最後の一人
放課後、優里と葵は「むーんらいと」へと向かう道を歩いていた。
葵は興奮した様子で、優里に話しかける。
「優里! ハルコさんってどんな人? すごく強いお姉さんって聞いたけど、早く私も会ってみたいな!」
「別に普通の人よ。ただ…火力バカって感じかしら」
優里は少しそっけなく答えるが、内心では再会に微かな緊張を抱いていた。あの戦い以来、ハルコが「むーんらいと」で働き始めた話は聞いていたが、実際に顔を合わせるのは初めてだった。
ゲーム喫茶「むーんらいと」に到着すると、店内は賑わっており、ゲームに熱中する人々の歓声が飛び交っていた。
「お、来たな!」
片手を挙げて二人を迎えたのは息吹だった。彼の隣には、店の制服姿のハルコが立っている。
「紹介するよ。ここで新しく働き始めたハルコさん」
「どうも、ハルコです。これからよろしくお願いします!」
ハルコはにこやかに笑いながら頭を下げる。その姿に葵は目を輝かせ、手を振る。
「ハルコさん! 優里から少し聞いてました。機関銃やロケットランチャーがすごく強いって!」
「いやいや、そんなに大したことないですよ。ただ、重火器が好きなだけで」
ハルコは控えめに笑うが、優里が横目でじろりと見て反論する。
「謙遜しなくていいでしょ。あの火力、普通じゃなかったし」
「それは優里さんに言われたくないですよ。“戦火の皇女”相手に引き分けに持ち込めただけでも光栄です」
ハルコは冗談めかして言い、優里は微かに顔を赤らめる。
「だから、その名前で呼ぶのやめてって言ってるでしょ」
息吹はそのやり取りを楽しそうに見ながら笑う。
「まあまあ、仲良くやってくれよ。ほら、せっかくだし何か飲んでいきなよ。ルナ店長の新作スイーツもあるぞ」
優里がメニューを眺める間、葵は目を輝かせたまま声を上げた。
「これ、美味しそう! 優里、一緒に頼もうよ!」
「…まあ、いいけど」
テーブル席に座りスイーツを楽しみながら談笑していると、「むーんらいと」の店長、ルナが現れた。
派手な笑顔と共に、特徴的な裸エプロン姿で店内を闊歩している。
「あらあら、優里ちゃんじゃないの! いい店員さんとお客さんを連れてきてくれて感謝するわ~!」
ルナ店長はおおらかに笑いながら優里たちのテーブルに近づく。
「えっ、いきなり何…?」
優里は困惑気味に返すが、ルナは全く気にせず話を続けた。
「お礼に、今日はお金なんていらないわ! 飲み物もスイーツもどんどん自由に使っていいから!」
「太っ腹ですね!」
葵が目を丸くして感心する中、息吹が茶化すように笑った。
「僕も臨時ボーナスが出たからね。優里ちゃんには感謝感謝!」
「勝手に感謝されても困るんだけど…」
優里は息吹をじろりと睨んだが、葵は嬉しそうに笑っている。
そんな中、ハルコが仕事のシフトを終えたらしく、制服を脱ぎ、普段着に着替えてテーブルに戻ってきた。
「お疲れさまでした!」
葵が元気よく声をかけると、ハルコは照れくさそうに微笑みながら椅子に腰を下ろす。
息吹は集まったメンバーを見渡し、手を叩いて話を始めた。
「さて、めでたく“デモリッシャー”ことハルコさんが加入したわけだけど、残るはスナイパーかサポーターだけだね」
その言葉に、優里は手を挙げた。
「そのことなんだけど、提案があるの。私がサポーターになる」
息吹は驚いて首を傾げる。
「え? 僕がやると思ってたけど、どうして?」
優里は少し考えてから真剣な表情で答える。
「まず初めに…現時点で私はまだアンタに勝てない」
そう言って、指を息吹に向けた。
「だったら、自由に動けるあんたがアサルトの役割をするべきだと思ってる。それに私の課題は、一人よがりな戦法をやめて、チームとしての連携を学ぶこと。全員のサポートに回るほうが、その課題を克服する意味合いもある」
「なるほどね。でもそれだけじゃないでしょ?」
息吹がニヤリと笑いながら尋ねると、優里はわずかに顔を赤らめた。
「…冷血の女王、ヘルもそうだから」
息吹の口角が上がる。
「やっぱりね。ランキング1位の彼女がアサルトじゃなくサポートに回る理由を知りたい、ってことか」
「…そうだけど、勝手に決めて悪いわね」
しかし、息吹は軽く肩をすくめて笑った。
「構わないよ。それに、優里ちゃん、このチームのメンバーはほとんど君の伝手だろ? 君がリーダーだよ。僕はリーダーに従うさ」
「私がリーダー…わかった!」
優里がしっかりと頷くと、葵は手を叩いて喜んだ。
「優里がリーダー! すごいね!」
「よろしくお願いします! リーダー!」
ハルコは優里に向かって敬礼をする。
息吹は話を続ける。
「さて、残るはスナイパーだね。入れるかどうかも含めて考えなきゃ」
「スナイパーって、あんまり動かないんだよね? このゲームって場所の占領が重要だから、そこまで必要なのかな?」
意外な疑問を葵が口にした。
優里は少し驚きながらも、微笑んで返す。
「まさか、葵からそんなことを聞くなんて思わなかった」
「私も役に立ちたいからね。攻略情報とか読み漁ってるんだよ」
そう言って、葵は誇らしげに胸を張る。
ハルコは腕を組み、うーんと唸った。
「確かに、普通のスナイパーなら大半はお荷物になりますね。でも、ガルムにはとびっきりすごい人がいますよね」
その言葉に、優里はガルムのスナイパー、ミーミルのことを思い出した。
「あの人は別格だと思うけど…必ずしも職種を揃えなくてもいいっていうルールだし、無理してスナイパーを入れる必要はないかも。でも…」
「でも?」
葵が首をかしげると、優里はしっかりと答えた。
「私はスナイパーを入れたいと思う」
その理由を聞いたハルコと葵が興味津々で目を輝かせる中、優里は説明を続けた。
「スナイパーの役割は対人特化。私たちのチームは、息吹がアサルト、私がサポーター、葵がメディック、ハルコさんがデモリッシャー。全体的に守り特化型になると思う。アサルト以外は固まって動くことになるけど、自由に動ける息吹を援護する人が必要。それに…このナイファーに追いつける動きができる人じゃないとダメ」
「なるほど…」
ハルコが感心していると、どこからか声が響いた。
「あら、スナイパーをお探し?」
振り向くと、ルナ店長が軽やかに近づいてきた。
「おっさん、盗み聞きしてたの?」
息吹が苦笑いしながら言うと、ルナ店長は笑いながら返した。
「おっさんじゃなくて、麗しきルナ店長でしょ。それより、あんたちょうどいい子がいるじゃない」
息吹はそれを聞いて、苦笑いをした。
「引っ越す前の話だろそれは…。さすがにあの子はこんなところに来ないでしょ」
「あらら、それはどうかしらね?」
そう言った店長の指差す先、店内の陰からひょっこりと誰かが姿を現した。
「こんにちは…ルナさん、そして息吹サマ」
現れたのはショート黒髪の髪型をした少女だった。彼女は少し緊張した様子で制服の裾を握りしめている。
「げっ! 凛ちゃん!? なんでこんなところに!」
息吹が驚いたように声を上げる。
「そんなの決まってるじゃないですか…息吹サマをいるところ私ありですよ」
凛と言われた少女がもじもじしながら答えると、優里は息吹をじろりと睨みつけた。
「…リア充だったのか、あんた」
息吹は慌てて否定するが、優里の冷たい視線に気まずそうに笑うのだった。




