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仮想転生プログラム:コード【永久のアイオーン】  作者: 秋月うある
2章:アイオーンライフ・ストレイフラグメントゥム
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21_アイオーンライフ・プリズムテネブリズム

「サクサク〜! 反省会のコーナー!!」

『ドンドン!』

『パフパフ〜!』

『なになに、何が始まるの?』

『私にもわからん』

『本当に申し訳ない』


 ゼンキチに負けたサクヤは、ひとしきり視聴者を焚き付けた後、いそいそとゼンキチの前へ行き、正座した。


「もう、いいのかい?」

「押忍! して、ゼンキチ師匠は私に何を伝授してくれるのでしょうか!?」


 ゼンキチへの師事は、イコールでスキルの伝授だ。

 先ほど瞬殺されたとは言え、決闘という名のゼンキチとのイベント戦を通して、これから何かスキルを伝授されるのだと鼻息荒くサクヤは待った。


 その前に、ゲームシステムとしてのスキルの発現は、基本的にプレイヤーの行動や経験、その習熟によって発現する。

 例えば、剣を振り、敵を倒し続ければ、まず基本攻撃スキルの『パワースラッシュ』が発現し、更に経験を重ね、習熟していけば、より上位のスキルまたは派生のスキルが芽生える。

 これは攻撃系だけでなく、防御も回避も移動系も全て同様であり、所謂スキルツリーというものはないが、内部ステータスによって管理されている。


 しかし、例外としてこれら以外のスキルも存在する。

 ゼンキチがプレイヤーに渡しているスキルもこれらの例外スキルの一つである。

 原理として、先述の行動・経験・習熟とベースは同じであるが、ここにもう一つのファクターが必要となる。

 それは、発想。

 発想を型として、自ら行動・経験・習熟を繰り返すことによって、その型が一つのスキルであると世界システムに信じ込ませることによって発現する。

 要はスキルの独自オリジナル開発である。

 発想力によって形作られるオリジナルスキルは、既存スキルの枠にとらわれず、プレイヤー自身の個性や経験、さらにはその時々の感情や状況までもが反映されるものである。

 とは言え、オリジナルスキルの開発は、一朝一夕で出来るものではない。長い時間を掛けて修練し、その体捌き、技の繰り方を完全に体に染みつかせなければ習得することが不可能なものだ。

 加えて、無数に存在する既存スキルに同様のスキルがあれば、そちらに統合されてしまい、時間を掛けたのにオリジナルスキルにならない可能性もあるため、普通のプレイヤーにとっては、コストパフォーマンスやタイムパフォーマンスが悪いというデメリットがある。

 総じてエンドコンテンツ的な要素だと考えられていた。


 しかし、当のゼンキチ。ゲーム内の存在である彼ならば、寝る間を惜しんで時間を費やせば時間は無限に近しい。

 加えて、生粋の凝り性という性分と類い稀なるVR適正からスキル開発に没頭。

 結果として、ゼンキチは既にそこそこたくさんのオリジナルスキルを開発しており、それらを誰彼に見せびらかせたいのもゲーマーのさがからか気づけばスキル配りおじさんと化していた!


 閑話休題。


 さて、サクヤは胸を高鳴らせながら、ゼンキチがどんなスキルを伝授してくれるのか期待に満ちていた。まるで待てを言い渡された犬の様。尻尾をぶんぶんと振るう姿が幻視されるようだった。

 相思相犬である。


「まず、君にくれてやるのは説教かなぁ」

「……!?」

『説教タイム突入www』

『始まったのは、お師匠からのお説教でした』

『ちょっと楽しみ』

「君たちねぇ!?」


 先ほどの戦いを思い出してほしい。

 サクヤの戦闘には、特に工夫というものがなく、一撃必倒の大振りに命を懸けていた。

 もちろん、勢いだけで押し切る戦法も間違いではない。手数とカウンターで戦うゼンキチとはスタイルが違うが、実際、火力極振りのプレイヤーがパーティにいれば、攻略はスムーズになるし、それを極めれば立派な戦闘スタイルにもなり得る。

 だが、彼女の動きは洗練という言葉からはまだ遠く、ただ「当たればいいな」の域を出ていなかった。

 ロマン砲とは、当たらなければカスゴミも同然である。


 ゼンキチは溜め息を一つつき、腕を組む。

 サクヤの期待に満ちた眼差しと、視聴者のざわめきが交錯する中で、彼はゆっくりと口を開いた。


「工夫がないんだよ。それが君らしさなのかもしれないが、もう少し戦い方に工夫を加えよう。そうしなければ、さっきのように簡単に攻撃をいなされて反撃を食らうぞ。PvPはもちろん、この先、知恵の賢いモンスターが出てきだしたら、君は良いカモだ」


 サクヤの戦い方は勢い任せで、そこに彼女なりの工夫と呼べる要素は見当たらない。ゼンキチにとっては、目を瞑っていても対処できる単調さだった。

 サクヤはむくれて頬を膨らませるが、ぐうの音も出ない。

 彼女の反応を見越したかのように、ゼンキチはすぐさま続けた。


「逆を言えば君の良さは、迷わず振り切れる胆力だ。それは否定しないし、むしろ大きな強みだ。なら足りない部分を補おう。ここからは、反省の時間だが、さっきの一撃、放った時の君の態勢はどんな感じだった?」


 目をぱちぱちと動かし、自身を思い返すサクヤ。

 頭に手をやり、悩む。


「むぅん……」


 答えはしばらく出そうにない。


『体が宙に浮いていたよね』

「はっ!? それか! 体が宙に浮いていました!!」


 誇らしげに胸を張って答えるサクヤ。

 コメント欄で指摘されて答えたとは思えないほどの自信満々さとふてぶてしさであるが、ゼンキチの言いたいこととも合致していたのであった。

 あっぱれ、ポンきっさん。


「そうだね。大剣を振るうタイミング、その重量を最大限に加えるため、君の体は宙に浮いていた。俺はそれを見て、軌道さえズラしてしまえば返す刀は無いと判断できた」

「ほうほう。つまり、常に反撃に備えられる態勢を意識せよ、ってことですね!」

「そう。そのために必要なのは、まず地に足をつけよってこと」

「確かに私はいつも浮足立ってますよねぇ……ってコラ!」

『なんか言ってら……』

『この人、いま説教されてるんですよ』

「……これは、比喩でもなんでもなく、そのままの意味であるんだが。大地とは、即ち支えである。常に攻撃する時は、大地を踏みしめることを意識するといい」


 ゼンキチの声は落ち着いていた。叱責ではなく、導く調子だ。

 それがサクヤにはじんわりと効いていて、視聴者の茶化しを背に受けながらも、彼女の耳は自然と師の言葉へ集中していく。


「大地を踏みしめる……」


 サクヤは小さく反芻し、足の裏をぎゅっと地面に押し込むようにして大地を意識した。

 たったそれだけの動作でも、さっきまでとは違う地に根ざした感覚が確かにあった。


「……おお、なんか安定してる気がします!」

「だろう?」


 ゼンキチが頷く。


「大剣の一撃は、上半身だけで振るものじゃない。足で地を踏み、腰で力を受け止め、それを腕から剣へと流す。その流れを掴めば、ただの一撃でも立派な技になるんだ」

『急に武術の話みたいになってきた』

『でも説得力あるよ』

『俺たちも地に足つけて生きよう』


 サクヤは真剣な顔でゼンキチを見上げる。

 鼻息は相変わらず荒いが、今はそこに子供っぽさよりも真摯に教えを受け取る姿勢が見えていた。


「で、その意識をもとに剣を振っていれば、そのうちスキル『震脚』と派生の『轟踏斬ごうとうざん』が覚えられると思う」

『スキルの話だった!?』

『はぇ~教え上手。俺も導いてほしい』

「震脚は武器術以外にも応用が効く基本技能だから覚えておいて損は無いし、轟踏斬も大型の武器ならだいたい使える汎用スキルだから君のプレイスタイル的にいいと思うよ」


 ゼンキチの目がキラリ。スキルの話をしだすと子どものように生き生きと喋りだす。


「あ、ありがとうございます! やっば! 楽しくなってきた」


 サクヤは、嬉しそうにその場で素振りを始めた。

 繰り返し、繰り返し、地面を踏みしめる感覚を試す。ついさっきまでのような空回りの大振りではなく、足裏から伝わる衝撃を意識し、腰へ、肩へ、腕へと流していく。


 何度かの素振りを経て。


「……ふんぬっ!」


 ズシン、と少し大地が震える。

 コメント欄も徐々にサマになっていくサクヤを見て、俄かにざわめき出す。


『おお、なんか迫力出てきた!?』

『地震かな?w』

『いや、割とガチで強そうになってる』


 サクヤは鼻息を荒くしながら、次の振りへ。

 ゼンキチは腕を組んで、その動きを黙って見守っていた。


 少しして、一頻り剣を振り、サクヤが肩で息をしだした頃、ゼンキチは満足そうに笑いながらサクヤに声をかける。


「うん、いいね。その調子で実践も積めば、すぐにでも形になると思う。今、教えたことは基本の形だから、これに加えて攻撃の後隙に反撃を貰わないことを意識しておけば、だいぶマシになるだろう」

「お、押忍!」

「じゃ、次は本命のオリジナルスキルの伝授だが……」

「お師匠!?」

『まだあるの!? 太っ腹!?』

「い、一生ついていきます!」

「はは、大袈裟だなぁ。さっきの二つは基礎スキルの内だから、遅かれ早かれ習得できるスキルだ。だが、今から教えるスキルは俺のオリジナルだ」


 ゼンキチは少しだけ間を置き、それにサクヤも息を飲む。

 どこか誇らしげな表情でサクヤを見つめながらゼンキチが口を開く。


「これは中々試行錯誤して編み出した技でお気に入りなんだが、さっきのスキルは君の一振りを高めるスキルだとしたら、これから教えるスキルはそれを確実に当てるための一歩となるスキル」

『「ごくり……」』

「名を、暗影歩法」


 その名を聞いて、サクヤの目が、ぱあっと見開かれた。


「か、かっこいい……」

『厨二ネーミングきたwww』

『記憶のどこかが悪戯にくすぐられる感覚がある』

『流石、俺たちの師匠だ』


 ゼンキチはコメントの茶化しなど意に介さず、静かに続ける。


「……暗影歩法あんえいほほうは、一瞬、自分の存在感を暗闇に潜め、相手からのヘイトを霧散させることで、認識外から攻撃するための歩法だ。隠密スキルと似ているが、これは純然たる歩法の一つで、呼吸、一歩めを踏み出す角度、体重移動、それらを完璧なタイミングで合わせれば、相手の視界から消えることができる」

「き、消える……!?」

『効果がまったく名前負けしてない』

『PvPで使ったら荒れそうw』


 ゼンキチは実演してみせる。

 すっと一歩踏み出した瞬間、サクヤの視界からゼンキチが抜け落ちたかのように、存在感がふっと揺らいだ。


「ひぃ! 本当にいなくなった!」


 サクヤが慌ててきょろきょろと視線を泳がせる。

 次の瞬間には、もうゼンキチは背後にいて、サクヤの肩を叩く。


「これが暗影歩法だ」

「ガチ強スキルじゃないっすか! よく攻撃スカる私にピッタシ!!」

『自覚あるんだ』

『ロマン砲の命中率アップスキルww』


 特訓に精を出す二人。熱が増していく中、あたりは既に日も暮れていた。

 尚もサクヤは興奮冷めやらぬ様子で剣を振り、それを温かい眼差しでゼンキチは見やる。所々でアドバイスを送るゼンキチの様子は楽しそうで、サクヤもそれに応えるように真剣に技の習得に励んでいた。

 その様子は、まるで夕暮れだというのに時間を忘れ、キャッチボールを続ける親子の様ですらあった。


「暗影歩法は、夜にこそ真価を発揮する。どれ、そろそろ実践に移るか」

「オッス!」


 楽しそうに二人は頷き合う。

 正しい夜遊びを教えるのも親父の務めか。

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