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2度と恋愛なんかしない!そう決意して異世界で心機一転料理屋でもして過ごそうと思ったら、恋愛フラグ!?イヤ、んなわけ無いな  作者: 弥生菊美


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ハイル編


 薄暗い王宮の通路を笑みを浮かべて歩く男が1人、その男を王宮仕えの侍女達が頬を染めて振り返る。

しかしそんな男の笑みを見た別の騎士が、足早にその男の横へと進みでて並び歩く


「ハイル、その黒い笑みを引っ込めろ、侍女達は気づいていないが俺にはわかるぞ、何があった?」


「フィオン久しぶりだな、王宮に配属になってからもう3ヶ月になるだろうか?」


「話を逸らすなハイル……。」


「……ふふっ、すまない。

今日はあの憎き罪人の死刑執行日だったものだからね。青葉を誘拐し、監禁を企んでいたあの神父…直ぐにでもこの手で切り捨ててしまいたかったが、あまりに多すぎる余罪で2年もの時間がかかってしまった。だがようやくだ。ようやくあの男がこの世から消える。

そう思うと自然と笑みが溢れてしまってね。」


「ハイル……お前は青葉さんの事になるとサイコになるな、時々お前が怖くなるよ」


「そんな目で見ないでくれフィオン、あぁー、そうだ。

青葉がマリエッタに会いたがっていたよ、今度我が家に来てくれないか?青葉もずっと屋敷にいては気が滅入るだろうからね。」


「はぁ…。そう思うなら、青葉さんを少しは屋敷から出してやれ彼女は店をやっていたんだ。

急に人との交流を絶たれては病みかねんぞ」


そう言って横を歩くハイルを見るが、ニコニコとしたまま無言を貫くこの男を見て、再びため息をついたのだった。


 まったく、青葉さんに心の底から同情するよ。

自分のやっている事が、その死刑になった男と似たようなものだと気づいていないのだろうか?

帰ったら、マリエッタにも伝えよう。青葉さんに会いたがっていたのはマリエッタも同じだ。

青葉さんの様子次第では、マリエッタが荒れるだろうなと容易に想像できる。いろんな意味で深いため息の出るフィオンだった。








 「青葉様!お願いですからお部屋にお戻りください。」


「でも……ずっと部屋にいたら、運動不足で体に悪いじゃないですか、別にお屋敷の外に出るわけじゃないですし、ちょっとお菓子を作るだけですよ?」


 調理場に向かう青い絨毯の敷かれた長い廊下の真ん中で、メイド長とうっかり鉢合わせしてしまい今に至る。妊娠三か月で安定期に入っていないからと、部屋の中で安定期に入るまで安静にというのはむしろ逆に体に悪いでしょ!と、思うのだけれど、夫のハイルさんにそれを言うと、無言の笑顔で圧力をかけられる日々……。庭は散歩できるけど、ハイルさんが一緒じゃないと駄目だし、ハイルさんは騎士団長で忙しいので必然的に外に出られる回数は減る。

なにも街に買い物に出たいと言ってるわけじゃないのに、いや!買い物くらい行かせてよ!


 そんな半ば軟禁状態の私を心配して、タカちゃんやシューちゃんが時々お茶をしに来てくれるのだ。

神様権限で、時間を止めてと言うとんでもない状況でお茶を楽しむ。

二人が旅行の際に私が誘拐されるという事件が起きたため、二人はかなり気にしている様子でなんやかんやと気にかけてくれるが、ハイルさんの過保護ぶりに思うところはあるようだが、屋敷にいなさいとは諭されている。


 元はといえば、皆の忠告を聞かずに私の自業自得が招いた結果が今の状況と思うと、私も抵抗しにくいのだ。

そんなことを思っていると、メイド長が困ったように眉を下げる。


「旦那様に言われた通り、どうかお部屋で静かにお過ごしください。

お菓子なら料理人に作らせて出来立てをお持ちします。

今日は天気もよろしいですし、お部屋のバルコニーでお茶を楽しまれては?

さっ、お部屋に戻りましょう青葉様、いえ、奥様!」


 部屋に着けばあっという間にバルコニーにお茶のセッティングがされて行く、そのくらい自分でできるのに…。とも思うのだが、貴族たるもの!と叱られるので、口には出せない。


 仕方なく貴族の教養の教師から渡された本を読みながら、ソファーに腰掛けて菓子が届くのを待つ、本を読んでいても頭の片隅では、閉店してしまった私のお店、その常連さん達は元気だろうか?日本に戻った、ゴコクさんと狐鈴さんはもう私のことなんて忘れてしまっただろうか?そんな事ばかりが頭の中をグルグルと駆け巡る。


 すると、コンコンコンとドアをノックする音が響き、メイド長が扉を開ければそこに現れたのはいつもよりも上機嫌そうな夫のハイルさんが立っていた。しかし、その顔を見た瞬間、何故か堰を切ったように涙が溢れてきた。


なんで?情緒不安定なんだろうか私…。

本を濡らすまいと、慌てて手で涙を拭う。


「青葉!どうしたんだ!

何処か身体が痛むのか?

アイリィー!直ぐに医師を呼んでくれ!」


 部屋に駆け込んできたハイルさんが、私の前に片膝をつくと目線を合わせる。不安気に眉を寄せて私の頬を片手で支え、もう片方の手で取り出したハンカチで流れ続ける涙を優しく拭う。


ハイルさんの言葉に、メイド長が慌てて部屋から出ていった。


「ごめんなさい。ハイルさん。

別にどこか痛いわけでも、体調が悪いわけでも無いんです。

でも、私…ヒック…私…みんなに会いたい…ううっ…」


自分の心の奥底の気持ちに気づき、ついに両手で顔を覆うと自分の膝に顔を埋めて泣きじゃくる。


「青葉……」


 絶句したような、そんな声色のハイルさんの声が響く、いい歳してこんな子供みたいに、友達に会いたいなんて泣いたら100年の恋も覚めるかもしれない。自分でもどうかしてると思うけど、涙が止まらない。完全に情緒不安定…。


 そんな事を思っていると、そっと私の両肩に手を置いたハイルさんが私の上半身を起こすと、そのままフワリと私を抱きしめる。ハイルさんの肩口を流れる涙が濡らしていく


「私の愚かな嫉妬心から君を皆から遠ざけてしまっていた。

それが、こんなにも君を追い詰めていたとは知らず。本当にすまない。

不安だったんだ。君は確かに私を選んでくれたが、誰かに横から掠め取られてしまうのでは無いかと、君が私ではない誰かを見つめる日が来るのでは無いかと……」


 ハイルさんの言葉に、思わず涙が止まり、はいっ???と理解が追い付かない。

ハイルさんに私が捨てられる事はあっても、逆はないだろう。むしろその不安は、私が抱えている物でもある。いつか、「青葉、すまない。この人を愛してしまったんだ。」と、ボンキュッボンな美女を連れてくるのではないかと、不安すぎて夢でうなされたことがあるほどだ。しかし、そんな私の思考をよそにハイルさんは話を続ける。


「フィオンにも言われてしまった。

君をもっと外に出してやれと…けれど、素直に頷くことができなかった。

器の小さな男で幻滅しただろ?君以外の事なら大抵の事は許容できる。けれど、青葉の事になると途端に駄目な男に私はなってしまうんだ。すまない青葉……。どうか、私を嫌いにならないでくれ……」


 そう言い終わると、ハイルさんが抱きしめる力を少しだけ強くする。

離したくないんだと言われているようで、頬が熱くなる。


 皆に会いたい……。

けれど、大好きなハイルさんを悲しませたくはない。

何度も考えだ堂々巡りだったけれど、こうしてハイルさんに言葉にされてしまえば、私なんかを妻に選んでくれたハイルさんの愛に応えたい。そう強く思ってしまう。

私は本当に流されやすい女だなと、心の中で自分をあざ笑う。


ハイルさんの肩におでこを摺り寄せて


「ハイルさんを嫌いになる分けないじゃないですか、むしろ私の方が不安です。

ハイルさん……かっこよくて優しいから、女性にモテるし……みんなに会いたい気持ちはあります。けれど、ハイルさんの事が大好きだから言いつけを守ってるんですよ!

そこはちゃんと分かってほしいです!」


そう言ってハイルさんから体を離し、ハイルさんのきれいな青い瞳を見つめるも、ズビッとぐしゃぐしゃになった顔で鼻をすすれば、ハイルさんがフッ!!と、噴き出して顔を背けて肩を震わせる。


「今ひどい顔って思いましたよね!!だから笑ってるんですよね!!

ハイルさんの馬鹿!!どーせひどい顔ですよ!!」


肩を震わせているハイルさんから差し出されたハンカチをふんだくり、涙をぬぐう。さすがに鼻をかむ度胸はない……。


「ふふっ、すまない青葉……違うんだ。ふっ、子供みたいだと思っただけだ。ンフッ…ククッ」


よほどツボったのか、涙まで浮かべているハイルさんをジト目で見つめる。


「フフッ…許してくれ青葉、お詫びに今度街に買い物に連れて行くよ、君の望む物を買って、君の望む場所に何処へなりともお供しよう。」


自分の目元の涙をぬぐいながら、ハイルさんがこちらを見つめるものだから、その顔を本当にぃー?と疑いのまなざしを向ければ


「約束する。次の非番の日に必ずだ。」


何時もの王子様スマイルに戻ったハイルさんが、ふわりと笑い私の乱れた髪を手で整えてくれる。


「絶対ですからね。」


「あぁ、勿論だ。

他でもない愛する妻との約束だからね。」


「約束を破ったら家出します。エリティナ様のところに」


「たとえ血の雨が降ろうとも約束を守ると誓おう。

お願いだからあそこに行くのだけは止めてくれ」


 心底嫌そうにしているハイルさんの顔を見て今度は私が吹き出せば、ハイルさんもつられて笑いだす。

笑いあう二人に、慌てて戻ってきたメイド長と医師が、どういう事?と、部屋の入り口で立ち尽くしていたのに気づくのはもう少し後





 その夜

 すっかり寝入ってしまった青葉をの顔を見つめる。

夕方に泣いていたから疲れたのかもしれないが、なんだか今日は幾分か幸せそうな寝顔に見える。

これは自分のエゴかもしれない。ハイルがそっと自分の横で寝ている青葉の頬に触れれば、むにゃむにゃと寝言にもならなような声を上げ、それを見てフフッと笑ってしまう。


 こうして隣に青葉が居ても、自分の妻になり、その身に自分の子を宿していても、それでもまだ足りないと思ってしまう。身も心も、彼女のすべてを手に入れたはずなのに、それでももっと欲しいと望んでしまう。癒えない渇き……そう……できることならば、永劫に彼女の瞳に映るのは自分であり、その唇で紡がれるのは自分の名前だけであればよいのにと、心の底から思っている。


そこではたと思い出す。処刑されたあの男が用意していたあの檻……。


「ハハッ、ククククッ…」


 押し殺した笑いがベッドに響く、青葉が起きてしまわないように抑えなければ…。

そうか、あの男と同じことを私は……。けれど、檻に閉じ込めるなんて無粋な真似はしない。

彼女の心が私から離れてしまったら元も子もないのだから、いずれ腹の子が成人し、この屋敷の次期当主となった暁には、青葉と二人で誰もいない人里離れた場所でたった二人で余生を過ごそう。


「お休み青葉、愛しい私の妻、今は良い夢を」


そう言って、その額に口づけを落とし、青葉をそっと抱きかかえるといつか来る日を思い浮かべて眠りについたのだった。



ハイル編 完








約1年という長きにわたりご愛読を頂きまして、誠にありがとうございました。

私の拙い文章にも関わらず最後まで読んでくださった方々に、こころより御礼申し上げます。

本当にありがとうございました。

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