第42話 女騎士
昼時の1番忙し時間が終わり、空いたテーブルの食器を片しながら店内を見回せば、狐鈴さんもカウンターへと空いた食器を持って戻っていくところだった。
テーブル席で食事をしているお客様が2人いるが、程なくして食べ終わりそうだ。
テーブルを布巾で拭いていると、カランカランとドアのベルが来客を知らせる。
「いらっしゃいませー」と、営業スマイルで振り返れば防具を身に纏った騎士がヘルムを小脇に抱えて入ってくる。
よく見れば、白銀の綺麗な髪を一本に束た端正な顔立ちの…女性!?
女性の騎士とは珍しい。
そう思いながら「空いているお席にどうぞ」と、微笑めば、ギロリとこちらを睨みつける女性騎士
なっ、何か早速気に触ることでも!?と、怯えていると、ふと思い出す。
初めてハイル様と会った日にも確か、女性騎士がいた。
しかも、睨み殺されるのではと言うほど、鋭い眼光の女性騎士…まっ…まさか…。
引き攣る笑顔で「直ぐにお水とおしぼり、お持ちしますね」と伝えると、逃げるように早足でカウンターへと戻る。
なんでこの店に!?偵察か?それとも、知らずに入った??
どどどどどどうしよう…と思いつつ、水とおしぼりを用意して壁際のテーブル席に座った女性騎士の元へと向かう。
確か名前は、ソフィー?ソフィーナ?なんだったっけ!?でも、同一人物とは限らないし…。
ぐるぐると脳内で考えながら、女騎士の元へと戻る。
「こちら、お水とおしぼりになります。
お料理はお決まりですか?」
「貴方が青葉よね?覚えてるかしら?路地裏で私と会ったこと?」
冷ややかな言葉で、睨み上げるようにこちらを見上げる女騎士に、やはり貴方でしたかぁぁぁぁ!!!!と、内心で絶叫する。
「はっ、あっ、あの時の!?
そっ、その節はお世話になりました。」
ヘルム被ってたから顔なんて分かりませんよ!と言いたいが、すでに機嫌が最悪状態の相手に言えるわけもなく、愛想笑いをするのが精一杯!いったい何故ここに!?
「フンッ、その取って付けたような愛想笑いを止めなさいよ、イライラするわ
それより私、空腹なの何か肉料理を持ってきて」
「はっ、はいっ…」
ヒィィィィィ!!と、逃げるようにまたしてもカウンターへと足早に戻る。
「ゴコクさん、超特急でハンバーグランチをお願いします!!!」
そう伝えれば、頷いたゴコクさんが調理に入る。
カウンター内で洗い物をしていた狐鈴さんが、手を拭きながらこちらに寄ってくると
「なんや、あの女に睨まれてへんかった?
僕が変ろか?」
心配してくれる狐鈴さんに感謝しながらも「いえ、大丈夫です。相手は女の人ですし、私が対応するので大丈夫ですよ」と、伝えれば、少々不満そうにしつつも「なんかあったらすぐ僕を呼ぶんやで」と、言いながら洗い物に戻って行く狐鈴さん、申し出はありがたいが…あの騎士の様子から察するに、この店が私の店と知って入店したようだ。
ハイル様がこの店に通っていることを知って来たのだろうか?
それとも、マリエッタさんのお茶会に顔を出している件について!?
というか、あの女性騎士はハイル様とどう言うご関係!?
ハイル様に婚約者が居ない事はハッキリしている。
やはり、ハイル様に恋している過激派女子か!?
ハイル様とお近づきになると、こう言うことが起こるんじゃないかと危惧していたことがついに現実に…。
今までなかったのがむしろ幸運だっただけかもしれない…。
はぁ…と、内心でため息をついていると「お会計頼むよ!」と、声をかけてきた2人のお客さんの会計を済ませるためにレジへと向かう。
その客を見送れば、この店のお客さんは女騎士のみ…。
非常に気まずい…。
なるべく騎士の方を見ないようにしながらカウンターへと戻れば、超特急と言った通りゴコクさんが「ハンバーグ定食」と言って、トレーを差し出す。
それを受け取ろうと手を伸ばせば、ゴコクさんが前のめりになり小声で声をかけてきた。
「青葉、あの女と知り合い?
なんだか、青葉に敵意があるように見えるけど…つまみ出そうか?」
「だっ、ダメですよ!
ハイル様とお会いした時に一緒にいた女性の騎士です。
私の方で対応しますから、心配しないでください。」
小声でそう伝えれば、ゴコクさんも不満そうな顔をする。
「無理しないで青葉、何かあったらすぐ戻って」
「ありがとうございます」
頼りない店主ですみませんと、苦笑いをしつつトレーを受け取ると、女騎士の席へと向かう。
「お待たせいたしました。
ハンバーグ定食です。」
そう言いながら女騎士の前にトレーをそっと置くと、女騎士は眉を寄せつつも
「ふーん、これが噂のテイショクとか言うやつね。
本当に色々と付いてくるのね。」
「あっ、はい。
サラダと果実水もセットなんです。
では、ごゆっく「そこに座りなさいよ」」
「えっ…」
女騎士が顎で自分の向かいの席に座るよう指示する。
「座りなさいよ」
「はい…」
仕事中という言い訳をする間も無く、おとなしく着席する。
何なんですかァァァァァ!?
と、内心は絶叫ものだが引き攣る笑顔で向かいに着席すると、女騎士は早速食事を開始する。
この女性騎士も貴族なのだろう。
滲み出る育ちの良さ、お上品にナイフとフォークを使って、ハンバーグを切るとこれまた上品に口へと運んで咀嚼する。
「料理の味は噂通り美味しいわね。」
「あっ、有難うございます…。」
意外に素直?実は料理を食べに来ただけ?早く解放されたいと願いながらも、女騎士の食事をする様を見つめる。
「私がこの店に来た理由だけど、アンタがどんな女か見極めるためよ」
唐突!?と、思わず口に出さなかった自分を褒めたい。
「なっ、何故でしょう?
やはり、ハイル様の関してのことですよね?」
「そうよ…。
女に全く興味のなかったハイル様が急にアンタみたいな日弱そうな異国人にご執心…私はね。
ハイル様の容姿と、その権力に取り入ろうと近づく女が大っっ嫌いなのよ。
あの人を汚すような女が、利用しようとする女が、ハイル様をまるで自分を着飾る装飾品みたいに扱う女がっ!
ハイル様に近づくことは許さない!」
苛立ちをはらんだ口調で話すと、フォークをハンバーグへと勢いよく突き刺して口へと運ぶ女騎士、その顔をポカーンとした顔で見つめてしまう。
今の言い分だと、この女性騎士がハイル様と恋仲になりたいから近づく者は許さない。と言うより、親衛隊に近いような発言?モンペ?お母さんポジション??
「あのっ、騎士様「ソフィリアよ」」
「ソフィリア様は、ハイル様と恋仲になりたいから他の女性が近づくのが許せないと言う事ではないと?」
言った後に、直球すぎる質問だったなと後悔するが言ってしまった者は仕方ない。
ヤバい…と思いつつソフィリアの様子を伺えば、俯いてナイフとフォークを持ちながらワナワナと震えている。
愚問でした!???
落ちるであろうソフィリア様の雷に耐えるために目を瞑った。




