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16_巡る、友と歩む旅路

「という訳で、とりあえずゼンキチは、私のことをさん付けじゃなくて、呼び捨てにしてください。他人行儀で嫌です」

「え、え〜? わかった。頑張るよ」


 戦闘では勇猛であったゼンキチも今のマーナミヤの(プレッシャー)にはたじたじである。

 見事ロアマンティスを討伐したゼンキチたちは、喜びを分かち合い、報酬の精査をしていた。


「いやぁ、旦那たちのおかげでだいぶ儲けちまったぜ」

「クエストのクリア報酬で経験値はたんまりだし、部位破壊報酬でレアドロも出てウハウハだな」

「これ、他の仲間たちに自慢したら悔しすぎて顎が外れるんじゃないか?」

 

 ロアマンティスの白刃(レアドロ)は、部位破壊報酬としてパーティ全員が手に入れることができた。

 序盤の高難易度ボスの撃破報酬としては、嬉しいご褒美だ。

 ダンとゲステルは大層ご満悦で、仲間の悔しがる姿を想像して笑っている。


「二人ともありがとう。おかげで随分楽しませてもらったよ。最初に出会ったのが君たち二人で良かった」

「俺たちこそラッキーだったぜ! いや、旦那らに言うことではないけど、NPCに対する見る目が変わったわ。なあ、テル?」

「……そうだね。アンタらは、本当に生きてるみたいだ」


ゼンキチはダンとゲステルと握手を交わした。

バツが悪そうに目を逸らすゲステルの顔を見て、ゼンキチは苦笑する。

 しかし、その目を逸らした先にいたマーナミヤと目が合ってしまい、マーナミヤはふんっと鼻を鳴らした。


「何を言うかと思えば……私たちも歴としてあなたたちと同じくこのセカイに生きていますよ。……だから、別れは辛いし、また会えたら嬉しいし、冒険は楽しい! ……何よりちゃんと生きていたいと思う」

「……悪かった。改めてあの時は本当にごめん。謝るよ」

「……ゼンキチに免じて、もう許してますよ!」


 ゲステルとマーナミヤも仲直りの握手を交わす。


――識号プレイヤー「ダン」及び「ゲステル」とフレンド登録されました。


 ゼンキチはその光景を見て、何故だか胸の奥がじんわり温かくなるのを感じていた。

 なにか感慨深いもの、かつて手がかった子どもの成長を感じたときのような温かさ。


「じゃあ、俺らは一旦最初の街に戻って、他のメンバーと合流することにするわ。また会おうな!」

「ああ、また!」


 パーティは解散し、二組は再び各々の旅路に発つ。

 ゼンキチが掲げた【再出発の剣】は、しばしの間、鞘に収まる。


 これが俺の再出発なのだろう。と、ゼンキチは思った。

 過去を思い出すことはできずとも、過去の自分の残像が隣を歩く仲間たちの後ろに見えている。

 そして、またその仲間と共に歩みを始めた。


「さあ、マーナミヤさ……マーナミヤ、俺たちも次の街を目指そうか。道すがら君の話を聞かせてくれよ」

「はい! たくさん話したいことがあります!」


 今はそれが嬉しかった。





 旅の道程、ゼンキチとマーナミヤは多くを語り合った。

 マーナミヤによって語られる過去の自分についての話は妙に面映くて、主観が多分に含まれたその物語はまるで英雄譚のようだった。

 二人の冒険は始まったばかりで先は長い。次なる目的地は、北方大山、霊峰の麓、聖都。

 冒険の途中、幾たびも辛酸を舐め、重なる艱難辛苦を超えた先に二人の間には、揺るぎない信頼関係が出来上がる。

 冒険は二人のことをより親密にし、お互いの全てを曝け出した。


「だあー、ただのモブ敵なのに強すぎでしょう!」

「割にドロップも渋いしな」


 とある遺跡ダンジョンでの二人の会話。

 強モブの割りの悪さに運営批判に花が咲く。


「このセカイ、本当に初見でクリアさせる気がないですよね。そこかしこに意地悪が滲み出てます」

「ここまで来るにも何度も死にかけてるし、悪辣なのは否めないなぁ。でも、それを押して余るほどのリアリティと何よりも諦めさえしなければクリアできないことはない。この辺の塩梅が、イイ……」

「……悔しいですが、私の経験上でもこんなに楽しいことは他にないですね」

「はは、だろう? 俺もすごい楽しいよ」

「ええ、死にたいとかもう諦めたいって気持ちがいつのまにか湧かなくなりましたよ。ずっと楽しくて、こんなに生きたいって思ってること今までないです」

「それは重畳。いい傾向だな。仮に俺を置いてマーナミヤがゲームオーバーになってしまったら、きっと俺はすぐ後を追うことになるだろうな」

「ゼンキチの無茶無謀は治りませんからね。私は何度でも迎えに行きますよ」


 人知れずマーナミヤの言葉にゼンキチは胸を打たれていた。

 自然と零れたマーナミヤの生きたいという言葉が、言いようがないほどに重く、愛おしく感じた。


「現実の私もおんなじ気持ちになってくれたらいいなぁ」

「どうだろうなぁ。保証はしてあげられないけど、とりあえずこれまで通り俺らは目一杯楽しんで、その姿を見せてあげられればいいんじゃないかなぁ」

「そうですよね! て、ことでドンドン先を目指しますよ! ゼンキチ!」


 仮想転生プログラムは、生きたいを探す旅。

 生に執着がない者も、生を憂いた者も等しく招かれて、生きる意味を探す冒険に出る。

 たとえデータの世界の出来事だったとしても、数字に還る命でも、想いが宿るのならば、 その冒険には意義があり、生き甲斐がある。

 だから、その旅路は、きっとゼロにはならず、誰かの心に生きたいという光を灯す。

 ゼンキチの光がマーナミヤを照らしたように、マーナミヤの笑顔が、澄んだ声が、生きたいと願うその心がまた誰かのことを照らすのだろう。

 

 その温かい光は、次元をも超えて。


――――――――

――――――

――――

……。


 窓辺に刺す陽光は温かく。

 珍しく私は、ドキドキと言うか、ワクワクと言うか、落ち着かない気持ちで他人ひとが来るのを待っていた。

 どんな顔をすればいいのだろう、どんな話をすればいいのだろう、対人経験の乏しい私は、さっきから窓の外を見ながらグルグルと頭の中でそんなことを考えてばかり。

 だって、顔も合わせたことがない人と会うんだもん。

 緊張もするし、不安もある。


 ゲームでの彼は、基本的に大人な雰囲気で、私の話を聞いてくれていたけれど、たまに無邪気な印象を持つ人だった。現実ではどうなんだろう? 

 と言うか、これって所謂オフ会ってやつ?


 会いたい人がいるって、お母さんたちに話をしたらとても驚かれたのを思い出した。

 しかも、ゲームで知り合った年上の人って話をしたら大反対された。まあ、仕方ない気がする。お母さんたちを責めることはできない。

 それでも私が折れずに、一生・・のお願いって言ったら更に驚いていた。

 どうしても会ってみたかった。彼と会えば、私も(・・)変われる気がしたから。


――こんこんこん。


 扉を叩くノックの音。待ち焦がれた来客が来たのだと、私の心臓も負けじと高鳴った。


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