第16話 騎士
先程まで絶叫していたこともすっかり忘れて、御伽話に出てくるような銀色の甲冑の騎士を見入ってしまう。
「げっ!?騎士!?」
「いや俺らなんもしてない!」
「むしろヤバいのはそこのお嬢さんの方!!」
そう口々に言うナンパ男達、すると騎士の1人が男達の間から覗き込むように私を見る。
いやいやいや!!
無実無実!!
「先程、この方々から売春宿に売っぱらうと言われました…」
嘘じゃないですし!!
本当のことですし!!
私の言葉を信じてくれたのか、覗き込んでいた騎士が3人組を見据える。
「最近、子供や若い女性を誘拐していたのは貴様らだな」
ガチャガチャと背後から音がすると思ったら、私の背後からも騎士が3人走ってくる。
悪いことを何もしていないのだが、防犯カメラの無いこの世界、私は異国の人間で本当に無関係と思ってくれるのか些か不安になってくる。
「それは俺らじゃねー!!
奴隷売買やってる裏の「バカ、お前っ!!!」」
「あぁーぁー」
兄貴と呼ばれた男が呆れた声を出して頭を抱えて項垂れる。
「ほぉー、裏の何だ?
詳しい事情を知っているようだな、こいつらを詰め所まで連れて行け」
「「「「「ハッ!!」」」」」
5人同時に返事をする
統率取れてて凄いな…そんな事を呑気に思っていると、指示出しをしていた騎士がこちらに歩み寄って来る。
緊張で思わずビシリと気をつけをしてしまう
何も悪いことしてないのでお家に帰らせてください…
子供じみた売り言葉に買い言葉をして、飛び出して来たが為にこんな事に…
己の行動を今更ながら恥じる
「お怪我はありませんか?」
思ってもみなかった騎士の言葉に一瞬言葉が出遅れる
「………あっ、ハイ…ダイジョウブデス」
思わずカタコトの返事になってしまう
「それは良かった
女性が1人でこの様な場所に居ては危険です
ここ数ヶ月、子供や女性を狙った誘拐事件が多発していますので途中までお送りしますよ」
ヘルムを被っているのでくぐもった声をしているが、イケボ!!と、思ってしまうくらいには低い良い声だ。
ヘルムで顔が見えないので余計に妄想が膨らんでしまう。
少女漫画を読んでも共感できない年齢になっていたけれど、実際、騎士を目の前にちょっと優しくされただけでも枯れたはずの乙女心がキュンとする。
狐鈴様からの扱いのギャップによる影響も大きいかもしれないが…
「そんな、お忙しいのに申し訳ないです
人通りが多いところを歩いて帰りますので大丈夫ですよ…」
そう言って申し出てくれた騎士の背後に視線をやれば、イケボの騎士が私の視線を辿り振り返る。
仕切っていたところを見るとおそらくこの方が隊長とかなのだろう
後ろで騎士の1人が待機するように先程から待っているのだ。
そして、その騎士からの視線が刺さる
1人で帰れと言わんばかりの視線が…
「ソフィリア、先に戻っていて構わない
私はこの女性を送り届けてから詰め所に戻る」
「団長自ら行かずとも、私が代わりにお送りいたします」
ですよねー、私もそう思います。
って、なんと!?後ろで待っていた騎士の声は男性ではなく女性の声
女性の騎士とか居るんだ
カッコいいなーと、思うのだけれど私に向けられる視線はどう見ても鋭い。
もっ、もしかして…この団長さんの婚約者とか彼女とか?
狙ってるとか…そう言う…
女の感というのは、こういう時はよく当たる物である
嫉妬する女に触るべからず
「いえいえ!!本当に!!!
1人で大丈夫ですのでお構いなく!!
本当に危ないところを助けて頂きありがとうございました!
では!!」
その場を1秒でも早く去りたいが為に、失礼と思いつつもお礼をそぞろに踵を返すと
「いけません!待って下さい」
イケボ騎士に手首を掴まれ、一歩すら踏み出せずに捕まる。
空気読んでくださいよぉぉぉぉぉぉイケボ騎士様!!
あの女騎士の視線気づかないんですか!!!?
見てよあの目!!人殺せますよ!?
助けてもらって、こんなことは言いたくないですが関わりたくないんですよぉぉぉぉぉ!!
心の中で頭を抱える
「ソフィリア、私はこの方をお送りする
君は詰め所に戻れ、これは命令だ」
そう強めの口調で告げると、女騎士は再度私を睨みつけ敬礼をして路地裏へと消えていった。
私は…後であの女騎士に刺されるのでは…と、不安になる
それくらい怨念のこもった眼光だった。
こっ…怖い…
「申し訳ありません、私の部下が不躾な視線を貴方に…」
えぇ…気付いてたんですかぁ…と、声が出そうになるがなんとか飲み込み、苦笑いで誤魔化す
「さて、行きましょうか
ご自宅はどちらですか?」
こうなったら、サクっと送ってもらい
早めに戻っていただく他あるまい…
「教会前の広場近くです…あと、そのぉー大変言い難いのですが手を…」
そう伝え掴まれたままの手首に視線を向ける
手のひら部分には金属の鎧はなく、革手袋の様な感触だが少々痛い
いつぞやの、レイさんともこんな事あったなとふと思い出す…
だが状況が違いすぎる。
このイケボ騎士と私が仲良く手を繋いで、いや実際には手首を掴まれてだけれど、こんな事が先程の女騎士の耳に入ったなら、それこそ睨みつけられるどころの騒ぎではない!!
「!?申し訳ない女性の手をいつまでも、失礼いたしました」
「いっ、いえ!お気になさらず。
では、参りましょうか」
善意で送ってくださるイケボ騎士様には申し訳ないが、早く行きましょう!
そして、早く詰め所にお帰りくださいと心の中で叫ぶ
道中
国は何処か?
仕事は何を?
家族は?
結婚はしているのか?
婚約者は?
などと、オブラートに包んだ質問の仕方ではあったが、半ば職質のような質問をされ、もしや…私が異国人だったから私の事情聴取を兼ねた送ります。でした?
それとも、怪しげな異国人の私から女騎士を守るための送ります。だった?
まぁ、どちらにせよ女騎士の恨みを買っていることは間違い無いのですが…
「あの、もうこちらで大丈夫です
自宅はあの青い建物なので」
そう言って指を刺すと
「あぁ…もしや
広場に新しくできた異国の料理を出す店の女店主と言うのは、貴方の事だったんですね
部下の間でもよく話題に上がっています
一度食べたら他の店の料理は食べれないと」
驚いたようにそう話すイケボ騎士の言葉に、少々照れてしまう
そんな風に言っていただけるとは、料理人冥利に尽きると言うもの
「そんな風に言ってもらえるとは、大変光栄です…」
普段から美味しいと言ってくれるお客さん達の言葉も嬉しいが、面と向かってマジマジと言われると、可愛げがないと言われた流石の私でも照れてしまう。
っと、みっともない顔してないかしら!?と、すぐに顔を引き締め騎士を見上げると、アクアマリンの様な綺麗な瞳と目が合う。
今気づいたがイケボ騎士様の瞳はこんなに綺麗な色をしていたのかー
本当に宝石の様だなと、見つめてしまう
すると、不意に視線が外されヘルムの上から口元を手で覆うイケボ騎士
「申し訳ありません、その様に見つめられると、いささか気恥ずかしく…」
よく見ればヘルムの隙間から見える目元が朱色に染まっている
照れる騎士…かっ…可愛い…
じゃなくて!!!
「すすすすすスミマセン、大変失礼致しました」
他人の目を無言でガン見するとか失礼極まりないどころか、キモチワルイ女でしたよね!!
面目ございません!!
「あれ、ハイル様じゃない?」
「えっ!?」
「ほら、騎士の鎧の肩に入ってる赤のラインは団長の証よ間違いないわ!」
「ハイル様ぁー」
「「「キャァー♡」」」
買い物帰りであろう若い女の子達がイケボ騎士を見て黄色い声をあげる。
このイケボ騎士様はハイルと言うお名前だったんですね
その黄色い声に応えるようにハイル様が女性達に会釈をすると、悲鳴のような歓声が上がり道ゆく人が何事かと振り返る。
マズイ!!
「本当に、ありがとうございました!
今度、お時間のある際にでもお店にお立ち寄りください
お礼に何でもご馳走しますので!!では!」
これ以上ないほどの営業スマイルと、90度のお辞儀をしてハイル様が何かを言う前に今度こそ店に向かって走り出す。
幸、すぐに女子達が群がってきたためハイル様もタジタジになりながら対応していて、それどころではない様だ。
店に入る前にもう一度広場を見れば、徐々に女子の群れが移動していく
あの中心にハイル様がいるのだろう
あれだけ人気なのだ声だけじゃなく、顔もイケメンなのだろう
せっかく親切にして頂いたというのに、己の保身を優先して申し訳ございません
と、ハイル様に向かって手を合わせて謝罪する。
これで、御礼です!なんて言って菓子折り持って詰め所に行ったらそれこそ、炎上待ったなしだろう。
そんな事を思う己の汚れきった私の心…
そして何より、あの女の子達のように恋焦がれる
可愛い女の子になれない自分…普通なら誘拐犯に遭遇したのだ
怯えて涙の一つも流して助けを求めて騎士に縋り、送って頂いた騎士様に頬染めてお礼を言うのが、可愛げのある女ではないのだろうか?
今更ながら気づき、全問不正解を踏み抜いた自分が悲しくなる。
狐鈴様にも謝ろう…
貴方の言った事は何一つ間違ってませんと…
お得意の自己嫌悪に陥り、店に入るとその瞬間、顔の横を何かがヒュン!と音を立てて扉の外に
飛び出ていった。
「んっ!!?」
驚いて振り返るが目視できるわけもなく、何が起きたのか分からずとりあえず扉を閉めて店内を見渡すが特に変わった様子もない。
2階に上がるもやはり変わった様子もなく、虫だったのだろうか?
何だか体がだるいし、少し寒く感じる
色々あったし疲れてるのかもしれない
自室に戻って休もうかと思っていると、1階でバンッ!!!という、音がしたと思うとドタドタドタ!!とすごい音を立てて誰かが駆け上がってくる。
恐怖で固まっていると、現れたのは汗だくでゼェーゼェーと息を切らし、こちらを睨みつける狐鈴様
本日はよく睨まれる…それにしても…
…なんだか、いつぞやのゴコクさんを思い出す。
コレは、もしかして怒られる流れですかね…と、心の中で涙を流した。




