第20話 一触即発
「あの…狐鈴様、これはそのぉー、お礼がこの状況というのは…」
「んー?これって、膝枕のこと?
青葉の膝枕の寝心地は最高やー、僕しばらく寝るから気にせんと本でも読んでてかまわんから」
そう言うと、目を瞑って本気で寝始める狐鈴様
えっ!?本当にこのまま寝る気!?
事の発端は数分前、熱もすっかり下がり体力も戻ったので何かお礼をすると言ったところ
「ほんなら膝枕してー」と満面の笑みで答えた狐鈴様、気まぐれなのか何なのかソファーに横になり
はよーと言って、ポンポンとソファーを叩く狐鈴様に、えぇ…と動揺しつつもソファーに座ったところ、私の膝に頭を乗せて「楽園やー」と、ウキウキする狐鈴様…そして今に至る。
私が風邪をひいてから、いったい狐鈴様はどうしてしまったのか?
人が変わったように、好意的…過ぎると言うほど変わってしまった。
可愛えぇーなー、そう言うとこ好きやわーなどと歯の浮くような台詞を平気で言ってくる狐鈴様
恥ずかしがる私を見て面白がっているのかなんなのか…
まさか、狐鈴様って私に気が!?なんて、バカなことを頭をよぎるが…まぁ…そんなわけ無い
万が一、億が一!そんな事あったとしても、いつものように
君は1人で生きていける
君は可愛げがない
と、毎度お馴染みの言葉で私の心をズタズタにして去っていくんだ。
私に非があるくせに被害者面かっ…何百回と思って来たことをまた繰り返す。
いやまぁ、億が一すらあるわけ無いんですけどね。
散々可愛げがないと言ってからの手のひら返し…絶対に裏に何かある!!
私は騙されないと、ジト目で寝ている狐鈴様の顔を見下ろすが、くっ…イケメンが寝ている姿は美しいですね!!!!
ばっと、正面を向いてもう考えるのを読めよう!
無心で、普段通りに、本でも読もう
そう思って、ソファー横に置いておいた読みかけの小説を手にする。
もうそろそろ、読み終わってしまうから何か新しい本をお願いしたいな…
そんな事を考えながら本を読んでいると、1階からガタン!と言う物音が聞こえたと思ったら、ドタドタドタ!
と、いつぞやの狐鈴様のように誰かが駆け上がってくる音がする
なっ!?何!?
「狐鈴様!!起きてください!!」
慌てて、狐鈴様の肩を揺らして起こすと寝ぼけた声で
「チューしてくれたら起きるぅー」
などと言う狐鈴様、この非常時に!!イラッ!!!っとしている間に、足音の主が2階へ顔を出す。
思わず身構えるが、その顔を見た瞬間に肩の力が抜ける
「ゴコクさん…驚かさないで下さいよー
じゃなくて!!お帰りなさい」
そう言って笑えばゴコクさんも微笑んでくれるが、その目線が下に下がった瞬間、見たこともないような冷たい視線に変わる。
あまりの変わりように、ヒッ!!と声が出そうになる
「なんや、チューしてくれるの待っとったのに邪魔が入ったせいで…
はぁーあ、ゴコクはん
お早いお帰りで、もっとゆっくりして来はったら良かったのに、何なら一生帰って来んでも僕が代わりに青葉の面倒見とったのに」
起き上がりながら淡々と話す狐鈴様だが、ずいぶんと棘のある言い方をする…
散々、ここに嫌々来たんだ的な事を言ってたのに!?
実は異世界生活気に入ってたんですか!?
そんな事を思っていると、私の腰に狐鈴様が腕を回したと思ったらグイッと引き寄せられて、狐鈴様と身体が密着する
ヒョエ!??イヤイヤ!!ゴコクさん挑発するために私を餌にしないで下さいよ!!
自他共に認める可愛げのない女なので、すかさず狐鈴様の胸に手を置いて距離を取ろうと押し返す
「ちょっ!青葉!そこは、キャッ狐鈴様お戯を!が正解や」
「はっ!?」
狐鈴様の言葉に驚愕する
いやいや、納得してる場合じゃない!!
そんな事はどうでも良いと言おうとした瞬間、強い力で腕を掴まれ引っ張り上げられ狐鈴様がら引き剥がされる。
ワァッ!?
驚いて見上げれば、いつの間にやら目の前にいたゴコクさんの腕の中にそのまま引き込まれる。
これもいつぞや見たゴコクさんの鬼の形相…
「青葉に気安く触るな狐、お前の役目は終わった
さっさと帰れ」
低い声で狐鈴様に挑むような視線で言い放つゴコクさん
「随分なご挨拶やなー、東京の神使は礼儀も知らんのかいな?
まずは、アンタの代わりを務めた僕にお礼の一つも言うんが筋やろ
まぁ、役得意やったけど
アンタより青葉に頼られてるし、甘える青葉はえらい可愛かったわー」
熱の出てた時の私はお忘れくださいと羞恥心のあまり、ギャァー!!!
と、叫びそうになるが、腕を掴むゴコクさんの力が強くなり
「痛っ!」と、思わず声を出すと、ゴコクさんが慌ててコチラを振り返り
「ごめん青葉…」
鬼の形相から打って変わって、怒られた子犬のような目をして謝罪してくるゴコクさんに、うっ…となけなしの乙女心が鷲掴みにされる
「だっ、大丈夫です!…その、甘えたとかそう言うのは、熱が出てた時の話ですから…お恥ずかしいことに…狐鈴様のお言葉に色々と甘えさせて頂いてしまいまして…その説は大変申し訳なく…」
なぜ私はこんなにも必死に言い訳をしているのか!?と、自分でも思うが、尻すぼみに小さくなっていく自分の声
いや、恥ずかかったんだ。そうだ、いい年して人に甘えてしまった自分が!!
思わずゴコクさんの袖を掴んでアワアワしていると、ゴコクさんの大きな手がヨシヨシと私の頭を撫ぜる
そして、大丈夫だよと言わんばかりの優しい目に、ふえっ!?思わず頬が熱くなる。
「会う前から気に入らんかったけど、アンタの事ほんに気に入らんわーゴコクはん、随分と見せつけてくれるやんか、ええ度胸や、さっさと青葉から離れて去ねや」
「お前こそ消えろ」
目を見開いた狐鈴様の氷のように冷たい視線に、それに対抗するように睨みつけるゴコクさん
なっ…何故この2人はこんなにも険悪なのか!?
実は元々知り合いで仲が悪かったのだろうか?
と言うか、私が原因なんですね!?
1人で留守番できない愚か者故にこのような事態に…
「あっ、あの…そのーお2人とも落ち着いて下さい
事の発端は全て私ですし…1人で留守番もできない頼りない人間のせいで…お二人には本当にご迷惑をおかけして面目ないと思っております…本当にスミマセン…もっとしっかりした人間に「ならないでいい!」「ならんでええ!」」
「はっ…はい…」
ゴコクさんと、狐鈴様の勢いに押されて思わず返事をする
「えぇ…、今の話の流れで何でそう受け取るん?…鉄壁の守りってこう言うことかいな…」
「安定の青葉城…」
狐鈴様は天を仰ぎ、ゴコクさんは無の境地と言わんばかりの顔をしている
どうして!?私、何かKYな事をしました!?
「まぁ、エシュテル神から聞いとったけど、同情するわゴコクはん…そら難攻不落言われるわ」
その言葉に静かに頷くゴコクさん
何故!?一触即発の空気が消えたのは良かったけれど、納得が行きませんが!?
何なんですか!!!!!????
私の心の叫びは2人に聞こえるはずもなく、やれやれと言わんばかりの神使2人を見上げるしかなかった。




