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The Key  作者: 石榴矢昏
3/7

key3

 


 ◆


 長い間眠っていたのか、瞼がやけに重い。

 身体が動かない。何かに拘束されている?

 自分の身体を見下ろしても、何もない。見えない鎖で囚われている?


 ここは、どこだ?

 真っ白で、何もなくて、暑いような、寒いような、奇妙な場所。

 あるいは、座標なんか存在しない、どこでもない場所。


 自由を奪われ、ここを脱する術もないのに、不思議と不安な気持ちは湧かない。妙に安心できるほどだ。

 いっそのこと、ずっとここに身を委ねたまま、堕落してしまってもいいと思ってしまうほど。

 ここがいつか聞いた、『死後の世界』と呼ばれるものなのだろうか。


 ――「ある意味で、今の君は死んでいるに等しいね」


 見上げると、そこには顔の見えない青年が立っていた。

 こんな奇妙な見た目をしているのに、どうして僕は彼の存在をあっさり受け入れているのだろう?

 と思ったが、僕はどこかで、この青年に会っている。

 とうに知っているはずなのに、いつ、どこで知ったのかは思い出せない。


「ここはどの世界線にも属さない、いわば『タイムラインの境界』とも呼べる場所だ。

 今の君はどこの誰の記憶にも居ないし、時間の流れの干渉も受けない状態だ


 ……いわば、宇宙の彼方で、誰にも知られぬままに凍結されているようなものだ」


 私と、()()()()()()()()()()()()()()以外からはね。

 青年は、そう付け加えた。

 

 相変わらず、顔は光に覆われていて見えない。見えないけれど、きっと微笑んでいる。

 彼女とは、一体誰のことだ?

 僕はそう口に出していた。


「本物の、君が成り代わろうとしていた彼女だよ」


 僕は耳を疑った。

 僕が誰になろうとしたというのだ?


「そう思うのも無理はない。今の君は――元来の君は、その強い意志の部分だけを地上に置き去りにして、ここにいるのだからね」


 顔の無い青年は、中指に太いリングのついた右手を掲げながら続けた。


「君自身はここに引きずり込まれたものの、君の魂の一部が、強い執念とともに地上に残って、今でも自身がもう一人の立樹沙羅だと思い込んでいる」


 タツキ・サラ?

 青年曰く、それが『いずれここに至るであろう彼女』の名前だという。


 僕が別の誰かになるという実感は未だ湧かないが、彼が言うのだから、きっとそうなのだろう。

 どちらにせよ、今はそれを聞き入れるしかない。


 ところで、目の前にいるこの青年は何者なのだろうか?


「私はこの空間の番人。永久的に囚われの身だ。本来ならばこうして他者と関わることも、何かしらの事象に介入することもあり得ない」


 と、番人を名乗る青年は僕の思考を見透かしたように、言った。


「恐らく私が直接的に関わる人間は、()()()が最初で最後になるだろう」


 ――僕はここでどうすればいい?

 声なき声で、僕は尋ねた。


「ここで彼女を待っていればいい。君を捕らえる錠を解く鍵は、彼女だけが持っている」


 わずかに片腕を上げてみた。そこに本物の鎖は無かったが、じゃらり、と重い鎖が鳴ったような気がした。


「彼女はきっとここに来る。私も手を貸してあげたいところだけど、()を制御するので精一杯だ」


 ――もし彼女が来なかったら?

 その可能性も否めないし、それが、最悪の結末に繋がることも安易に想像できた。

 だが、青年はそれには何も答えなかった。


「彼女はきっとここに来る」


 そう繰り返しただけだった。


「だから、君は何もしなくていいんだよ」


 そう言い残し、青年はどこかへ消えてしまった。

 永久に囚われの身だと言っていたはずなのに、妙な話だ。


 ここに閉じ込めた主は、僕をどうするつもりなのだろう?

 僕は本当に、このままでいいのだろうか?

 何も考えないと、また、うっかり眠りについてしまいそうだ。


 そしてこの空間に根を張り、一体化してしまいそうで、俄然僕は恐ろしくなった。




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