key1
――。
誰かが私を呼んでいる。
遥か遠く、ホワイトノイズ越しに、あるいは、次元越しに聞こえる声。
――て。
視界が徐々に鮮明になる。
重い目蓋を無理やり開くと、私は見慣れない部屋の中心にいた。
その薄暗い部屋には最低限の物しかなく、少し殺風景なくらいだ。
まるでその空間だけが外界から隔てられ、何年も時が止まっているかのような静寂。そこに踏み入る者までも凍結させてしまいそうなくらいの静寂と生気のなさが、この部屋に横たわっている。
にもかかわらず、そこは妙に居心地がよく、心が落ち着いていた。
――して。
ところで、この声の主はどこなのだろう?
誰もいないはずの部屋で、誰かが私を呼び続けている。
書き物机の上に、小さな銀の鍵が一つ。
窓から射す月の光に照らされて、暗闇の中に浮いている。
見えない力に引っ張られたように、私はそれに手を伸ばしていた。
その鍵は、不思議なほどに私の手によく馴染んでいた。
まるで、私が持つべくして持ったとでもいうように。
まるで、それが元々私の一部だったと錯覚してしまうくらいに。
すると突然、鍵が激しく光を発し、思わず目を瞑った。
――ここから出して!
必死に懇願するような叫びと共に、私は部屋から押し出されてしまった。
ベッドの上で意識が戻り、そっと目を開けた。
嫌と言うほどリアルな夢の感触が拭いきれず、ずきずきと頭が痛んだ。
あるいはそれは、嫌に生々しい手の中の感触のせいだったのかもしれない。
その正体に感づいた途端、心臓がドクンと跳ねる。
背中に冷たい汗がつうと走る。
嘘だ。
そんなはずはない。
でもこれは間違いなく……。
見たくない、信じたくないという思いを無視して、私の視線がそちらを向いていた。
怖い物見たさというのは本当に恐ろしい。
それさえなければ、私はずっと、この事実から目を背け続けることだってできただろうに。
そう思っていたが、これはは必然的に起きたこと、いずれ直面することだったと、後々知ることになる。
他の誰でもなく、私がそれを担わなければならなかった。
その運命からは、どう足掻いても逃れられなかったのだ。
手の中に、あの鍵があった。