狙撃者
優里に通信が再び入る。
「先輩、そんなに焦らなくてもいいですよ。ただ…息をする暇も与えませんけど」
凛の声には静かな自信が滲んでいた。
優里は咄嗟に建物の影に身を隠し、高台を見上げた。
「さっきの銃声…音が少し反響していた。クレーンの上か、煙突のどっちかよね…」
しかし次の瞬間、近くの鉄骨が銃弾で撃ち抜かれる音が響く。
「読まれてる…!」
優里は慌てて別の建物の裏へ移動しつつ、後ろにいた息吹に問いかけた。
「ねえ、この子、本当に1年後輩なの? どこまで計算してるのよ!」
息吹は背後で小さく笑いながら答える。
「ほらね、本気でやった方がいいって言っただろ? 凛ちゃんは、マップの使い方も視線の誘導も完璧だよ。位置を特定するのは至難の業だね」
「だったら…誘い出すしかないか」
優里は意を決し、エリア内にわざと姿をさらす作戦に出た。
「葵、ハルコ。リスポーンしたら建物外には出ないで、遠くから凛を見つけ出して!」
通信でそう指示しながら、優里はエリア内の壁際に身を潜めた。
「これで、どう動いてくるか…」
一瞬の静寂。次の瞬間、遠くから低い銃声が鳴り響く。
「また狙ってきた…! どこから…?」
優里は一瞬だけ顔を出して狙撃地点を確認しようとするが、凛の正確な射撃が鉄骨をかすめる。
「いました! 建物上のクレーン!」
通信越しにハルコの叫ぶ声が響く。
優里はクレーンに凛の影を捉え、笑みを浮かべた。
「でも…あんたも完璧じゃない!」
スモークグレネードを投げると、クレーン全体が煙で覆われる。
「どう? これで少しは狙いが狂うでしょ!」
そう言った矢先、通信が再び入る。
「ナイスですね、先輩。でも…甘いですよ」
スモークの中から放たれた弾丸が、優里の頭上をかすめた。
「なっ…!?」
優里は息を呑む。スモーク越しでも正確に射撃してくる凛に、恐怖と驚きを隠せなかった。
リスポーンした葵とハルコが合流し、戦況はますます激化する。凛の静かな声が通信に響く。
「さて…次はどう動きますか? 3人がかりで私に勝てるか、試してみてください」
優里たちは、凛の圧倒的なスナイパースキルに対抗する策を必死に模索していた。リスポーンした葵とハルコが優里の元へ駆け寄り、息を整えながら次の一手を考える。
「優里、これどうするの? 凛ちゃん、スモーク越しでも当ててくるなんて…もう反則じゃない!」
葵が半ば泣きそうな声で訴えると、ハルコが腕を組みながらうなった。
「私のロケットランチャーでクレーンごとぶっ飛ばしてみせます? それでも当ててくるか試そうかなって」
「待って、ハルコ。感情的に動くのが一番危険よ」
優里は冷静に周囲を見渡しながら分析を始める。
「スナイパーに必要なのは視界の確保と射線の確保。凛は高台を利用しているけど、それが逆に弱点になるかもしれない」
「どういうこと?」
葵が首をかしげる。
「高い場所は視界がいい反面、動きが限られるわ。動きを読んで挟み込むように攻めれば、射線を遮るチャンスがあるかも。とにかく凛を誘い出すしかないわね」
「なるほど」
ハルコがニヤリと笑う。
「じゃあ、また囮役なら任せてください。大きな的を作れば、狙いたくなるでしょ?」
「助かるわ。でも、油断しないで」
優里は指示を出しながら、作戦を再確認する。
「葵、ハルコ、それぞれ分散して動いて。私は裏手に回るから、凛の動きを止める隙を作るのよ」
「了解!」
葵とハルコが頷き、それぞれの方向に散開する。
ハルコが建物の陰から飛び出し、あえて目立つ動きを見せる。
「ほら、撃ってきなさいよ!」
挑発的な言葉とともに、ロケットランチャーを構える。
「ハルコさん、そこはダメですよ」
凛の冷静な声が響いた瞬間、鋭い銃声とともにハルコが倒れる。
「くっ、またやられた…! でも、位置はわかった!」
リスポーン地点に戻りながら、ハルコが通信で情報を共有する。
「葵、どう?」
優里が問いかけると、別方向にいた葵が答えた。
「煙突の近くにいる! でも動きが早い! 今またどこかに移動してるみたい!」
優里はすかさず動き出し、煙突近くにスモークグレネードを投げ込む。白い煙がエリアを覆い隠す。
「これで動きを制限できるはず!」
しかし、その直後に通信が入る。
「いい判断ですね、先輩。でも、それだけでは足りませんよ」
凛は煙突からすぐに移動を始め、クレーンの高台に位置を変える。優里はその動きを追い、高台の下にたどり着く。
「逃がさない!」
優里はクレーンに駆け上がり、ついに凛を視界内に捉える。凛はその場で狙撃の体勢を崩さず、優里の動きをじっと見つめていた。
「チェックメイトよ!」
優里は銃を構え、引き金に指をかける。しかし、凛はその動きを予測していた。
「先輩、それはまだ早いです」
凛が反転してハンドガンを構えており、二人同時にトリガーを引いた。
結果は――。
優里の放った弾が凛の肩を捉え、凛の弾は優里の胸を撃ち抜いた。画面に「DRAW」の文字が表示されると、リスポーン地点で待機していた葵とハルコが同時に声を上げた。
「相打ち…!?」
試合が終わり、凛が優里たちの元に歩み寄る。
「先輩たち、本当に強かったです。でも、次は負けませんよ」
優里は息を整えながら凛を見つめた。
「あんた…」
息吹が拍手をしながら合流する。
「いやぁ、いい試合だったね。凛ちゃんもすごかったけど、優里ちゃんたちの連携も最後は見応えあったよ」
「冗談じゃない…」
優里は額に手を当てて苦笑した。
「3人がかりで挑んで相打ちなんて、ほんと、どうかしてるわ」
凛は優里の言葉にも冷静に答える。
「私はただ、息吹サマの役に立ちたくて頑張っているだけです。それに…先輩たちの強さもよくわかりました」
優里は肩をすくめる。
「認めざるを得ないわ。これだけの戦力をチームに入ってくれたら心強い」
「もちろんです、先輩」
凛は丁寧に頭を下げた。
葵が息吹の方を向いて苦笑する。
「息吹くん、凛ちゃんのポテンシャルすごいけど、正直ちょっと怖いよ」
息吹は肩をすくめながら微笑む。
「まぁ、独特だけどね。これからチームでうまくやれると思うよ」
凛が笑顔で息吹を見つめる。
「はい、息吹サマ。これからも全力でお仕えします」
優里は呆れながらため息をついた。
「…まぁ、いいわ。とにかく、よろしくお願い」




