第22話 神罰
私の朝は早い。
まだ外が薄明るい時間から起き出して、顔を洗って着替えたら前日に下ごしらえをしていた料理の準備、それに加えてタカちゃんやゴコクさんの朝食の準備をしなければならない。
今日も目覚ましが鳴る前に目が覚める。
しかし、お店は明日から営業再開なので今日はもう少し寝ていられる。
そんな事を思っていると、枕の横で丸くなって寝ていたリンちゃんが寝ぼけ眼で起きると、鼻をヒクヒクさせている。
どうしたんだろう?とそれを眺めていると、なにやらお味噌汁の匂いが部屋に漂い始める。
もしかして、ゴコクさんが朝食を作ってくれている?
朝ごはんまで待てなかったのだろうか?
もそもそとベッドから出るとカーディガンを引っ掛けてキッチンへと向かう。
いつの間にかリンちゃんが肩に乗っており、お主はカワユイの〜なんて思いながら、キッチンを見ればそこに居たのは
「なっ!!!何故!?」
「何故とはご挨拶やなー、未来の旦那さんの狐鈴様がせっかく苦労して帰ってきたんや
狐鈴様ー!って、泣きながら僕の胸に飛び込んでくれてもえぇーんやで!」
「未来の旦那…?誰の?
はっ!?もしや私はまだ寝ている!?
起きたつもりになってる夢ですね!
もう一回寝直したらきっと起きれます。
では、おやすみなさ「夢やない!夢やないから!!!ほんに鋼の城壁やなー、まぁそんなとこすら可愛く見えてしまうほど、僕は重症なんやけど」」
1人で、はぁーあ
と、ため息をついている狐鈴様
すると、突然リンちゃんが私の肩を踏み台にピョンと数メートルの距離を飛んで、そのまま狐鈴様の肩に降り立つと、その頬に頬擦りしている。
そして、狐鈴様と何事か会話しているようで2人とも楽しそうに見える
あぁ…リンちゃん…やっぱりご主人様の方が良いんだね…
って、そうじゃなくて!!
「狐鈴様、本当にこちらに…でも向こうのお仕事はどうされたんですか?」
「なんやー青葉は僕が戻ってきた事、もっと喜んでくれてもえぇーやん」
拗ねた子供のような顔をする狐鈴様に、えぇ…と思わず言いそうになる
あなた私との初対面をお忘れですか????
まぁ、風邪のときは看病していただいて狐鈴様は病人には優しいんだなってちょっと見直しましたけども…
「いえ、寝起きの頭が働かない状況で狐鈴様がキッチンにいらっしゃったので、何が何だか理解が追いつかず…
すみません
あっ!?お帰りなさい!狐鈴様?」
「なんで疑問系?合ってる合ってるから!
向こうに帰って直ぐに宇迦様にお願いして、有休もぎ取ったんやー!
なんせ有給なんて増える一方で消化が追いついてへんかったしなー
70年分くらいは有るし、青葉が死ぬまでこっちに居れるから安心してなー」
そう言って最高に綺麗な笑顔をする狐鈴様
サラッと!!サラッとツッコミどころ満載な発言が多々ございましたが!!?
神様の世界にも有給とかあるの!?
しかも有給の量!!!
そして、私が死ぬまでって!?
えぇ!?最後は孤独死しないように、看取って葬式の面倒まで見て下さるって事ですか!?
そう言う事!?神使様の手厚いサポート!?
寝起きで働いていない脳に大量の情報量、オーバーヒートしそうだよ!!!
そんな事を思っていると不意に両手を取られ、驚いて前を向けば狐鈴様の整った綺麗な顔が目の前に!?
それに驚いて一歩下がろうとすれば、すかさず片手を離した狐鈴様がその手を腰に回し逃げられないようにと言わんばかりに、ガッチリとホールドされる
なななななななな!!!!??
急激に上がる体温に頬が熱くなる
「なんやー、この位で頬染めるなんてー
メンタルは鋼やけど、スキンシップには脆いんやな
ええこと知ったわー」
意地悪い顔をする狐鈴様に、えっ?いやーそんな事は…と挙動不審で距離を取ろうと踠いていると、私の頭上をヒュン!!と何かが掠め、狐鈴様が苛立った顔でそれを避けると、流し台の壁にドンッと分厚い本が激突して床に落ちる。
「青葉を離せ狐」
怒りを含んだ低い声に、私が怒られているわけではないのにビクッと肩が揺れてしまう。
ゴコクさん…恐る恐る振り返れば、感情が抜け落ちたかのような怒り顔のゴコクさん…
ヒエッ…
「青葉に当たったらどないすんねん!ドアホが!
大体、お前に言われて離すわけないやろ」
そう言って、狐鈴様に腕を引っ張られたと思ったらくるりと裏返され背後から狐鈴様に抱きつかれる格好になる。
「なっ!?」
「相変わらず色気のない驚き方やけど…
はぁ〜
青葉をぎゅーっとするとメッチャ満たされるわ〜」
スリスリと私の頭に頬擦りする狐鈴様の姿は先程のリンちゃんのようだ
式神は主人に似るのか!?
背中から伝わる狐鈴様の体温にますます頬が熱くなる
「離れろと言っている」
地を這うような声と共にコチラに歩み寄ってくるゴコクさん、それに対抗するように狐鈴様も表情こそ見えないが、負けじと低い声で
「ほんに鬱陶しい牛やな、いっぺん黙らしたるわ」
そう言うと、私から離れて行く狐鈴様
いかん!!このままでは殴り合いの喧嘩になってしまう!?
2人は一体何がそんなに不満なんですか!?
日本人がここに1人しかいないから?
お世話する人間の取り合いとかそう言う感じ!?
それとも、お気に入りのおもちゃとられるからとか?
「2人とも落ち着いてください!」
「青葉はそこで待ってて…この狐絞めるから」
「こんなクソ牛直ぐ黙らせて沈めたるからなー、青葉ー」
どどどどどどうしたら止められるのこの物騒な2人!?慌てていると、そこにフッと2人の頭上に現れたタカちゃんに驚くまもなく、落下するついでに2人の脳天に拳骨を入れるタカちゃん
「いい加減にせぇー!!」
「いっ!!?」
「フギャ!!」
あまりの痛みに大の男2人が、キッチンの床で脳天を抑えて痛みに打ち震えている。
可哀想だなとは思うが、殴り合いを阻止できたと思えば致し方なし!
その2人を横目にタカちゃんに飛びつくように抱きつく
「タカちゃん!!ありがとうございます!!」
「よしよし青葉、このバカ2人に板挟みにされて可哀想にのぉー
少しこの2人に灸を据えねばならんのでな、青葉は部屋に行って二度寝でもしておれ
狐鈴の式神、お主も一緒に行くんじゃ」
いつの間に避難していたのか、リンちゃんが食器棚の上から顔を覗かせると、そのまま私の肩の上に乗ってきた。
「僕も青葉と二度寝しイタタタタタタタタ!!!!!?」
突然悲鳴を上げた狐鈴様を見れば、いつの間にか金色に光る鎖が両腕ごと上半身を拘束しており、それが締め付けているようだ。
見た目はもはや、江戸時代のお縄についた罪人状態で有る。
ゴコクさんも縛られているが、諦めたかのように無表情でそのまま床に転がっている
それを腕組みをして見下ろしているタカちゃん、その表情は狐面で口元しか見えないが一文字に結ばれ、口の端がヒクヒクと痙攣している。
あわわわわ…メッチャ怒ってらっしゃる…
後ずさるようにしながら、その場から逃げ部屋に逃げ込んだ。
「さっ、二度寝しようリンちゃん!
起きたら全部夢かもしれないしね!」
そう言って布団に入れば、不思議そうな顔をしながらもリンちゃんも布団に入ってくる。
そっ!これは夢、これは夢!と言いながら瞼を閉じるが、定期的に響く狐鈴様の悲鳴に…
タカちゃんは絶対に怒らせてはいけない。と、心の底から誓ったのだった。




