い詰められている。


「さて、残りは二人…と」


 彼女の視線の先、隠れ場所から敵が顔を覗かせる。優里は軽く笑みを浮かべ、グレネードランチャーの引き金に指をかける。


「ご愁傷様。これで終わりよ!」


 爆風と共に、優里の攻撃は確実に敵を撃ち抜いた。画面には回線切断のマークが浮かび、優里は思わず苦笑する。


「また逃げられちゃったか。ったく、これで何度目よ…」


 チームチャットに目をやると、仲間たちが称賛の声をあげている。


「皇女、マジで無双!」


「これでまた不戦勝かな?」


 優里はカウントダウンを見つめ、10秒後の勝利を待つ。しかしその時、視界に新たな敵キャラクターが現れる。


「…なに?まだ一人残ってたの?」


挿絵(By みてみん)


 名前は「隻牙せきが」。優里は驚きとともに眉をひそめた。そのキャラクターは、銃ではなく刀を構えている。


「…刀?まさか、ネタ武器で勝負に挑んでくる気?」


 一瞬の同情心から、優里はその場で様子を見守ることにする。「こんなネタプレイするなら、相当な初心者だろうし、ちょっとは手加減してあげないと…」


 だが、その考えはすぐに覆されることとなる。


 最初は余裕で見ていた優里だったが、チームメイトたちが異変を感じ始めた。


「皇女、やばい、そいつ…速すぎる!」


「こいつ、銃がまったく当たらない…!」


 視界の端で、仲間たちが次々と「隻牙」に倒されていく。優里は驚きつつも、その場に留まり続けた。しかし、次々と挑んでは消えていく仲間たちに、彼女も徐々に緊張が走る。


「皇女、そいつ…ただの刀じゃない!一瞬で間合いに入って…!」


「刀で!?なんだよこいつ、チートか…?」


 ついには優里一人が残るのみ。彼女は静かにM4を構え直し、覚悟を決める。


「…ハンデなんて、必要なかったみたいね」


 グレネードランチャーを構え、接近する「隻牙」に狙いを定める。


「刀なんてネタ武器で、私を倒せると思うなよ!」


 だが、彼が接近するのを見計らいグレネードを発射するも、信じられない光景が広がった。


「嘘…投げナイフでグレネードを落とした!?」


 ゲーム上の仕様でグレネードランチャーの発射速度は目で追える程の弾速だが、それでも撃ち落とすには並外れた反射神経と正確なエイムが必要としている。

 グレネードがナイフに当たり爆炎が広がる中、彼の姿が一気に優里へ迫り、その刃に倒される。


 優里がリスポーンするまでの間、彼女は「隻牙」を睨みつけていた。彼がふと口元を動かし、わずかに言うのが見えた。


「惜しいな」


 その言葉に、優里は驚きと怒りがこみ上げ、リスポーン後の再戦に覚悟を固める。


 再び戦場へと戻るが、驚くべき光景が広がっていた。複数のエリアが「隻牙」によって占拠され、優里のチームが確保していた領域が瞬く間に奪われていたのだ。


「な、なんでこんな…!」


 画面の端に表示されるエリアカウント。残りのエリアも「隻牙」に次々と制圧され、優里たちのリードが逆転されつつあった。


「嘘でしょ、あとひとつ取られたら…」


 焦りを感じながらも、優里は孤立無援の中で次のエリアを死守するため駆け出す。


 次のエリアで、優里はM4を構え、息を整えた。ここを守り抜かないと、すべてが終わってしまう。


「このエリアだけは…絶対に渡さない!」


 その時、茂みの中から「隻牙」が音もなく現れた。彼女は即座にグレネードランチャーを発射するが、「隻牙」は再び投げナイフを放ち、グレネードを打ち落とす。


 爆風の煙が消えた頃、彼は再び接近してきていた。


「また!?どんだけ速いのよ!」


 必死に弾丸を連射するも、彼は巧みに避けながら距離を詰め、再び優里を切り伏せる。


 ついにエリアがほぼ「隻牙」に制圧され、残り時間が刻々と減っていく。このエリアも奪われれば、逆転負けは決定的となる。


「くそっ、こんな奴に…!」


 通常の攻撃では太刀打ちできないことを悟った優里は、画面に表示されているエインヘリヤルのゲージに気が付いた。長時間の戦闘で、ついにゲージが満ちていたのだ。


「こうなったら、最後の手段よ…!」


 静かに息を整え、エインヘリヤル発動ボタンに指を置く。


「いけ、エインヘリヤル…!」


 画面が光に包まれ、キャラクター「フレイヤ」が覚醒する。強化された力が身体中にみなぎるのを感じた。


「隻牙…これで終わりよ!」


 強化された優里は、M4で連続射撃を放つ。すべての弾丸が「隻牙」を捉え、爆発音が響き渡る。


「やっと、当たった…!」


「隻牙」がひるんだ瞬間、彼女は連続でグレネードを放つ。覚醒した「フレイヤ」の猛攻には避け切れず、彼は爆発に巻き込まれていく。


 その刹那、隻牙の姿が闇に溶けるように見えた。


「まさか…エインヘリヤル!? そうか、相手チームがいないからハンデでゲージ溜まるのが早い!」


 隻牙もエインヘリヤルを発動していた。爆風の中から現れた隻牙は、刀に炎のようなオーラをまとい、一直線に突進してくる。


 冷静にナイフを構えて応戦する優里。間合いを詰める彼がすぐ目の前で急停止し、二人は一瞬、静寂の中に引き込まれたように感じる。


 世界が静寂に包まれ、周囲の時間が止まったかのような錯覚。優里のナイフと隻牙の刀、その間にはわずか数センチの空間だけが漂っていた。


「…ここで終わらせる!」


 優里はナイフを振り下ろす。しかし隻牙の姿がかすかに後方へと引かれ、ナイフはわずかに空を切る。


「避けられた…!?」


 その瞬間、隻牙の刀が光の一閃のように彼女の視界を貫き、彼女の「フレイヤ」は深く突き刺され倒れる。視界が薄れ、画面には「エリア制圧:隻牙」の文字が表示される。


「こんなの…ありえない…」


 全力を尽くした戦いがこうして終わるとは。優里の心に悔しさと屈辱が沸き上がり、画面越しに隻牙の姿を睨みつけた。

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