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2度と恋愛なんかしない!そう決意して異世界で心機一転料理屋でもして過ごそうと思ったら、恋愛フラグ!?イヤ、んなわけ無いな  作者: 弥生菊美


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第24話 騎士の内心



 「ここが青葉さんの店か…」


ポツリと呟いて、店を見上げる。

店の前には人が10人ほど並んでおり、噂通りの人気店のようだ。

他の騎士から並ぶほど人気だとは聞いていたが


「これはすごいな…」


「あれ?騎士団長のハイル様じゃないか?」

「えぇ?ハイル様もこの店に!?」


並ぶ人々に早速顔が割れてしまい苦笑いをしてしまう。


「非番なので、騎士達の間で話題の料理を味わいに来たんですよ」


そう言いながら列に並ぶ、今のは嘘だ。

どちらかといえば先日助けた黒髪の女性、青葉さんに会いに来た目的の方が大きい。

あれから1週間くらいだろうか、彼女に会ったその日から頭の中は青葉さんのことばかり考えている。

ふとした瞬間、彼女は今何をしているだろうか?

彼女の好きな物は?

次に会った時、どんな事を話そうかと…そんな事ばかり考えている日々

だが少しも苦ではない。

誰かが、恋をすると世界が色づくと言っていたが、まさにその通りだ。

目に見える世界と自分の思考すらも、全て変わってしまったのだから

10代の頃から騎士団に所属してからはや十数年が過ぎ、気づけば騎士団長と言う立場となっていた。

貴族という立場と、恵まれた容姿と体格で女性からのアプローチも絶えない。

ありがたい事なのだと思う…だが、こんな恵まれた自分だと言うのに、満たされないような、自分自身ではないような…なんとも言えない気持ちになるのだ。

もし自分に、貴族という立場も、この容姿も、この体格も無かったら、果たして内面だけで自分を見てくれる者などいるのだろうかと…。

本当の自分を見てくれる人は、この世に居ないのではないかと思う。

いつだったか…聖女様の護衛の任に当たった際、空虚な瞳だと言われたことがあった。

流石は聖女というべきか、その通りだと思った。

空虚なのは瞳だけではない。

己自身もだ。

だが、あの日を境にそれは変わった。

その日も、多発している誘拐事件の警戒のため裏路地を重点的に見回っていた時のことだ。

兵士の1人が女性の叫ぶ声を聞きつけたのだ。

念のため二手に分けれ、声の元へと向かえばこちらの足音を聞きつけたのだろうか、賊の3人が足早に立ち去ろうとするところだった。

それを制止すれば「むしろヤバいのは、そこのお嬢さんの方」と慌てふためく賊の言葉に、その背後を覗き込めば不安げな瞳をした黒髪の小柄な女性が立っていた。

見たことのない顔立ち、異国人の様だが観光できた様子ではなさそうだ。

商業の発展しているこの国では、異国人など珍しくもないが…何故だか妙に心がざわついた。


「先程、この方々から売春宿に売っぱらうと言われました…」


凛とした声でそう反論するが、最後の方は不安が勝ったのか消え入る様な声になるその女性

どう見てもこの女性が何かできる様には見えない。

そう思うのも束の間、あっさりと自白した賊を連れて行く様に命じる。

これで誘拐犯の尻尾が掴めれば良いのだが…。

3人組が連れて行かれるのを見送れば、黒髪の女性へと歩み寄り声を掛けるが怯えた様子

今し方の事もあるし、小柄な彼女からすれば私自身のことも恐ろしいのかもしれない。

なるべく距離を取る様に心がけるが、彼女1人で帰らせるには些か不安がある。

背後から痛いほど感じる視線、本来ならば同じ女性に彼女に頼む方が良いのだろうが、ソフィリアはどうにも周りに攻撃的なところがある。

彼女が自分に向ける好意を気付いていないわけではないが…

彼女の横暴すぎる態度、騎士団に何故入ったのかと思ったことは1度や2度ではない。

だが彼女の家も貴族の家系、辞めろなどと言って捨てるわけにも行かない。

こんなことなら、若い騎士を1人残せば良かったか…。

思わず心の中でため息をつく

黒髪の女性も、ソフィリアの視線を気にしているようだ。

慌てて1人で帰ろうとする彼女の手首を掴んで、あまりの細さに驚いた。

異国人とはこんなにも細いのか!?

力加減を誤ったら折れてしまうのではないかと不安になった。

恐ろしい思いをしながらも、誰に助けを求めるでもなく

今もこうして1人で戻ろうとする。

この小さな身で、うちに秘めるものの強さを感じた。

なんとかソフィリアを詰め所へ戻らせ、彼女の小さな歩幅に合わせるように広場にあるという自宅へと向かう。

彼女の声を遮るように、ガシャガシャと音を立てる金属の防具が恨めしい。

異国人故か私が何者なのか知らないようで、気づけば彼女の身辺調査のような質問ばかりしていた。

質問に答える際に、時折見上げる彼女の瞳、その瞳には虚飾も憧れも執着もない。

そんな彼女が困ったように笑う度に心臓を掴まれたような、それでいて満たされるような、何とも言えない気持ちになる。

自分の事を何も知らない彼女、なんの色眼鏡も使わずに見上げてくる。

本当の自分を彼女は見てくれている。

それが嬉しくて仕方なかった。

聞けば、彼女は騎士達の間でよく話題に上がる料理屋の店主だという。

騎士達の評判をありのまま伝えれば、はにかむように笑う彼女の可愛らしさに、思わず抱きしめたい衝動に駆られ拳を握りしめて耐える。

自分は何を考えているんだ!?

変質者のような真似などするわけには行かない。

そんな己の衝動に耐えていると、その純真無垢な瞳がまじまじと見つめてくる。

これ以上煽らないでほしい…

ヘルムがなければ、みっともない顔を彼女に晒していただろう。

高揚する頬が自分でもわかる。

思わずヘルム越しに口元を覆いながら視線を逸らす。


「申し訳ありません、その様に見つめられると、些か気恥ずかしく…」


本当は気恥ずかしいどころではない。

心拍数の上がる己の鼓動が聞こえてはいないだろうかと不安に思うほどだ。

慌てて謝罪する彼女に、そうではない!謝らないでくれと訂正する間もなく、少し離れた場所から自分の名を呼ぶ黄色い声が上がる。

今、その名を呼ばないでくれ!と言いそうになる。

慌てて彼女をみれば


「本当に、ありがとうございました!!

今度、お時間のある際にでもお店にお立ち寄りください!

お礼になんでもご馳走しますので!!では!!」


早口のように言い終えると、にこやかに笑い

バッ!と勢いよく一礼すると逃げるように駆け出す彼女に「待って!」と、手を伸ばすも最早届かず、黄色い声を上げた女性達に周りを囲われてしまう。

退いてくれと無碍にするわけにもいかず、何とか取り繕いつつも彼女の走り去った方を見れば、コチラをチラリと一瞥すると直ぐに扉の中へと消える。

まるで、いや…本当にハイルと言う男などには興味がないのだろう。

女性達から逃れて、なんとか詰め所へ戻るも頭に浮かぶのは黒髪の彼女のことばかり

名前すら聞けなかった己の愚かさを呪う。

書類仕事をしながら溜め息をつけば、部屋にいた側近の騎士がこちらを見ながら笑う


「ハイル団長、そのため息で30回目ですよ

最初は疲れてるのかと思いましたが、もしや恋ですか?

相手は誰ですか?どんな男ですか??」


その言葉のあらゆる部分に異議を申し立てたくなる。


「何故相手が男になる?

私の対象は女性であって、男ではないぞ」


「えっ!?そうだったんですか!?

どんな美人も可愛い子でもつまみ食いすらしないから、てっきり男がお好きなのかと…」


その言葉に絶句する。

まさか、騎士達の間ではその様な噂が広まっているのか…有り得る…


「私は騎士だぞ、そんな不誠実な事するわけがないだろ…」


「騎士ですけど、男なら有るじゃないですか巨乳の女に擦り寄られたり、良い匂い嗅いだらムラムラ〜って」


騎士らしからぬ発言に盛大に溜め息をつけば、察した騎士が申し訳ありません!失言でした!!と謝罪するが、ふと何かを閃いた顔をする兵士


「相手が男でないなら、女!?

ますます誰ですか!?」


何と切り替えの早い側近だ。

その切り替えの速さで側近に選んだわけだが、だが恋か…

女性と付き合った事がないわけではない。

けれど、この様に頭の中を相手がずっと占めていた事も、その女性を想い胸が熱くなる事など一度もなかった。

これが恋というものなのか…自覚した途端にまたジワリと熱くなる胸


「ラインの言う通りだ。

騎士達の間で話題になっている料理屋の店主の女性、どうやら私はその女性に恋をしてしまったらしい」


困った様に笑えば、ラインの目が見開かれる


「えぇぇぇぇぇぇぇ!?

ハイル団長が青葉ちゃん狙い!!!?

やめてくださいよ!この話聞いたら騎士団の指揮が下がりますよ!?

青葉ちゃんは皆んなの憧れなんですから!!

僕ら下っ端騎士にも優しくしてくれる唯一の子なんですからって…団長?」


「彼女は青葉と言う名なのか…そうか…良い響きだ…青葉…」


「団長?聞いてます?

団長どのぉー戻ってきてくださーい」


青葉と話しがしたい。

もっと彼女を知りたい。

脳裏に浮かぶのは彼女の笑顔、それだけで胸が熱くなり満たされる心

次の日番は来週…まだ先だな…早く会いたい。

今日はヘルム越しだったが、次に会うときは素顔を晒している。

彼女は自分を気に入ってくれるだろうか?

どんな表情を見せてくれるだろうか?

不安と期待が入り混じりつつ、非番の日を心待ちにするのだった。


「ねぇ!団長!!!お願い聞いて!!」


ラインの叫びが響く執務室に綺麗な夕焼けが差し込んだ。
















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