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第9話 トルイセント大聖堂




「えぇぇぇぇぇぇ!?同棲「断じて違います」」


閉店した店にシューちゃんの絶叫が響き食い気味に訂正を入れる。


 本日もありがたい事に用意した定食セットは完売、ゴコクさんも無事に初仕事を終えシューちゃんと並んでカウンターに座り、私の作ったチーズインハンバーグを頬張っている。


「えぇーでも、若い男女が一つ屋根の下に住むなんて同棲じゃない!

ゴコク君たら積極的ぃー♡ンフフ!!」


そう言いながらモグモグしているゴコクさんを肘で突っついてるが、相変わらず眠そうな顔のゴコクさん


 ンフフじゃないっての、ため息をついて「私の世界ではそれをルームシェアーと言います!」と強く反論する。


「別に…青葉となら、同棲してると思われても構わない…」


 そう言って、はにかむ様に笑うゴコクさん、普段眠そうな顔してるのにコレがギャップ萌え!?笑顔の破壊力たるや効果は抜群だー!!


 思わずグラリとなりそうになりながら何とか踏み留まる。貴方はスペインかイタリアのご出身ですか?

軽率に口説く様なセリフを止めて頂きたい…。君達にとっては挨拶代わりでも、慣れない人はコロッと勘違いしちゃうんですから…。


「何言ってるんですかゴコクさん、構います!構いますから!

由緒正しき神様の神使いに変な噂が立ったらゴコクさんどころか、お仕えしている神様やタカちゃんにも迷惑がかかるじゃないですか…」


 そう言って、私もキッチンでハンバーグを頬張る。んー!!肉汁とチーズの相性は罪深いほど美味しい!!自分の料理に自画自賛しつつ再度カウンタに座る2人に目をやれば、ジト目をしているシューちゃんに、いじけた様な顔をしているゴコクさん


何ですか2人ともその顔は…


「青葉ちゃんって罪深いわね…ゴコク君、守りは硬いから頑張んなさいね」


「本当に…言われずともそうします」


 私が何をしたと言うのか…


 同棲のくだりを認めないのがそんなに問題なのか、冗談を間に受けて真面目な回答をしたのがいけなかったのか、正解が分からない。こう言うのが分からないから可愛げが無いって言われるのかな…って、いやいや、別にもう恋愛しないって決めてるんだから可愛げなんか無くて良いだろ!


 そう自分に言い聞かせて何か別の話題…と考える。っと、大事なことを忘れていた!


「そうだ!シューちゃん、この国にも納税ってあるんですよね?

店の売上の税を納める時ってどうしたら良いんですか?」


 この家、というか店にはオーナーがいるのだ。

シューちゃんがオーナーかと思っていたが考えてみれば神様、どうやら、シューちゃんに仕えている方が代理として店の申請やその他諸々を一手に引き受けてくれているのだ。


レモンサワーを煽っていたシューちゃんが、んーっと首を捻る。


「えっ…まさか知らない…」


思わず声に出せば


「違うわよ!

知ってるけど…青葉ちゃんと会わせたくないのよね…。

うーん、家賃と同様に私が受け取る事にするわ、詳細は明日にでも紙に書いて持ってきてあげる」


 私に会わせたくないとは何故?余所者が嫌い?

大変お世話になっているわけだし、一度ご挨拶に伺いたいと以前シューちゃんに言ったら全力で止められたのだ。せめて店に顔を出してくれれば挨拶もできるのだが、絶対に来させないと豪語していた。そんなに会わせられない人とは一体どんな人物なのか逆に気になる。



 翌朝、店の掃除をしているとカウンターの下に青い蝶の髪飾りが落ちているのに気づいた。

コレはシューちゃんの物だ。昨日は珍しくベロンベロンに酔っ払っていたシューちゃん、ゴコクさんに文字通り絡んでいた。


「もっとド直球で行きなさいよぉ!!

アレは難攻不落の城壁だぞー!お前が狙ってるのはぁー!!

わかってんのかぁー!!」


 無表情のゴコクさんが、迫るシューちゃんの顔を掌で押し返していた…。

もしかしたらその時に落ちたのかもしれない。シューちゃんって教会に普段は居るって言ってたな、一度もこの国の教会に行っていない。なんせ、店に神様が来るので…広場の先にあるトルイセント大聖堂、もしかしたら、オーナーさんにも会えるかもしれない。と言っても、知ってるわけじゃないから見ても分からないだろうけど、今日も店に来るだろうが探しているかもしれないし、色々と言い訳をしつつ手早く掃除を終わらせると2階に上がってゴコクさんに教会に行ってくると声をかければ、ゴコクさんが眉を顰める。


「…俺も行く」


急に不機嫌になったゴコクさんにビビりつつも


「大丈夫です!忘れ物を届けてすぐ帰ってきますので

ゴコクさんはオープン時間まで休んでいてくださーい」


 そう言いながらエプロンを外して逃げるように2階を後にして一階を駆け抜け店から出る。


 はぁー…今度は一体何がゴコクさんの逆鱗に触れたと言うのか、難しいな…「神使との会話法」なんていう本があったら是非購入したいものだ。しょーもないことを考えながら、すでに賑わっている広場を通り抜ける。


 職場に向かう人、買い出しに行く人様々だ。教会の見た目は元いた世界と変わらないが、違うのは青い蝶が象徴とされているところだろうか?シューちゃんはこの世界を造った神であり、青い蝶に姿を変えて人間に生きる為の知恵を与え導いた。と言い伝えられているらしい。


 教会の中に人間の姿のシューちゃんのデカい像があるそうなので、どのくらい似ているか興味がある。

行き交う人々の間を縫うように広場を突っ切り、教会へと到着すると開け放たれた教会の重厚な扉を潜り

中に入ると見上げるほどの天井の高さ、この辺も地球の大聖堂と呼ばれるところと似ている。


 そして青い絨毯の伸びる先に右手に錫杖の様な杖を持ち、左手を天に伸ばし、その手には蝶が乗っている

白い大きな像はどこからどう見てもシューちゃんだった。


 デカい!!そして、普段の飲んだくれとは似ても似つかない神々しいその姿、その足元には礼拝に来た人々が跪いて祈っていた。分かっていたつもりではあったが改めてシューちゃんって本当に神様なんだなと実感した。


 せっかく来たのだからと私も像の足元に向かい「いつも来てくれてありがとうございます。コレからもよろしくお願いします。」

と、小声で祈りと言うより挨拶をして教会の中を見て回る。いざ、忘れ物を届けに来たものの、きっとシューちゃんにおいそれと会わせてもらえないだろう。どうしたものかと手にした青い蝶の髪飾りに視線を落とす。


「その髪飾り、エシュテル様の髪飾りと同じですね」


 急にかかった声に驚いて振り向くと黒い修道服を着た男性が立っており、とても優しそうな笑みを湛えている。如何にも神に仕えている善人な人といった感じだ。


「同じ物と言いますか…」


 本人のですと言おうとしてふと思い止まる。

教会の人がお店に食べに来てくれた事はあるが、シューちゃんと一緒に来た事はない。

何せ閉店後…もしかしたら店に来ている事を彼等に話していない可能性もある事に、今頃になって気づいて

しまった…。こんな事なら大人しく夜にシューちゃんが来るのを待つべきだった。


自分が教会に行きたかったがために…ヤッチマッタ、内心でヤラカシを焦っていると


「その髪飾り、とても精巧にできていますね。

蝶の髪飾りやアクセサリーはこの国の土産物としてとても人気なんですよ、その蝶の由来は…」


 饒舌にシューちゃんについて語り出す修道士、あぁ…私が異国の人間だから観光で来てると思われているのか、違う、違うんです!!


 どうしたものか困っていると急に教会の中が騒がしくなる。

何事かと騒がしい方に視線を向ければ、灰色の修道服に身を包んだ若い修道女が教会の奥から現れ、次々と礼拝に来た人がその修道女の元まで行くと跪き、その人々の肩に手を置き何事かつぶやかれると皆涙を浮かべて感謝をしている様に見えた。


 灰色の修道女はこの教会の司教様なのだろうか?

頭はすっぽりと修道女と同じくウィンプルを被っており、髪色はわからないが遠目でも色白と一目でわかる。


「エシュテル様のお言葉を伝えてくださる聖女様がお出ましになられるのは珍しいのですよ、貴方はとても運が良いですね」


 いつの間にか説明を止めていた修道士が聖女様を見ながら説明してくれる。

聖女様であの扱いなのだからシューちゃんになど到底会えはしないだろう。

と言うか、シューちゃんなんて呼んだら処罰されたりして…


「エシュテル様が降臨されたのは約1000年前、蝶のお姿で人々を導いたのも同じ頃と言われています。

それ以来、人々の前に現れた事はなく代々、聖痕が現れた選ばし聖女のみがエシュテル様のお声が聞けるのです。」


「はぁー、それは凄っ…えっ!!?1000年前!?」


「えぇ、そうです。

エシュテル教は1000年もの歴史を持つと言う事です」


 嬉しそうに語る修道士を驚愕の目で見てしまう。

驚いているのは其処ではない!!!

シューちゃんが人の目に触れたのは1000年前が最後という事


まって!!!

毎日、降臨してる!!

毎日レモンサワー飲んでる!!

昨日なんて、別の世界の神使いに絡み酒してた!!!

口が裂けても修道士の方に、そんな事言えないですけど!!


 えぇ…パニックになりそうなんですけど!!私って普段からとんでもない罰当たりな事をシューちゃん

いや、エシュテル様に…あわわわわわ!!


「もしかして…青葉さんではありませんか?」


「ふぇ?」


 パニックで転げ回りたい衝動を抑えて涙目になりつつ間抜けな声で返事をして振り返れば、目の前には先ほどの聖女様


「これは聖女様」


 そう言って跪く修道士、呆気に取られて固まっていたがそれを見て私も慌てて跪く


「はっ…はい、そうです。

青葉と申します聖女様」


 なななななな聖女様が私の名前を何で!?って、エシュテル様の声を聞けると言っていた…。もしかして私の話を聞いているのか…んっ…この世界でエシュテル様と会話できる唯一の人って事は…


「まっ…まさかとは思いますが、聖女様がオーナーだったり…」


恐る恐る顔を上げて問えば


「あぁー、やはり!貴方が青葉さん!

えぇ!そうです!初めまして青葉さん、私はエリティナと申します。

貴方とずっとお話をしたいと思っていました!

さぁ、立って!奥でお茶でもしながらお話ししましょう」


 嬉しそうに私の手を取り立ち上がらせると、そのまま手を引き聖女様が出てきた扉へと引っ張られるように連れて行かれる。


えぇ!!!?ちょちょちょっと聖女様!!!力強っ!!!


 周りが何事かと驚いてみている目立ってる!目立ちたくないのに目立ってる!!静かに暮らしたいんです聖女様!!!


 いや、オーナーサァーン!!ちょぉおおおおおおおおおお!!!!心で悲鳴を上げながら無常にも扉の中に引き込まれ、そのまま木の扉は閉ざされたのだった。


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