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The Key  作者: 石榴矢昏
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key5

 


 駅構内の人ごみを練り歩き、遠く離れたプラットフォームへ。

 赤いラインと青いラインが引かれた車体。その二つのうち、正しい電車に乗らなくてはいけない。

 目的地は私自身にも分かっておらず、何をもって正しい電車なのかはわからない。


 だけどとにかく、私は正しい電車に乗らなくてはいけないのだ。


 天井の低い通路も、下りのエスカレーターも、永遠に続くと思うくらいに長かった。

 時計を見ると、出発一分前に迫っていた。


 私は重いリュックを道端に棄て、プラットフォームへ駆け出した。

 歩行者の邪魔になることも今の私には知ったことではないし、あれに必要なものなど入っていない。

 向こうへたどり着けば、それがどんな荷物であろうが何の意味も為さなくなるのだから。


 定刻のベルがジリジリジリと耳を突く。

 階段を駆け下りると、蛍光灯に照らされたプラットフォームを挟んで赤と青の二つの電車が出発の時を待ち構えていた。


 私は迷わず、赤いラインの電車に飛び乗った。

 背後でドアが閉じられた。

 満員だったので、私は仕方なくドアの前に立つことにした。

 銀の手すりが氷のようにひんやりとしている。


 電車が動き出すと、向かい側に停まっていたのも同時に動き出した。

 一分一秒違わずに、全く同じタイミングで、二つの電車は動き出した。


 暗闇の中に浮かび上がる車内をぼんやり見ると、こちらが満員なのに対し、あの青い電車にはたった一人しか乗っていなかった。


 私と鏡合わせになるように、真正面に人影があった。

 なにかに不安がっているように項垂れているのが、遠目で分かる。一体何があそこまで彼女を不安にさせているのだろう?

 と、その人物を観察しているうちに、恐ろしい事実に気が付いた。


 あれは私だ。

 私がたった一人で、間違った電車に乗っている。


 自分の行動一つひとつに自身が持てないような、暗い面持ちの私と、目が合った。

 どういう反応をするのが正解なのだろう。


 しばらく平行に走っているのを見ているうちに、私は、あっと声をあげた。こんなに恐ろしいことが起きているのに、どうして誰も気が付かないのだろう?


 向こう側の線路がぶつりと途切れ、目の前で電車が落下したにもかかわらず、誰も、何とも思わないのか?

 あれにただ一人乗っていた私がどうなったのか、誰かに聞くまでもないだろう。

 その恐ろしい光景を見た私は、その場にしゃがみこみたくなった。


「君があっち側になるかもしれなかったんだよ」


 と、背後から、中折れの帽子をかぶり、濃いグレーの背広を着た初老の男が私に語り掛けた。

 その声は若々しく、白い髭を蓄えた顔とはあまりに不釣り合いだった。


「君を救った存在を突き止め、解放するのが君の役割だ」


 あの青年だ。

 この世界の外側で会った、顔の無い奇妙な青年が、この男の身を借りて私に語りかけているのだ。

 気が付くと、車両を埋めていた人だかりは亡霊のように一斉に消えていき、乗客は私と初老の男――あの青年だけになっていた。


「私は奴を制御するので精一杯なんだ。全ては君にかかっている」


「――『間もなく、7周目、7周目……』」


 お出口の鍵は、授かりの詩です。

 奇妙なアナウンスを聞きながら、私は次の場面に飛ばされた。




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