その日、雨が降る/前編
その日、世界が滅亡した。
第四次世界大戦だか、第五次世界大戦だか分からないけれど。とにかく世界は終焉を迎え、新たな時代が始まった。
太陽の光を遮る物が一切無くなり、日本は砂漠のように暑苦しい国になったのだが、人々はそんな国に住み続けて繁栄してきた。
結果、それが今の日本人『新日本人』だ。
私自身この名前は安直すぎると思ったが、どうやら誰かの一存で決まった名前ではないらしい。
「砂漠みたいな、というか実際に砂漠化しているのだけれど」
今の日本に土はない。アスファルトも苔も雑草もない。
あるのはただ風に乗って流されるだけの砂だ。
「私ならこんな国からはさっさと出ていくのだがな」
私は道行く人々を見ながら溜息を吐く。まあ道なんて大層なものは存在しないのだけれど。
現在の気温は50℃を超えている。それでも人々が外に出ているのは何故か。
「人類は変化し続ける環境に対して進化を余儀なくされた……」
見た目自体は世界大戦以前と変わらない。変わったのは肉体内部の構造。こんな暑さにも耐え忍ぶ強靭な皮膚。そして圧倒的な発汗能力。それらによって新日本人はこんな環境でも生きていけるのである。
ちなみに他国がどうなっているのか。私も話で聞いた程度でしか知らないが、やはり日本と同じように環境がかなり変化しているようだ。例えば、インドは極寒の地になり、熱帯雨林も消え失せた。
当然、そんな突然の環境変化についていける生物など存在するはずがなく、動物たちはみんな死滅した。
「ほんとになんで人間だけ生き続けてるんだよ」
ゴキブリ以上にゴキブリだな。でも、もしそうなら新聞紙で叩けば死ぬかもしれないが。
「まあ、樹木が育たなくなった世界で紙なんか作れるはずもないがね」
私は一面の砂を見ながら物思いにふける。
「……もう何年も雨を見ていないな」
砂漠と化した日本で雨が降らないのは当然のことだが、こうも降らないと寂しさを覚える。
「別に雨が好きだったわけでもないのにな」
自分が可笑しく思える。
雨を降らせる装置とかあれば話は違ったのかもしれないが。
日本は兵器ばかり製造して、結局文明の利器と呼べるような発明はしていない。
世界が劇的に変わった現在も国の上層部はいつか来る戦争の為に軍隊の育成と兵器製造で忙しいらしい。
みんな生活するのが精いっぱいだというのに、何をやっているのか。