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The Key  作者: 石榴矢昏
7/7

key7

 


 ◆


 立樹沙羅。

 そう呼ばれた彼女がいずれここに来る。


 あの青年は、そう言っていた。


「君は何もしなくていいんだよ」


 僕の耳の中で、青年は囁く。


「ただそこで待っていればいい」


 淡い光の中で、顔のない青年は微笑みを絶やさない。

 顔は見えないけれど、彼はきっと微笑んでいる。


 ――その見えない微笑みの下に、何かを隠してはいないだろうか?

 僕はふと、そんな疑問にぶつかった。

 あの光の仮面を被った青年は、僕を、僕らをどうする気なのだろう?


 見えない鎖で身体の自由を奪われていても、思考力は決して奪われていない。

 奪われてたまるものか。


「私を警戒し始めたようだね」


 またしても、青年に思考を読まれてしまった。

 互いにここに居る限りは、彼の監視は逃れられない。


「疑われるのも無理はないね。けどこれだけは勘違いしないでほしい」


 と、青年は念を押すような口調で、続けた。


「君をここに閉じ込めたのは私ではなく、”彼のほう”だよ」


 青年の言い方が妙に引っかかる。


「少なくとも私のほうは、君らに危害を加える気はないよ」


 どうか信じてくれ、とでも言いたそうな口調だ。


「だからといって、無事にここを脱してほしいとも思わない。だから手を貸すようなことも――また彼を止めに行かなくては」


 そう言って、僕らの傍観者は再び姿を消してしまった。

 青年の不在の時なら、思考を読まれることもないだろう。


 僕は固く目を閉じて、かつて僕が成り代わろうとしていたらしい、顔も居場所も知らない少女のことを思った。


 君は誰なんだ?

 どうして僕は君になろうとしたんだ、立樹沙羅?


 不意に、1人の少女の姿が脳裏に現れた。

 巨大な月のない、暗い灰色に塗り潰された空。


 その下で、髪の長い少女が海沿いの道をひたすら走っている。

 疲弊した顔で、何かに急ぐ彼女に僕は無力感を覚えずにはいられない。


 立樹沙羅、僕は、もう一人のサラはここにいるよ。

 僕はここにいるよ。

 この場所に飛んできて、僕を解放してくれ!


 僕は想像の中の立樹沙羅に向かって、声なき声で叫び続けた。

 あの番人が戻らぬうちに、ひたすら叫び続けた。

 強く、強く、時空の境界を超えて彼女に届くように。


 僕の叫びが彼女を助ける重要な鍵となるのならば、これ以上のことはない。

 そんな一縷の望みと共に、僕はただ、その人を待っている。


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