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私は、あの日見た光景を、一生忘れることはない。
部屋に充満する血の匂い。上下反転した世界を映しだすほど流された大量の血。
血の湖の中、佇む影が二つ。
私たちは『ヴァンパイア』と呼ばれる方たちの壮絶な人生の一幕を初めて見て、そして感じた。そこには私たちが幼い頃、一緒に遊んだレイはいなかった。
「……レイ?」
私たちの方を振り返ったレイの顔は、記憶にあるそれとは違い、ただただヴァンパイアとしての生に絶望したようだった。
「死ねない……ぼくだけ死ねない」
そう言ったレイは、ナイフを逆手に持ち、何度も何度も自分へと突き刺した。
「死ねない、死ねない、死ねない、死ねない――」
ナイフをどれだけ深々と突き立てようと、頭をどれだけ地面に叩きつけようと、変わったのは溢れ出た血の量だけ。傷ましいとか惨たらしいとか、その光景を説明するために必要な言葉を用意しようとしても足りない。それは筆舌にし難い光景だった。
「死ねない死ねない死ねない死ねない――」
何十と自殺を繰り返すレイを見て、私たちはようやく理解することができたのだ。幼少の頃からレイは不老不死であるということは知っていた。知ってはいたが、成長できない不思議な子供程度の認識しかしていなかった。
だから、この時初めて不老不死の本当の意味を理解した。
死にたくても、死ねない。何百年という時間をともに刻み、心の底から敬愛していた人が先立っても、後を追うことすらできない。その辛さがどれくらいのものかは、きっとレイの血が山全体を紅に染めるほど流れても、きっと私たち人間にはわかることはないだろう。
私はレイを部屋から連れ出した。私が幼かった頃と何も変わらないその身体は、今や私の背にすっぽりと入る。そのまま廊下を渡り、レイの自室へ向かった。
壁に背を向けて座らせると、レイは虚ろな表情のまま零れ落とすように言った。
「不味かったんだ」
それは懺悔をするような感情を押し殺した声色だった。だからこそ、私はただ「はい」と答えた。
「御師様の血は不味かった」
「はい」
「……思わず吐いてしまうほど不味かった」
「はい」
「ぼくは……心の底から嫌われていた」
掛ける言葉が見つからず、思わず黙り込んでしまう。
「飲まないって契約したのに……」
それだけ言うとレイはピクリともしなくなった。呼びかけても揺さぶっても何も反応しない。
ただそこには不老不死を生きるヴァンパイアが居た。




