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27_アイオーンライフ・ブロークンファンタズム

——勝者ウィナー:ゼンキチ


 渾身の一撃が決まり、ポン基地の体力は危険域へ。

 勝敗は決した。

 ゼンキチの勝利をシステムコールが告げ、決闘用のフィールドが幕を下ろす。


「GG! ナイスファイトだったよ! ポンきっさん」

「……サクちゃん」


 敗北を喫し、大の字で横たわるポン基地の元へ、サクヤは歩み寄る。

 そんなサクヤの顔を見て、ポン基地はバツが悪そうな顔をしていた。


「サクちゃん、俺。君に会いたくて、こんな……、ごめん」

「……ん~、まぁ。ぶっちゃけ、そんな気にしてないよ。ポンきっさんは昔から私のこと応援してくれてたし、まあ圧を感じる時もあったけど、なんだかんだ今まで凸って来たことはなかったってことは、気を付けてはくれてたんでしょ。今回はちょっと暴走が過ぎたけどね」

「ううぅ……」


 ポン基地は目に涙を浮かべていた。

 それは、負けた悔しさからか、推しの尊さからか。

 恐らく後者である。


「でも、あんまり強引に迫ってくるのはやめてね。怖いから、本当に。次は通報するから」

「……すいません。つい熱くなってしまいました」

『残当』


 お説教は軽めに、サクヤは笑いながら話題を変えた。


「にしても、派手に負けたねぇ! まあ、初めから勝てるとも思ってなかったけど」

「うぐぅ」

『酷い言いよう』

『もう少しこう何というか、手心というか……』

「だって、お師匠ってまあまあ普通にバケモンじゃん? きっと、あれでまだ本気出してないでしょ」

「次は、もうちょっと頑張るよ、俺」


 負けて、うなだれるポン基地。その姿を見て、サクヤはふっと微笑み、当然のように手を差し出した。

 ポン基地は差し伸べられた手に気づき、ほんの一瞬だけ迷う。強引な態度を見せた自分がその手を掴んでもいいのか、と。

 逡巡するポン基地に「ほら」とでも言いたげに、負けじとサクヤは手を揺らす。

 ポン基地はとうとうその手を取って、その手に込められた気遣いと許しを、胸の奥でそっと噛みしめながら、立ち上がる。


 その握手は仲直りの合図だった。

 単純で純情な感情のポン基地は、その一手で間違いなく更なる推しの沼にハマることになるのだが、それはまた別のお話。


 その様子を、少し離れた場所でゼンキチは静かに眺めていた。


「……やっぱ、なんだかんだでポンきっさんには、感謝してるんよ。初期から私のことを応援してくれてるのもあるけど……」


 こちらを見守るゼンキチにサクヤも視線を向ける。

 サクヤの目線に映るゼンキチは、ポン基地と和やかに談笑しているのを、優しく見守っているように見えるが、それでいて警戒は怠っていない。いまも何かあった時、ちゃんと動けるように刀の柄にしっかりと手をかけているのが見て取れる。


「何よりポンきっさんが教えてくれてなかったら、お師匠とは会えていなかったかもだしね」

「サクちゃんが喜んでくれて、何よりだけど、俺はちょっと複雑……」


 そんなゼンキチが、過保護な親を見ているようで面映ゆくて、サクヤはくすっと笑った。


「……あの人さぁ」


 サクヤからぽつりと落とされたその声は、先ほどまでの軽口とは違う色を帯びている。


「なんて言うのかな、NPCのはずなのに誰よりも人間らしいんだよね。いつも楽しそうだし、何にでも本気だし、誰にでも手加減はしない。本気で応えてくれるから、私もあの人に認められたいって思えるんだ」

「……何となくサクちゃんの言いたいこと、分かるよ。俺も、奴に負けて悔しいのに、戦う前より今は気が晴れている気がするよ。それに攻略班でもたまに話題に上がるよ、特殊NPCたちの異質さは」

「うん。人間わたしらより人間らしいよね」


 口を開ければ堰を切ったように、熱い胸の内がでてくるようだ。


―― たかがゲーム。


 しかし、その中に生きている人間がいるのだと二人は、強く感じていた。

 サクヤは、離れてこちらを見るゼンキチに手を振りながら、感謝を叫ぶ。


「お師匠〜! お師匠に会えて、本当によかった!! おかげで私はこの世界ゲームをもっと楽しめる!」

「おいおい、藪から棒にどうした?」

「んー! 感謝はなんか込み上げた時に言っとかないと、一生言えなくなるかもだから!」

「なんだ、そりゃぁ」

「ふん! 私は脳筋火力バカらしいからね。感情もぶっぱのバースト型なんだ!」

「はっはっは! なるほどなぁ。……そうだな、じゃあ俺も言っておこうか」

「!?」

『!?』


 ――!?


 サクヤたちの頭の上には、その二文字《!?》が浮かび上がった!

 感情のまま振る舞った結果、サクヤは反撃を受けることとなる。

 ぶっぱのバースト型とは、反撃に弱いのは万国共通で、すわ何を言い出すのかと、ドギマギとゼンキチの言葉を待つ。


「少しの間だが、君と冒険ができて俺も楽しかったよ。ありがとう。そして、俺たちの(この)セカイを楽しんでくれて、ありがとう」


 柄にもなく、言い慣れないような感じで、照れ隠しに頬を掻きながらゼンキチは感謝を述べた。

 楽しかったと言うのは、本音。楽しんでくれてありがとうというのも本音。

 既にゼンキチの心はセカイ側(ゲーム)、セカイの一員になっていたのだった


「まぁ、なんだ。もっともっと楽しめよ、二人とも」

「し、師匠のデレだぁ〜!!」 


 サクヤを始め、その視聴者たちが騒然とした。

 普段の好々爺としているゼンキチとも違い、戦闘時や修行時のシンプルに様子の可笑しいゼンキチとも違う、完璧な純然たるデレ。

 それを見て、『録画した?』とか、『破壊力ヤヴァイ』とか、『見逃したからログ振り返ったら、もう権利者の申告に基づいて、該当部分の一部削除ってなってんだけどォ !?』等などと、コメント欄は大火事状態だった。

 サクヤも顔を真っ赤にしながらゼンキチを指さして。


「し、師匠! 今の、もう一回! もう一回やって!? 後生だから!」

『返せ! 返せよ、俺のスクショ!!』

『運営権限で証拠隠滅は草』

『師匠のデレは法律で保護すべき』

『保護された結果がこの大惨事だろうが!』


 ゼンキチは、どでかいため息を一つ吐く。

 肩を竦め、優しく笑いながら、それでいて悪戯っぽく。


「この馬鹿どもめ。二度とやるわけないだろう」


 ぶぅぶぅと文句を垂れてくるサクヤたちの声をゼンキチは完璧に無視する。

 ゼンキチは、背中越しに届く喧しい野次を聞こえないふりしながら、今度はポン基地の前へと立った。

 キャラクリの差で、ゼンキチに比べてポン基地の目線の方がやや高い。

 それでも、見下ろした先にあるゼンキチの目と目が合うとポン基地はぎょっとした。

 ゼンキチの眼光、その奥には剣呑さが隠れていた。

 そんなゼンキチに肩を叩かれる、ポン基地の背筋は反射的に自然と伸びる。


「また、おイタが過ぎるようなら、次は無いからな」

「ひっ、はぃ……」

『師匠と言うより、親』

『親と言うより、親分』


 そうして、次の瞬間には、元の好々爺の笑顔に戻っていた。


「でもまあ、今回は反省してるみたいだし、根は悪い奴じゃないだろう。仲直りできたのは良いことだ」


 ――識号プレイヤー「サクヤ」及び「ポン基地」とフレンド登録されました。


 これにて、サクヤとゼンキチとの冒険は終わり。

 一介の剣士として、確かな成長を遂げたサクヤは、細々と配信業を続けながら、その剣で行く道を切り開いていき、名うてのプレイヤーとしてその名を轟かせる。

 暗剣剛姫のサクヤとは、彼女のこと。この先もどこかで彼女はその剣を振るい、高らかに笑い続ける。


 一方、ポン基地は、独断専行で暴走した結果、戦線離脱や共有アイテムの独断使用などの余罪も認められて、攻略最前線フロントラインを除隊されていた。

 晒しスレにも晒されて、サクヤとは別の意味で名が轟く始末。

 哀れ、ポンきっさん。

 しかして、そんな彼だがそれでも満足気。何故ならば、唯一の推しに認知され、その後も彼女を守る盾として、活躍するからだ。


 幻想は砕かれない。

 やっぱり天晴れ、ポンきっさん。



 かくして、アイオーンライフは過ぎていく。

 人もNPCも垣根を超えて、相互に影響を与えて、セカイは進む。


 そして、混じり合って、混じり合って、混じり合って、混沌は蘇ろうとしていた。

 かつて混沌が没した日、セカイに散らばった破片が、芽吹く時がきた。

 ここからは、サクヤもポン基地も巻き込んで、ゼンキチの物語が始まる。

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