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VSハルコ


「優里ちゃん、負ければメイド服だよ!」

 ギャラリーの中で一際目立つ息吹が、にやにやしながら茶化す声を上げた。


「だまってろ、二等兵」

 優里はじろりと睨み返し、冷たく言い放つ。その威圧感に、息吹は笑いながらも肩をすくめた。


「でもでもさ、黒髪ロングでミリタリーメイド服だよ?これ、ギャラリーの皆さんも期待してるんじゃない?」

 息吹が煽るように続けると、周囲のギャラリーも声を上げ始めた。


「それは見たい!」

「軍曹殿、ぜひ勝利を!」

「黒髪メイドとか最高だろ!」


 観客たちは一斉にハルコへ声援を送り、優里のほうには一切の応援がない。


「……全員まとめて敵リストに入れてやる」

 優里は小さく呟き、気合を入れ直した。


 向かい合うように設置されたPCデスクに、優里とハルコがそれぞれ腰を下ろす。優里はヘッドセットを装着しながら、軽く深呼吸をした。


「指揮官、ヴァルフロの経験はお有りですか?」

 ハルコが丁寧な口調で尋ねてきた。声のトーンにはどこか探るような気配がある。


『初心者だと思われて手加減されたら屈辱』

 優里はそう考え、即座に答える。


「大丈夫」

 短い返事の後、優里はにやりと笑う。

「私、強いから」


 その自信満々な態度に、ハルコの瞳が鋭く光る。

「ほう……じゃあ、本気でいきますね。後悔しても知りませんよ」


 二人の視線がぶつかり合い、静かに火花が散る。


 その様子を見ていたエリカと名札を付けた店長らしきミリタリーメイドが、手に持ったマイクを握りしめた。


「皆さま、お待たせしました!特別1対1バトルが今、始まります!」

 明るい声が店内に響き渡る。


「本日の戦場は、超接近戦必至の『ハウス』ステージ!屋内スタートか庭先スタートかで攻守が決まります!遮蔽物が多いマップですが、両選手の戦術に期待しましょう!」


 ギャラリーからは「ハルコ軍曹、勝てー!」という応援が飛び交う。一方で、優里には応援は一切ない。


 唯一の身内である息吹も――。


「メイド服っ! メイド服っ!」


 敵側に付いていた。


「なにこのアウェイな感じ」

 優里は内心でため息をついた。


 ヴァルフロにはゲストアカウントでログインされている。普段使うフレイヤのキャラではないため、自分が“戦火の皇女”だと知られる心配はない。


『でも、さっきからハルコっていう人の雰囲気がアークライトに似ている』


 優里は昨日のアークライトとの戦闘を思い返す。


『そういえば、あの人は機関銃を持って障害物を破壊するように弾幕を張ってきた……ただの偶然かもしれない…けど』

 優里はその偶然に賭けてみることにした。



「さあ、それぞれの職種と武器選択です!1対1はこの選択で勝敗が決まると言っても過言ではありません!」


 エリカが大画面を指しながら実況する。優里は普段使わない武器とサブ武器を選択し、職業はアサルトを選んだ。


「ゲームスタートです!」


 戦場はハウスに決定され、優里は屋内スタート、ハルコは庭先スタートとなった。


「これは……女子、詰みですな」

 常連らしき眼鏡をかけた迷彩バンダナの男性がぼそりと呟く。その言葉に息吹が食いつく。


「おお、どういうこと?」

 息吹が聞き返すと、男性は急に話しかけられたことに驚きつつも説明を始めた。


「これはハルコ軍曹殿の得意戦法です。M60機関銃を使って、遮蔽物ごと叩き潰す戦法……つまり、この配置は必勝ムーブ!」


「先手必勝!勝負、もらいました!」

 ハルコが叫ぶと同時に、M60機関銃を構え、家に向かって弾幕を張る。


「で、出たー!ハルコ軍曹のコマンドー戦法だ!」

 ギャラリーは歓声を上げ、会場は熱気に包まれる。


「戦場は地獄だぜぇえ!」

 ハルコは人が変わったように笑いながら、弾を撃ち続けた。


挿絵(By みてみん)


 一方、優里は――。


『やっぱりそう来ると思った』

 優里は葵が得意とするシールドを装備し、さらにダイニングキッチンの金属製の裏に隠れることで二重の防御を構築した。


「うわ、あの子……耐えてるぞ!」

 ギャラリーの声が再び盛り上がる。


 優里はニヤリと笑う。

 機関銃の弾幕がようやく止み、静寂が訪れた瞬間、彼女は慎重にハンドガンを取り出した。


「おいおい、死ぬわあの子! ハンドガンじゃ機関銃には勝てないだろう!」

 ギャラリーの誰かが声を上げる。大半の観客もその言葉に同意したようにうなずいた。だが、一人だけ違った反応を見せる者がいた。


「ほう、デザートイーグルですか。大したものですね」

 恰幅の良い眼鏡をかけた男性が低い声で呟く。興味深げに画面を凝視しながら続けた。

「これは.50AE弾仕様ですね。反動はとてつもないが、その分威力も抜群だ。貫通力も申し分ない」


「それがどうした?」

 横で聞いていたギャラリーが眉をひそめる。


「弾丸の威力だけなら、ハルコ軍曹の機関銃に匹敵します。いや、むしろ直撃させれば優里殿のほうが勝るかもしれませんぞ」

 眼鏡の男は指を立てて解説する。

「デザートイーグルは数発の限られた弾で勝負を決める銃。射手の腕前が試されるシビアな武器です。つまり、今の状況では……」


「条件は同じか」

 息吹が笑みを浮かべながら言葉を引き取る。


 優里の画面に目を戻した息吹は、彼女のキャラクターが銃口をわずかに調整する様子を見て、確信した。

 優里の手元が微かに動く。ハンドガンの銃口が家の壁越しに標的を捉えるよう、慎重に角度を変えていた。彼女の目は画面に釘付けで、指先に全神経を集中させている。


「だいたい、この辺ね」

 優里が小声で呟き、引き金を引いた。


 銃声が響く。


 一発、二発――続けざまに撃ち出された弾丸が壁を貫通する。


「なんだ!? ブラインドショットか?」

 ギャラリーがざわめく中、眼鏡の男は唇を引き締めたまま画面を見据える。


「いや……あれは偶然ではない」

 彼は感心したように声を漏らす。

「壁越しに位置を完全に把握して撃ち込んでいる……!」


 すると、晴子のキャラクターが肩を押さえて一瞬後退する様子が映し出された。


「ぬあっ!」

 晴子の声が漏れる。右肩に直撃を受け、機関銃が地面に落ちた。


「当たった……!?」

 優里は画面を見つめながら冷静に次の行動を考える為、窓ガラス越しに近寄り外の状況を確認する。


 だが、晴子の動きは止まらない。彼女のキャラクターが背中に背負っていた武器を取り出し、再び構え直している。


「まだ終わらせませんよ、指揮官」

 晴子の声が冷静ながらも燃えるような闘志を含んでいた。


 その武器を見た瞬間、優里の表情が一変する。


「……まさか、あれはロケットランチャー!?」


 ハルコが抱えていたのはM202という4連装のロケットランチャーだった。

「あれはまずい!」

 優里は目線をキッチンに戻し、あるものを見つけると即座にそこへ駆け込んだ。


 画面越しに映る巨大な銃口が、優里のキャラクターの方向を捉えていた。


「ファイア!」

 晴子が叫び、ランチャーが放たれる。


 次の瞬間、家の一部が大爆発で吹き飛び、炎と煙が周囲を包み込んだ。


「おお……あれはやりすぎだろ」

 ギャラリーの一人が呆然と呟く。


 家の壁が見るも無残になくなり、ダイニングキッチンも跡形もない状態となっていた。

「おう…あれは」


 ギャラリー一同は誰もが勝負は決まったかに見えていた。一人を除いては――。


「優里ちゃん、今だ!」


 息吹は叫ぶと、それに反応して、優里のキャラは人が入れるほどの冷蔵庫から飛び出しハンドガンを撃った。

「なっ!?」

 咄嗟にハルコは回避するが、銃弾はロケットランチャー本体と、左足に当たる。


「あの爆発を生きていた? まさか冷蔵庫の中に入って回避した?」

 驚くハルコをよそに

「それでも大やけどで無傷じゃないし、一か八かだったけどね…」

 優里は冷や汗をかきながら、にやりと笑う。


「おお、勝負は決まったか!」


 ギャラリー一同はハルコが武器を消失していた為、デザートイーグルを持った優里が優勢かに見えた。


「いや…あれは――」


 しかし、息吹はそれに待ったをかける。


 優里はハルコに銃口を向けて、クリックしたが、射撃音はなく「カチン」という音が響く。


「た、弾切れ…」


 一同は黙る。

 優里はもはや用済みとなったデザートイーグルを横に投げ捨てた。


「さて…あとはナイフ勝負と行きましょうか」


 優里はナイフに持ち替えると、それに反応してハルコは目を輝かせて


「はい!」と、ナイフを取り出した。

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