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02_ニューゲーム!!

 MMORPGというものは得てして始まるまでに時間がかかる。

 それは、最初に立ちはだかる”壁”とも言えるキャラクターメイクに細部まで悩んでしまうため。

 自身の分身たるアバターの見た目から、ゲーム内容に直結する初期ジョブやステータス設定。果てはプレイヤーネームをネタ寄りにするかお気に入りのハンドルネームにするか等々。 例を挙げればキリがないが、とことんドツボにハマるタイプの人間にとっては悩みの種である。

 その点、ゼンキチはあまりその辺を悩むタイプの人間ではないので、見た目については、ほとんど自分の姿からいじろうとも思わずに、ただどこか昔の自分を思い出させるような黒髪の男とし、プレイヤーネームについても何も捻らず【ゼンキチ】とした。

 ただ一つステータスに関する設定だけは、とことん頭を悩ませた。

 なんせ今後のゲームスタイルを決める要素の中でも言うまでもなく一番重要なファクターであるか

 アイオーンクロニクルのステータスパラメータは、シンプルだ。 簡単に説明すると、


・生存力に関するHP(体力)

・スキルやスペルの使用回数に関するMP(魔力)

・行動の制限に関するSTM (スタミナ)

・装備に係る重量制限や物理攻撃力の補正に関するSTR(筋力)

・キャラクターの細かな操作に関するDEX(器用さ)

・スペルやスキルの習得やその威力の補正に関するINT(知力)

・キャラクターの移動速度に関するAGI(敏捷)

・アイテムドロップ率等の乱数に係る上昇補正に関するLUK(幸運)


 の基本八属からなり、ここにキャラクターのステータスに上昇及び下降補正がかかる補正値に関する【使命ロール】と基本ステータスが決まる【生立ちベース】が存在する。

 この【使命】と【生立ち】が重要であり、生存力に重きを置くのであれば、HPの高い【生立ち】である【戦士】にHPに上昇補正のかかる【脈を打つ者】という【使命】の組み合わせが一番ということになるが、そう単純でもなく、どちらにもデメリットがあるため、自分の想定するゲームスタイルに合わせた選択が必要となる。

 死んで覚えることができないNNPCゼンキチ達にとって、安定を取る選択は決して間違いではない。ただ、ゼンキチとしては、ゲーム配信開始前に公開されていた事前情報を穴が空くほど眺めて、考えていた組み合わせがある。ロマンを取るか、安定を取るか、どちらを取るべきかゼンキチは迷っていた。  


 ところで話は変わるがゼンキチ達、NNPC達には、一般プレイヤーと違い、簡単にゲームオーバーとならないようにいくつか安全機能が備わっている。

 一つは、HPの全損を一度だけ耐える確定食いしばりスキル。もう一つは登録されたリスポーン地点への強制転移ができる装備。どちらも万能ではないが、退き際を間違わないければゲームオーバーを限りなく回避することができる破格の効果を持つスキルだ。


 と、言うことで。「安全機能が備わっているんだから、それほど安定は取らなくてもいいよね。寧ろ攻撃は最大の防御とも言うし、安全機能と合わせれば最強の安定感とも言えるのではないだろうか?」という思考で自分を納得させることにしたゼンキチは、しばらく悩みぬいた初期ステータスについては、予てより考えていたロマンを取ることにした。


 ゼンキチの選んだ【使命】は、【拓く者】。 DEXに上昇補正がかかり、AGIとINTも僅かに伸び率がよいが、反面、HPとSTRに下降補正がかかるデメリットがあるところを除けば、比較的バランスのいい【使命】だ。

 次に【生立ち】は、【剣士】。こちらも初期DEXが最高値であるため、【拓く者】と相性の良い【生立ち】と言える。

 色々な装備やスキルを使いたい。そのためにはDEXをあげておけば何かと便利。そういったゼンキチの思想が透けて見える。


「やれ、既にだいぶ時間を使ってしまったな」


 とは言うものの当人はご満悦だ。


「初期装備もプレイヤーが決めるのか」


 キャラメイクも終わりと思いきや、次に初期装備の選択が出てきた。

 選べる装備スロットは、武器の両手と防具の頭、胴体、腰、脚の4か所となっており、選択肢の量が恐ろしいほど多い。

 武器欄を見ると選択肢の中に文字が黒くなっており、選べないものがいくつかある。どうやら選んだ【生立ち】によって使えない武器があるようで、スタート時に武器なし状態にならないための対策のようだ。

 とは言え、選べる武器だけでも結構な数だ。例えば剣というカテゴリの中でも長さや大きさ、形状といった括りで分けられ、そこから更に細分化されている。


 流石にこれ以上悩むのも時間の無駄かと選択肢の多さに辟易したゼンキチは、どことなくお気に入りゲームの【真剣☆剣戟汲汲】を彷彿とさせる防具の流浪者シリーズとし、武器も同様のスタイルである右手に短剣、左手に直剣とした。


 サクッと初期装備を決め、ワクワクを抑えられないゼンキチは、いよいよ最後の選択肢を押下した。


――キャラクターメイクを完了し、ゲームを開始しますか? 


――≪YES≫






 文明とはいとも簡単に滅び去る。

 過去、人とモノが争った痕跡は、文明と共に全て跡形もなく消え去った。

 ただ、それは目に見えなくなっただけ。

 今も、地中の奥深くに、深海の闇の中に、空の果てに至るまで、この世のどこかに、あるいはこの世の全てで、”来る時”を待っているだろう。  


 初めに、一つの無色透明の”板”が出土した。

 全くの偶然によって人の手に触れた”それ”は、失われた遠い過去の遺物。

 ただし、”それ”はもっとも新しい時代を進んでいたはずの過去が残した異物。

 そして、触れたがために眠りから目覚めた不幸と幸福の匣。


 人の営みは、おしなべてその”板”に保存される。

 形のある物はもちろん、形の無いモノも。その”板”を所有していれば、記憶や経験、生と死といった概念すら保存する。


 そうして人類は、完全な”死”を克服した。


 人の望みは尽きることがない。死をも克服したというのに。まだ見ぬ未知のため、人類は過去の遺物を探し求め続ける。

 それこそが”来る時”の序章なのだろう。


「プロローグだけで、世界観がわかれば苦労しないんだけどな」


 壮大な音楽とともにタイトルロゴ【アイオーンクロニクル】がドーンとした。

 この辺の世界観は、初見では理解できないだろうと半ば諦めているゼンキチは、「ほ~ん」となんとなくプロローグを見ながら開始を待っていた。

 世界観の考察というものは、もっとゲームへの造形が深まってからやるのも一興だろう。


 プロローグのムービーが終わり、視界が開けた。

 窓から入り込んでくる朝日で目が覚めるように、ゼンキチの冒険は、どこかの宿屋と思わしき場所のベッドから始まった。


「うお、すごいな」


 今、寝転んでいたベッドの硬さまで情報として頭に流れ込んでくる。

 最新のVR機器を使ったとしても、どこか得られる感覚というのは、リアルとのギャップを感じてしまうものだが、アイオーンについては、それが全くと言っていいほどない。

 正にまるでリアル。

 アイオーンクロニクルというゲームは、自社開発のゲームエンジンを積んでいるという話だったが、その完成度と没入感に既に圧倒される。


「それに加えて、俺がコッチの住人になってしまったのもあるかもな」


 木製のベッドの質感や壁の冷たさを感じながら、部屋を物色する。

 まだ開始地点から移動すらしていないので、自身がNPCの一種であるという実感は全く湧いてこないが、その辺の検証はまた後でいいだろう。


「えーと、ステータスやらのメニューウィンドウは……」


 どこからともなく透明な”板”が出てくる。縦十五センチ、横七センチほどの大きさで、所謂スマートなタブレットのようなもの。  


「念じれば出てくるのか。ピースメイカーと比べると笑える便利さだな」


 ついこの前までプレイしていたレポートとログアウト以外のメニューがない理不尽ゲームが比較対象であることは置いておき、念じると出てくるその端末をしまったり出したり確認してから、操作してみる。


「小さいけど以外と見やすいな。上からインベントリ、ステータス、装備……か」


 手のひらに収まる程度のサイズである端末。インベントリやステータス等の細かいものを見るのには不便かと思ったが、意外とそうでもない。設定をいじるとズームや端末のサイズ調整もできるようだ。


「とりあえずステータスは……」


――――――――――――――

NNPC:ゼンキチ

使 命:拓く者

生立ち:剣士

保有LP:0p


メインステータス

LV:1

HP:8(実数値:76)

MP:11(実数値:121)

STM:9(実数値:72)

STR:8(補正値:7)

DEX:15(補正値:17)

INT:10(補正値:11)

AGI:12(補正値:12)

LUK:7(補正値:7)


装備

右手:ダガー

左手:ロングソード

頭:流浪者のフード

胴体:流浪者の外套

腕:流浪者の皮手甲

腰:流浪者のベルト

脚:流浪者のブーツ

装飾品1:エスケープリング

――――――――――――――


 どうやらレベルが上がるごとにLPレベルポイントというのが貰えるようで、そのポイントを伸ばしたいパラメータに振っていくことで、ステータスをビルドしていくようだ。

 現状、初期スポーンから動いてすらいないので、ステータスはもちろん剣士の初期値に使命【拓く者】の補正がかかった状態。攻撃力や防御力については、装備している武器や防具に依存するようだ。


「習うより慣れろか……」


 いつまでもこの宿屋から動かずシステムUIを確認する作業に没頭してしまったが、そろそろ表に出よう。

 建てつけも怪しいドアを開け、古めかしい宿屋の質感を感じながら、表へ出る。


 宿屋の外は、喧騒。街はとても賑わっていた。お祭り騒ぎと言っても過言ではない。

 多様な見た目をした人々が、一様に笑顔を浮かべながら、雑踏を歩いている。

 頭の上に見える白いネームが、この人だかり全員がプレイヤーであることを証明している。

 ゼンキチと同じようにこの日を待ち望んできた数いるゲーマー達が、早速この世界を堪能しているようだ。  


「はは、この光景を見るだけでも興奮してきたな」


 VR RPGやVRマルチプレイといったゲームは、VR黎明期から多く作られているが、VRMMORPGというジャンルは意外と少ない。

 それは、大多数のプレイヤーを抱えた広大な世界を創るには、相応のサーバーを整える必要があるからというのが主な問題であるだろう。

 対してアイオーンクロニクルというゲームは、その辺をケチって肩すかしとなった過去のゲームに比べ、眼前に広がるプレイヤーの数だけでレベルが違うのだとわからせてくる。

 道ゆくプレイヤーの挙動には一切のバグが無く、彼らの蹴る石畳の音や話し声がクリアに耳へと入ってくる。

 まるで中世の世界にでも迷い込んでしまったと錯覚してしまいそうだ。


「そこのお兄さん。ひとしきり感動し終えました?」


 近未来技術に胸打たれ、感動しているところ、見透かされたように声をかけられる。

 声をかけてきたのは、深紅に染められた腰まで届きそうな長髪が特徴的な一人の女性。

 その髪色と同じくルビーレッドの双眸の奥には、どこか大人びた光が垣間見える。


「お兄さんも私と一緒でしょ? よかったら私の相棒になってよ」


 紅い女性は、自分の頭の上を指差し、そう言う。

 外見ばかりに目線が行ってしまっていたが、よく見るとアバターの上、プレイヤー名の色が一般的なプレイヤーを示す白色ではなく、NPCの証である黄色となっていた。


「気づいた?」


 紅い女性は、その大人びた容姿とどこか不釣り合いに幼い様子で、ふふんと胸を張り、自慢げに名乗りを上げる。


「私の名前は、マーナミヤ・マナミガルム。お兄さんと同じNNPC。その一号!」


――同種。NNPC1号【マーナミヤ・マナミガルム】とパーティを組みますか?

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