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『ジュリア様!来てくださって良かった!あら、ディラン様?先程窓辺にお花を置いていらした方ですわ。』

「ディラン様、ミシュリーヌ様はあちらに、先程あなたがお花を置いたと言っていますわ。」

『昔、その方によく似た可愛らしい男の子と仲が良かった気がしますわ。』


「花の件は合っている。でもどこにミシュリーヌが居るんだ?」

「え?見えませんの?すぐ目の前にいらっしゃいますわ。」

「揶揄っているのか?」

『そうよ!ディーにそっくり!私の初恋の人!』


「めっそうもない!なぜ私がそのような…何か、ミシュリーヌ様とディラン様にしか分からない事はございませんか?私がミシュリーヌ様の答えを伝えますから、それで信じてください。ミシュリーヌ様も良いですね?」

『分かったわ。ディーとの思い出を答えればいいのね?』

「そうです。」


「でも、記憶を失っているんだろう?」

「どうかお願いします。ミシュリーヌ様はここにいるんです。」

「…僕がミシュリーヌを呼ぶ時の特別な呼び名は?」

『ディーは私をミシュと呼ぶわ。』


「ミシュですわ。」

「合ってはいるが聞いた事があったかも知れないな…僕が初めてミシュリーヌに贈ったものは?」

『ディーは私の五歳の誕生日に素敵な帽子をくれたのよ。それが初めてだったと思うわ。』


「五歳の誕生日の時の帽子ですって。あら?私ディラン様から贈り物っていただいた事ありました?」

『今それはどうでも良いのではなくて?』


「すまない。義務を果たしていなかったな。」

『ちょっと!ジュリア様!今はその話は要りませんわ。それにジュリア様はバーナード様のような筋肉質の方がお好きなのでは?』

「まあ!義務だなんて。えぇ?ミシュリーヌ様ちょっと黙ってていただけます?」


「本当にここにミシュが居るんだな。認めるよ。ミシュ、早くなんとかしてあげたい。」

『ディー。こんなに大きくなって。あの可愛らしかったあなたはどこへ?もちろん今のあなたも素敵よ。』


「ミシュリーヌ様は幼いディラン様の事は覚えていらっしゃるようですわね。不思議ですわ。さあ、サロンに移動してこれからの事を相談しましょう。」

「そうだな。なぜ僕に見えないのか納得はいかないが、まずは移動しよう。」

ミシュリーヌはしばらく話しかけていたが、ディランには聞こえず、伝えるのを面倒がったジュリアは何も言わず、ミシュリーヌは話しかけるのを諦めた。


 デュランとジュリア、ジュリアから離れないようにしっかりとジュリアの後を追うミシュリーヌ。奇妙な状態の三人はサロンへ向かった。


 サロンの入り口ではバーナードが待っていた。

「来たな。ジュリア嬢お手をどうぞ。」

ジュリアはバーナードのエスコートで談話室に向かった。その後をミシュリーヌとディランが着いて行く。


 三人分のお茶が用意されていた。

「バーナード様、ディラン様にはミシュリーヌ様が見えませんでしたが、ミシュリーヌ様は子供の頃のディラン様との事を思い出したようです。残念ながら今のディラン様のお姿はご記憶にないようでしたけれど。」

「ディラン殿には見えないのか…なぜ、ミシュリーヌ嬢の事を快く思っていなかった俺に見えるんだろうか。」


「まあ!バーナード様も?私もなのです!何かしら揉めていましたでしょ?私たち。」

「僕はミシュリーヌの事は嫌っていない。なんなら好きだ。婚約を申し込むつもりだった。王太子に邪魔されなければ。」

ディランはテーブルを両方の拳でドンッと叩いた。


「ディラン様、ここにはミシュリーヌ様もいらっしゃるのをお忘れにならないで。あら、真っ赤なお顔で固まっていますわ。こんなに純真な方だったんですわね。私に色々と仰ってましたけど、随分無理をされていらしたのかしら。まあ、私もですけど。」

『立場上、周囲を牽制していましたわ。』


「私もです。別に王太子殿下のご寵愛が欲しいわけではなく、ただ、立場上の振る舞いでした。」

『私たち、無駄な事に頑張り過ぎていましたわね』

「あら?記憶が戻ったんですの?」

『あら、本当だわ。大切なディーとの事を思い出したからか、ジュリア様の事も少し思い出せましたわ。』

「そういうものなのか?」

『分かりませんわ。初めての事ですもの。』

「まあ、それはそうか。」

バーナードは紅茶を飲み干した。


「ちょっとちょっと!ちゃんとミシュリーヌが何を言っているか伝えてくれないと!」

ディランだけ話が見えない。

「ごめんあそばせ。ミシュリーヌ様がディラン様をディーとお呼びしていますわ。後、ディーを見てから記憶を思い出してきたと言っています。」

「ミシュ!」

「ディラン様、こちらですわ。」

ジュリアはディランが向いたのとは逆方向の、ミシュリーヌの前のテーブルをポンと叩いた。

「姿が見えないなんて、ミシュの声が聞こえないなんて、辛過ぎる…」

『ディー…』


「ディラン様、バーナード様、今日の帰り、お時間はございますか?私、なぜかミシュリーヌ様を運ぶ事ができますの。ご自身のお体を見たいとおっしゃっています。ご自宅へお連れする予定なのですが、ご一緒しませんか?」

二人とも大丈夫、と快諾。四人でグレンヴィル侯爵家へ向かう事になった。


 馬車の中でミシュリーヌは何か考え込んでいるようだった。

「ミシュリーヌ様、どうされました。考え事ですか?」

『私、なぜ階段の踊り場で倒れていたのかしら。』

「ミシュリーヌ様はなぜ踊り場で倒れていたのかと考えていらっしゃいます。」


 密かにその件を調べていたディランが言った。

「僕の調査によると、どうも階段の上から突き落とされたらしい。ミシュが階段の上で誰かと話している姿が目撃されている。目撃者がその場を離れた後、悲鳴が聞こえて階段に駆けつけた。その時にはミシュはもう踊り場で倒れていて、周囲には誰もいなかったとの事だった。誰かに「動かすな!医務官を呼べ!」と言われて、その人は医務室に人を呼びに行った。医務官と踊り場に戻った時には王太子殿下が傍に居て、クリスタルのネックレスがかけられていた、と聞いている。いつネックレスがかけられたのか、記憶は曖昧だとも言っていた。」


「なぜネックレスが?」

「宗教的な側面が強いが、他の者の魂が入り込んで体を乗っとられるのを防ぐことができると言われている。王家の秘宝を婚約者を守るために使ったと、王太子の評価は上がった。」


「でもそれは考えようによっては、踊り場で倒れている婚約者に対して最初にする事として少し不自然では?」

バーナードは首を傾げた。

「そうですわね。体を乗っ取られないようにと死んでしまったのを受け入れるような行動をするよりは、意識を取り戻してほしい、と受け入れない行動をする方が自然な気がしますわね。」


「僕には王太子は婚約者としてのミシュをあまり大切にしていたようには見えなかった。今回そこに違和感を感じていた。大切だから王家の秘宝を、という行為と、二人が言うように大切な人が倒れていたら何をするか、確かに王太子の行動には不自然さを感じるな。」



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