第26話 反省会
静まり返ったキッチンになんとも居心地の悪い空気が流れる。
テーブルの向かいには、無表情のゴコクさんと、冷たい笑みを浮かべた狐鈴さんが2人並んで座っており、背中に嫌な汗が伝う
本日の営業再開日は大盛況に終わり、シューちゃんとの夕ご飯も終わり、お風呂も入って、さて寝ようかと言うところで、ゴコクさんんに呼び止められたのだ。
「青葉、昼間の言葉…覚えてるよね?」
忘れていたわけではない…どちらかと言えば、忘れていて欲しかった…何なら、何も言わずにやり過ごそうと思っておりました!!!!
心の中で大絶叫しつつ、ゴコクさんの後についてキッチンに来れば、笑顔で緑茶の入った湯呑みを用意している狐鈴さんが目に入った。
これは…親に盛大な説教をされる子の気分…
「それで…何処でハイルと知り合いになったの?」
「僕も知りたいわー、随分とあの男は青葉にご執心やんかー
そないな仲になる程、何処で何があったん?なぁ?」
んぐっ…
2人の圧に思わず視線が泳ぐ
この話をすれば、危険な目にあった話もしなければならない。
ただでさえゴコクさんには色々と心配掛けてるのに…この話をしたら外出許可すら出なくなるのでは!?
「えぇ…と、その…広場で偶然「嘘が下手すぎや青葉」」
狐鈴さんの言葉に再度言葉に詰まる。
ゴコクさんはゴコクさんで、一切視線を逸らさずにこちらを見つめているし…
ぐっ…無理だ…どんな適当な話をしてもこの2人には見透かされる気がする。
仕方ない…話すしかない…
「…狐鈴さんがいらっしゃった翌日…その…色々ありまして1人で外出したんですけど、外出先で買ったばかりの焼き菓子を子供にひったくられまして…思わず追いかけたら、路地でガラの悪い人に絡まれたところを、見回っていた騎士の方々に助けていただきました。
その中のお一人がハイル様で、心配だからとお店の前まで送ってくださって、その際お礼に今度ご馳走しますよ。
と、お伝えしていたので、それで今日は来てくださったのかと…以上です…」
「色々あって1人で外出した、その色々って何?」
ゴコクさんの淡々とした言葉に追求されて、うぐっ!!とまたも言葉に詰まる
「えぇ…っと…大した事では「青葉、全部話して」」
ゴコクさんの追い打ちに耐えられずに、スミマセン…狐鈴さんと心の中で謝罪しつつ
「狐鈴さんとちょっとした…売り言葉に買い言葉と言いますか…私が怒って勝手に飛び出したと言いますか…」
そう答えた後、永遠にも感じられる沈黙が続き、視線を上げられずテーブルを見つめて無言の間に耐える。
なっ、何か言ってくださいよぉぉぉぉぉ!!!
ひぃーん、心の中で涙を流していると
「はぁーーーー」
っと、ゴコクさんが深い溜め息をついたと思ったら、真横にいた狐鈴さんの方を向きその胸ぐらを掴む
「狐、何か言いたい事はあるか」
「ほんまにゴメン」
普段の狐鈴さんからは想像できないほど、素直な謝罪!!
その上、目が死んでいる!?
「ちょっ!ゴコクさんダメですって!!
ゴコクさんに言われていたのに、1人で出て行った私が悪いんですし!!」
怒りの矛先が全て狐鈴さんに!?
いくら何でも!!と、ゴコクさんに向かって止めるように手を伸ばせば、狐鈴さんが
「えぇーんや、青葉
僕自身も思ってたんや、あの日の自分をぶん殴りたいって…何やったら青葉が風邪ひいたんも僕のせいとちゃう?
…ははっ…ははははっ…」
目の前にいる狐鈴さんは、本当にいつもの狐鈴さんですか!?
普段とあまりに違う、狐鈴さんの様子にゴコクさんも苦虫を噛み潰したような顔をすると、チッと舌打ちをして掴んでいた胸ぐらを離した。
ゴコクさんが舌打ち!?ゴコクさんは、狐鈴さんの前だとキャラが違いすぎやしませんか!?
「この無能狐が、あいつとの接点を作った原因ということは分かった。」
ハイル様と知り合いになるまでの過程は問題あったが、ハイル様自体は悪い人じゃないんだし…何故そんなにハイル様が問題視されているのか!?
騎士だから?いや、でもそれは…あぁ…治安維持となると余所者は目をつけられやすい、探られたら私達は世界人な訳で…確かにそういう意味では叩けば埃が出るやもしれない…仕入れや収支報告とか答えられない出身地とか諸々…
まずいかもしれない!?
「スミマセン…何もかも考え無しの浅はかな行動でした…」
そう言ってテーブルにオデコが着くくらい頭を下げて謝罪する。
「青葉が悪い訳じゃない。
1人でフラフラ出歩いたのは、確かに問題だけど…本当にこの世界は日本と違って危険だから、だから俺が居ない代わりに狐がここに来たのに……聞いてるのか無能狐」
冷たい視線と冷たい声で狐鈴さんを威圧するゴコクさんに、思わず私の方がヒッと声が出そうになる。
「聞いてる…よーく効いてますー
神使生に置いて今が1番、心抉られる思いやわ…返す言葉も無いほどに…青葉がそんな危ない目に遭ってたやなんて知らんかったし、ほんま僕は無能な狐やわ…」
「狐鈴さん!?あの日、私が出て行った後も汗だくになって私の事を探してくれてたじゃ無いですか…
ゴコクさん、狐鈴さんは何もしなかった訳けじゃなくて、ちゃんと私を必死に探してくれてたんですよ」
だから、そんなに責めないであげて下さい…と尻すぼみになるように小声になっていけば、チラリとコチラを見たゴコクさんが小さくため息をつき、困った様な顔をしてテーブルの上に置かれていた私の手をするりと取ると、その手を自分の頬に寄せる。
「青葉はそんな顔しないで、本当に…青葉は優しすぎるから心配になる。
ねぇ、あお「何どさくさに紛れてイチャついてんねん!!クソ牛がぁぁ!!
反省はしとるけど、それとコレとは話が別やからな!!!」」
突然、平常運転に戻った狐鈴さんの言葉に、ゴコクさんの米神に青筋が浮かび上がる。
「あっ、あああああのゴコクさん…」
笑顔のまま、そっと私の手をテーブルに置くと、目にも止まらぬ速さで立ち上がり、またも狐鈴さんの胸ぐらを掴もうとするが、狐鈴さんが今度はその手を叩き落として立ち上がる。
「っつ、役立たずのゴミ狐が…」
「うっさいわ、サイコパス和牛がっ」
あぁぁぁぁぁ、また始まってしまった!!
2人とも落ち着いて下さい!と、私もつられて立ち上がるが、睨み合う2人の耳には入っていないようで…
ある意味2人の世界ですねーと、現実逃避した。
結局、殴り合いはしなかったものの、タカちゃんを呼びますよ!!と、私が絶叫するまで嫌味の応酬は続いたのだった。




