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7 謎解き


 壁際から会場全体を見渡せる位置にディランたち四人はいた。右側には夜会に参加した貴族、左側には王族、目の前の床にはユージーン王子が床に座っていた。四人は男性が女性を挟むように並んだ。


 ディランの告発に会場は騒ついていたが、ミシュリーヌが話し始めると静かになった。

「私ミシュリーヌ・グレンヴィルはユージーン王太子殿下の婚約者でした。婚約者として殿下にお会いしたのは三度だけ。その三回目に学園でお会いした日、私の顔を見るなり殿下は私を階段の上から突き落としました。犯人は殿下で間違いありません!」


 ディランはクリスタルのネックレスを掲げて言った。

「王太子殿下はこの王家の秘宝、魂避けのクリスタルのネックレスをミシュリーヌの首にかけました。このネックレスは本来亡くなった後、他の魂に肉体を奪われる事を防ぐために国王だった者のみが付けることを許された物です。生きている者に使えば、魂を体から追い出し、戻れなくする事ができます。これは、王家の秘宝を使った殺人未遂事件です!」

王と王妃の顔色が変わった。


 バーナードが話し始めた。

「王太子殿下はジュリアも同じように殺害しようとしました。」

ジュリアと敬称なしで言われたジュリアは少し頬を染めた。その姿が愛らしく、ミシュリーヌは微笑ましく思った。


 ジュリアはすぐに切り替えて続いた。

「先程、一部の方はお聞きになったと思いますが、王太子殿下は「始末したはず」「なぜ死ななかったのか」と仰っていました。運良く私たちは生きていましたから未遂となりましたが、私たちを階段から突き落とした時、殿下に殺意があったのは明らかです!」


 ミシュリーヌは一歩前に出た。

「私と同じ場所で、ジュリア様も同じように階段の上から突き落とされました。私はその現場を見ていました!」

「嘘だ!あの場には俺とジュリア以外他に誰も居なかった!」


「王太子殿下はジュリア様にネックレスを付けて「これでもう大丈夫だ」と仰ったのです!」

バーナードはジュリアに付けられた方のネックレスを掲げた。

「なぜそれをお前が!あの場に本当に居たのか!」

王太子とミシュリーヌのやり取りを聞いて、貴族たちはこの告発は真実であると感じ取った。


「それは王家の!なぜ二本あるの?」

王妃が自身の口を押さえて絶句した。

「そうです。王家所蔵のネックレスが、なぜ二本あるのか?」


 ディランはバーナードからネックレスを受け取って両手に持ち、高く掲げた。

「それは王太子殿下が王墓を暴いたからです!」

「何ということを!」

王と王妃は玉座に力無く座り込んだ。


「王太子殿下は婚約者候補だった私たちが恐ろしかったのです。なんとか結婚を避けたくても私たちの瑕疵を見つけられず、高位貴族の後ろ盾が必要と言われていて婚約解消を願うこともできませんでした。直接手を下すには近づかなくてはいけない。それができない殿下は王太子教育で知ったネックレスを使って衰弱死させる事を選んだのです!」

ミシュリーヌの言葉に合わせてディランはもう一度ネックレスを勢いよく掲げた。


「もっと大切に扱ってちょうだい!」

王妃が叫ぶ。その悲痛さに周囲の貴族も本当に王家の宝物なのだと信じた。

「なぜそんなに大切な物を殺害に使用したのか、それは王太子殿下が悩まされている恐怖症のせいです。」


 ディランとバーナードが王太子の隣に行って王太子を立たせた。

「王太子殿下はジュリア嬢とミシュリーヌが恐ろしくて堪らないのです。」

「そうだ!なぜ皆平気なのか分からない。二人には恐怖しか感じない!」

会場が騒ついた。王太子が何を言い出したか分からない。


「高所恐怖症、閉所恐怖症、他人には理解されなくても本人には怖くてたまらないものがあるという、この恐怖症。王太子殿下は恐らく線対称恐怖症だと拝察します。顔の右半分と左半分が同じであればあるほど恐怖を感じてしまうのです。」


 ミシュリーヌは手鏡をディランに渡した。ディランは手鏡を顔の正面に立てた。

「鏡で顔の右半分を映すと、右半分だけの顔ができます。左半分を映すと左半分だけの顔が。一般的にこの二つの顔は異なります。しかしミシュリーヌやジュリア嬢は左右の顔が両方とも同じ顔になるのです。髪型も左右対称にすると、王太子殿下の恐怖はさらに増したことでしょう。」

貴族たちはなぜ王太子が美しいジュリアとミシュリーヌの事を怖いと言っていたか少し理解できた気がした。


「しかも王太子殿下は近眼です。近くで見なければ大丈夫なのですが、婚約者となるとそうはいかない。近くでミシュリーヌやジュリア嬢の顔を見て、激しい恐怖を感じたのです。本日のミシュリーヌとジュリア嬢の髪型は左右対称ですから、王太子殿下の感じた恐怖は想像を絶します。」


「誰にも相談できず、他の方法を思いつけなかった王太子殿下は、顔が見えないように背中から突き落とし、背中からネックレスを付け、ネックレスの効果を信じて衰弱死を待ったのです。」


 カーティス公爵と一人の男性が王の近くに来た。

「私は王の裁定者カーティス公爵である。こちらは王国法務部のアレックス・ボールドウィン伯爵。今回ディランとバーナード殿の告発を受け、二人の王子の調査を行った。」

会場の人々は騒ついた。王太子はもうユージーンに決まっていたのではないか。しかし犯罪者となると……と困惑が広がっていった。


「静粛に!」

アレックスが声をあげた。

「我々の裁定結果をお伝えします。ユージーン王子には問題行為がありました。まず、階段から人を突き落とすのは犯罪です。また、先程の証言から殺意があったことを認定します。加えて、宝物庫にあったはずの王家のネックレスの無断使用、王墓からの盗掘、どちらも証拠が確認されています。殺人未遂の犯人として罪を償いながらも、ユージーン王子には心の治療をお受けいただくことを進言します。残念ながら、王太子としては不適格と申し上げるほかありません。」


 王は一度俯いて、心を決めたように顔を上げた。

「……分かった。皆の前で二人の令嬢を階段から突き落としたと本人も証言している。殺意があったと思われる発言もあった。その上王墓を暴いたなど言語道断。ユージーンを廃太子とし、北の塔に幽閉する。そしてそこで心の治療をすると約束する。」

王が手を上げると、近衛騎士が二名、茫然としたユージーンに駆け寄り、両側から支えた。ディランとバーナードはユージーン王子を渡した後、ミシュリーヌとジュリアの隣に戻った。


「第二王子、アーノルド、これへ。」

アーノルドが王の前に立つ。

「アーノルドに関してはどうなのだ?」

カーティス公爵が一歩前に出てアーノルドの前に跪いた。

「王太子に相応しいと進言します。」


 王は頷いて、アーノルドをしっかりと見つめて言った。

「今日より其方を王太子とする。励め。」

「承りました。」

アーノルドは王の前で跪いた。王は王太子の証の指輪をアーノルドに渡した。本来ならこの場でユージーンが受け取るはずの物だった。王妃は王の隣で放心していた。


 王妃の子はユージーンだけで、アーノルドは王の庶子だった。どうしても二人目を授からなかった王妃のユージーンへの期待は大きく、アーノルドの存在は忌々しいものだった。しかし王に押し切られてアーノルドを第二王子として迎える事になり、結局王太子の座まで。王妃は今までの全てが虚しく思えた。


「改めて、アーノルドに祝福を!そしてアーノルドの婚約者、ホイットニー伯爵家のご令嬢、アマンディーヌ・ホイットニー伯爵令嬢を紹介する。」

王の声を合図にディランが率先して未来の国王夫妻に拍手を送った。会場中は拍手に包まれた。


 そしてディランたち二組の男女が王の近くに移動すると拍手が止んだ。カーティス公爵、グレンヴィル侯爵、ファビエン侯爵、マックマーン伯爵も並んだ。王は頷いた。


「さらに、新しい二組の婚約者たちを紹介しよう。ディラン・カーティス公爵令息とミシュリーヌ・グレンヴィル侯爵令嬢、そしてジュリア・ファビエン侯爵令嬢とバーナード・マックマーン伯爵令息の二組だ。盛大な拍手を!」

婚約者たちを祝い、夜会は締め括られた。


「結局何だったのかしら。」

ジュリアたち四人は学園の談話室に集まっていた。

「恐怖症が原因の殺人未遂事件、か。」

バーナードがボソッと言った。

「気になっていたのだけれど、どうして線対称恐怖症だと気づいたの?」


「あれは僕とミシュが幼い頃にしていた遊びがきっかけなんだ。骨折して暇だった僕はミシュに貰った手鏡で右半分だけの顔、左半分だけの顔を見て遊んでいた。ミシュの顔はどちらもほぼ変わらないのに、僕は左だけ冷たい顔で、右がニヤケ顔だったんだよ。他の人も左右で違った。恐怖症についての本を読んだ事もあって、アリソン嬢の話を聞いてもしかしたら、と夜会の日にミシュとジュリア嬢に左右対称にしてもらったんだ。そしたらあの反応だったから。」


「アリソン嬢がユージーンに頬を叩かれた話は胸が痛んだな。」

「流行りの左右対称の髪型にして会いに行ったら頬を叩かれた、と言ってましたわね。」

「頬が赤くなって、ユージーン様が満足げに笑ったと聞いて、恐ろしかったですわ。」


「コリン伯爵家はどうなりましたの?」

「元々婿養子だったから、今はアリソン嬢の母君が女伯爵として立たれて、ハリー殿が成人するのを待っている状態だ。来年ハリー殿も学園に入学されると聞いた。」


「アリソン様はディランが読んだ恐怖症についての本を書かれた方のもとで学ばれているのよね。」

「ああ。自分が気づいていたらミシュリーヌとジュリア嬢をあんな目に遭わせなくて済んだかもしれないと、落ち込んでいたよ。」


「アーノルド様は急な立太子でも動じておられなかったわね。」

「君たちにだから言うけど、アーノルド殿下の生みの親は僕の母方の叔母なんだ。産後すぐに亡くなってしまってね。何が起きたかまでは言えないけど、諸々を加味してカーティス公爵家は殿下に付く。ユージーンはミシュたちに何かしなくてももう未来は決まっていた。もう少し穏やかな流れになるはずだったんだけどね。」


「ユージーン様も思い詰めてしまわれたのかもしれないわね。」

「僕の方が成績が良くて王妃に叱責されたのがキッカケで僕を嫌っていた。ユージーンは僕への嫌がらせでミシュリーヌと婚約を結んだものの、あまりの恐ろしさに自分を見失ってしまったのかもしれないね。恐ろしい人と結婚しなくてはいけない、逃げられないってね。」

ディランはミシュリーヌの手を握った。


「それで階段から突き落とされては体がいくつあっても保ちませんわ。」

ジュリアが頬を膨らませて怒った顔をした。バーナードはその頬を愛しげに撫でながら言った。

「一応全て丸くおさまった。ユージーンは恐怖から解放されて心の平穏を得ただろうし、ディランはミシュリーヌを取り戻した。そして俺は、高嶺の花を手にした。愛しいジュリア。」

バーナードはジュリアの手を取って口づけをした。ジュリアは頬を染めた。その姿を見て、ディランはミシュリーヌを抱き寄せた。ミシュリーヌはディランを見上げて微笑んだ。




読んでいただきありがとうございました。

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