28_アイオーンライフ・ネクサスアルゴリズム
評価、ブクマ、リアクションありがとうございます。
中々、進まず申し訳ない。
ゼンキチとポン基地があの死闘を繰り広げていた頃の話。
あの戦いの裏で、ひっそりと、しかし確実に次なる火種が燻っていた。
とあるゲーム内匿名掲示板での話。そこは、各種ある雑談掲示板の中でも特に掃き溜めと称される場所だった。
―― 通称、[アイオーン]晒しスレ。
それが立てられてから既にパートは、五十を超えている。日々の愚痴と噂と、時折混ざる本物の暴露が溶け合う悪意と好奇心の巣窟。
その日、そこに一つの書き込みが投稿された。
[アイオーン]問題プレイヤー報告所Part54[晒し]
347:とある名無しの探索者
・容疑者プレイヤー名「ポン基地」
・罪状「迷宮攻略中に突如敵前逃亡、ギルド共有アイテムの無断利用etc……」
・特徴「タンク職、大盾と斧槍を装備、アバターは偉丈夫の男前だが、喋り方は少しオタク気質、黒いマントを好んで装備している」
・特記事項「目撃したら攻略最前線まで報告頼む。捕獲協力者には報酬あり」
348:とある名無しの探索者
>>347 逃げタンクなんて新しすぎだろwww
349:とある名無しの探索者
>>347 アイテム持ち逃げは草。中々剛毅の者だ。
350:とある名無しの探索者
フロントラインくん、きっとコイツのせいでダンジョンアタック失敗したんだろうな~
351:とある名無しの探索者
怒りが透けて見えるよ、フロントラインくん。トップギルドらしく、自分たちの力で解決してどうぞ。
352:とある名無しの探索者
フロントラインは、前回も似たような内ゲバ解決のための報酬ケチったっていう前科があるからね……。
353:とある名無しの探索者
トップギルド様なんだから本気出せばすぐでしょw
354:とある名無しの探索者
フロントラインはまず狩り場の独占と秘匿をやめていただきたい。そういう隠蔽体質がトップギルド連中によるレベル格差・バッドマナーを産んでモラルハザードを引き起こしてんだよ。もう終わりだろこのゲーム。
355:とある名無しの探索者
てか最近、フロントラインの内ゲバとかどうでもいいレベルでヤバいやつらが暴れてんだけど。
356:とある名無しの探索者
>>355 晒せ。
357:とある名無しの探索者
>>356 PKの常習犯みたいな奴らの集まりで、名前が【†黒狼猟団†】とかいう奴ら。
358:とある名無しの探索者
>>357 最近はPKだけじゃなくて、NPC狩りにハマってるらしい。結構、討伐報酬がうまいのもあって、NPCリンチしてクソ煽ってる動画とか上げてる性悪集団。
359:とある名無しの探索者
>>356 見てきたけど、クソ胸糞悪かった。早くBANされてほしい。
360:とある名無しの探索者
あの黒フードで名前揃えてる厨二臭い奴らだろ?
この前も街の入口で決闘申請押し付けてきやがって、断ったらめちゃくちゃ粘着されて、結局集団でPKされてマジで腹たったわ。
361:とある名無しの探索者
あいつら、わりと初期から単品でここにも名前上がってた気がするけど、連み出してからより悪質になったよな。
362:とある名無しの探索者
聞いた話だけど、どっかの過疎配信者がレアNPCとパーティ組んで、配信で垂れ流してるらしく、それ狙ってなんかこそこそ動いてるらしいよ。お前らも巻き込まれないように気をつけろよ。
――そうして、事態は知らずの間に動いていた。そのことにゼンキチたちはまだ気づいていない。
決闘から少し後のこと。
サクヤを先頭にし、三人は聖都に向かって帰路についていた。
行く時の道のりは、街道を往来する馬車を利用して、楽に移動できたが、帰り道はそうはいかない。時間は正午を回ったところである。運良く、往来の馬車に会えれば移動はずっと楽になるが、生憎三人全員が悪運持ちのようで人っ子一人すらすれ違わない。
「聖都までなっがぁーい! 馬車が来い! もう足が棒だよぉ」
「サクちゃん、俺がおんぶしてあげようか?」
「ギルティ」
「……調子に乗りました」
三人は聖都へと向かう長い帰り道を、午後の陽射しを浴びながら歩く。戦いの余韻は未だ冷めやらず、ゼンキチの手にはまだ戦いの温もりが残っていた。
掲示板に投下された火種のことなぞ露ほども知らず、各々先ほどの戦いの余韻と疲労を抱えていた。
「ふぅ。俺もなんだか今日は疲れたな」
「そりゃそうでしょうよ、お師匠。だって私とボス戦した後、すぐにポンきっさんとの決闘だからね。連戦連勝だよ」
「まあ、それもそうか。昔はこの程度の強行軍なら屁でもなかったんだがなぁ」
年寄りくさく肩を叩いて、そう呟くゼンキチをサクヤは笑った。
「そういう裏設定か?」
「お師匠は見た目の割に言動がジジイだから、なんか物凄い過去があるんでしょ」
「なんだなんだ素っ気ない奴らだな。ジジイの長い昔話でも聞かせてやろうか?」
「いやでーす!! 絶対長いじゃん!」
「まあでも、聖都までの道のりは長いから聞いてみてもいいんじゃない?」
そのポン基地の一言にサクヤは全力で顔をしかめた。
過去に余程嫌なことでもあったのだろうか。その顔はお前は何を言っているんだと、ポン基地のことを睨みつけ、言外に余計なことを言うなと叱責している。
「無理無理! あの夜の地獄の修行パートの時にそれで嫌な目にあったんだから!」
言外では済まなかった。サクヤは、直接的にポン基地を詰り、間接的にゼンキチにもダメージが入る。
「……そんなに嫌だったのか」
「そりゃあ、上司とかから長話聞かされんのとかも嫌じゃん? 一応、あんたは師匠で目上の人間なんだから、それと一緒だろ」
「いや、そこまで冷静に分析されるほどの”嫌”ってわけじゃないんだけど、なんていうか疲れてたから、余計泣きっ面に蜂みたいな感じだったというか、精神的ダメージが深刻だったからというか……」
ポン基地がぼそりと突っ込む。
「それもう”嫌”以上のやつでしょ……」
「うぐぅ……」
「たはは……!」
予想外の反撃を貰い、ゼンキチはため息を一つ吐きながらどんよりと肩を落とす。その様子を見て、ポン基地は思わず苦笑し、肩をすくめた。普段はこんな覇気のない男に俺は負けたのか、と。サクヤは気まずそうに目を泳がせながら、慌てて手を振り、何か言い訳を探すようにもぞもぞと口を開いた。
「だ、だってさ――」
そうして語り合っていれば、案外道中なんて短いもので、三人はどんどん先へと進む。
「うん……?」
道中、ふとサクヤは背後から視線のようなものを感じた。
気配察知のスキルが発動し、何者かの視線がうなじの辺りを刺す。しかし、振り返っても、そこにはただ伸びる街道と、揺れる草原の風景しかない。人の往来のない道、遠くの空に一羽の鳥が飛んでいるのが見えるのみ。その鳥の鳴き声すら聞こえず、どこか現実味のない静けさが、サクヤの胸の内に、ざらつく違和感を残していた。
「……気のせい、かな?」
サクヤはそう小さく呟いて、ゼンキチたちも少し様子のおかしなサクヤを訝しんだ。
「サクちゃん、どうかした?」
「何かあったか?」
ゼンキチとポン基地が同時に声をかけるが、サクヤの様子はパッとしない。
サクヤは、周囲を気にしたように見渡しながら落ち着かない様子で口を開いた。
「うーん、なんか私の気配察知のスキルが反応した気がするんだけど、何の人影もないから気のせいだったのかなーって……」
「ふむ? 俺の気配察知に反応はなかったな」
「俺も」
「私の気配察知って隠れてこっちを見てるプレイヤーに対して、反応するものだから多分その辺の違いじゃない?」
「そうか、気配察知のスキルもそんな種類が分かれるんだな。しかし、妙にピンポイントなスキルだな……」
「うん。女独りで配信なんかしてるからか、よく隠れてみられてたのか、そんなスキルになっちゃった」
「……ギクッ」
「……お前かぁ」
「時効では?」
「……ポンきっさん、ギルティ二回目」
サクヤからお説教を受けるポン基地を尻目にゼンキチは辺りを見回してみた。サクヤの違和感を信じてのことだが、しばらく目を細めて周囲を見渡してみても、やはりというか見晴らしの良い平原に怪しい人影は全くと言っていいほどない。
「やはり、何もなさそうだが……」
ゼンキチはそう呟いて、視線を前に戻すが、どこかその違和感のなさに違和感を覚え始めていた。
ふと、視線の先、進行方向の遠い空に先ほども目に入った鳥が飛んでいる。その鳥は、ゼンキチたちから見ると豆粒のように小さいが、見渡す限り生物の気配もない草原にただ一つ見えている生物の痕跡だった。
ゼンキチは、その痕跡をじっと見つめた。そうして、ようやく違和感の正体に気づく。
――動いていない。
その鳥は、微動だにせず、その場で停止していた。
そのことに気づいてからのゼンキチの行動は速かった。
「サクヤ、ポン基地! 俺の傍まで早く来い!!」
すぐさま、サクヤとポン基地を近くまで呼び寄せながら、状況を呑み込めてない二人に対し、手短に状況を話す。
「なに、どうしたの!?」
「まだわからんが、たぶん俺たちは何らかの術中にある。だから今からそれを明かす。まあ勘違いだったら笑ってくれ」
その声色は、どこか張り詰めた硬さが宿っていた。サクヤとポン基地は、言われるがまま素早く距離を詰め、互いに背後を守れるように陣形を取った。
「……で、何がどうなってるの?」
サクヤが小声で問う。
ゼンキチは周囲を見渡しながら、素早く空に張り付いたままの鳥を顎で示した。
「あの鳥だ。あの鳥、さっきから動いていない」
「……え?」
ポン基地が目を凝らして、ゼンキチの示す方向を見た。確かに、空に浮かぶ豆粒のようなそれは羽ばたきもせず、流れる風へ揺らされることなく、まるで背景のようにそこに固定されていた。
「オブジェクトの停止……? 描画距離の限界とラグじゃないのか?」
「可能性はあるが、どうにも違和感がある」
「お師匠、どうする……?」
サクヤの問いに答えず、ゼンキチはおもむろに刀を抜いて、やや肩越しに剣を倒し、前傾した八相の構えを取った。
言うよりも雄弁に。抜き放たれた白刃とその構えは、元となるロアマンティスの代名詞とも言える”あの初撃”を彷彿とさせる。
「八種雷剣術・基本形、【火雷鳴】」
瞬間、ゼンキチの手元に稲光が走る。雷光は雷鳴を伴い、火花を散らした。
ゼンキチが裂帛の気合とともに大地を踏みしめると、辺りにはスキル【震脚】と同様の効果をもたらして、踏み込みと同時に振り下ろされた刀は風を斬り、刃に宿った雷光が脈打つように光る。
遅れて、空気が焦げた匂いを帯びて、刀閃が描く進行延長線上を炎が唸り、前方一面を灼いた。
――八種雷剣術
ゼンキチのオリジナルスキルであるそれは、その名の通り八つの基本形を持つ。
少し前、ポン基地にとどめで放った【大雷天】が、天から落ちる雷のごとき一撃必倒の必殺剣であれば、【火雷鳴】の性質は別物。火雷鳴は、剣が描いた軌道そのものが燃え上がり、雷鳴のように広がる火走りが帯となって、前方一面を焼き払う広範囲攻撃である。
しかし、草原を薙いだはずの雷と炎は、衝突音も、燃え上がる音すらも立てず、何もなかったかのように虚しく消え失せた。
これにはゼンキチも眉をひそめるしかなった。スキルが失敗したわけでもなく、確かな手応えはあった。火雷鳴を放った以上、目の前の景色に何も変化がないこと自体がおかしいのだと、違和感は確信に変わり、より警戒を強める。
すると、ゼンキチたちを囲む空間がぐにゃりと歪みだした。まるで透明な水面に石を投げ込んだかのように、見えない空間に波紋が走り、現実そのものが改変されていくように景色が変わっていった。
火雷鳴の熱による蜃気楼でもない現象だった。空間そのものが、形を保っていられなくなったかのように捻じれ曲がっていく。
遅れて、焦げた草の匂いが鼻腔を刺す。
すると空間の歪みのその奥から、ぞろぞろと慌ただしく人の影がせり出てきた。
「おい、シリィ!? テメェ、ヘマしやがったな!」
「バカ言うな、私の呪術領域は完璧だったよ! 逸って殺気漏らした早漏の鉄砕、テメェの方が戦犯だろうがァ!」
「おーおー、いきなりぶっ放すとか物騒だねぇ」
軽口と嘲りが混ざった声が、歪みの中から次々と転がり出てくる。
やがて歪みが完全に消えると、変わらずそこには草原の景色が広がるが、さっきまでと違い、ゼンキチが想像していたところどころ炎で焦げた景色が見えた。
そして、黒いフードに身を包んだプレイヤーたちが、一人、また一人と姿を現す。
揃えられた黒の外套、統一された紋章、狼の牙を模したエンブレム。その数、十五人の集団がゼンキチたちを取り囲んだ。
「いやほんと、こんなド平原で堂々と歩いてくれてありがたいわ」
「配信者さまさまだな。獲物の位置情報までバッチリで、襲撃の計画もらくらくだ」
「感づかれた上、あんな反撃食らうなんてのは想定外だったけどな」
「まあ流石は噂の特殊NPCだけあるな。さっきのもオリジナルだろ?」
「おいおい、逃げタンクのおまけまで付いてきてるじゃん。臨時収入だな」
視線が、サクヤへ、ポン基地へ、そして最後にゼンキチへと、値踏みするように舐め回される。
先ほどまで微動だにしなかった空の鳥が、ゼンキチたちの上空を飛んでいた。
「……はっ」
ゼンキチが小さく息を吐く。
「なるほど。さっきの止まった世界は、お前らの仕業だったのか」
黒狼猟団の一人が、楽しげに肩を揺らして、ケタケタと笑っていた。
「いずれにせよ、面倒なことになりそうだ」
一触即発の雰囲気が充満していた。
誰かのごくりと唾を飲み込む音が響く。
ゼンキチはゆっくりと刀を構え直し、臨戦態勢に入る。
「悪く思わないでくれよ。一片も残さず俺らの糧にしてやるからな、狂剣さん」
草原は狩場と化した。
涎を垂らした黒狼が今か今かと口を開け、その牙がゼンキチの喉元にかかる。
余談
ストックが既になくなっている上に、某エル○ン◎夜渡りのDLCが出てしまいました。
どうしたもんか。




