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第1話 恋愛なんてもう絶対にしない!

何十万番煎じのお話

だって、書きたかったんだ…


「恋愛なんてもう絶対しない!!

1人で生きていく!!

現実世界の男ってのは結局、しっかり者の女子とか、ツンデレの女より、天然ボケの女子かデレデレか、若くて可愛い女子が好きなんだよ!

だったらツンデレなんてジャンルなんか作るんじゃねぇぇぇぇーーー!!!」


「うるさっ…居酒屋で叫ばないでよ青葉、迷惑でしょ」


ここは浅草のとある居酒屋

仕事終わりの社会人達が、アルコールという名の癒しを求めて集まる場所、そして本日は華金で居酒屋は大賑わい。


 叫ぶだけ叫んでウーロンハイの入ったジョッキを片手に、テーブルに倒れ込む女


それが私、桜木青葉


「3年も付き合ったのに、別れる理由が可愛げがないねぇ…。

そう言えば、大学生の時もしっかりし過ぎてて甘えてくれない。とか、そんな理由で振られてなかったっけ?」


 そう言いながら向かいの女は唐揚げを口に放り込むと、大ジョッキのビールをものすごい勢いで飲み干していく

スーツをビシッと着こなしたザ・デキルオンナ!

高校からの親友の鈴原柚木すずはらゆずき


「グサッ!!」


 古傷を抉る辛辣な言葉に、思わず効果音が口から出てしまう。

幼い頃に両親が離婚し、昼夜問わず働く母を支える為に母親代わりに3人の弟達の面倒を見てきた私の事を、誰も彼もが口を揃えて言うのだ。


「青葉ちゃんは本当にしっかりしてるわねー」と…


 子供の頃から言われ続けてきて、その言葉を言われる度に誇らしくそして、ずっと褒め言葉だと思っていた。

だがしかし…同世代との恋愛面において、しっかりしている!は、隙がない、可愛げがない、お母さんみたい、姉御肌

庇護欲を掻き立てる女子を求める男性からは、大変ウケがよろしくない…そう…欠点なのだ。


「なんでかな…少女漫画とか小説とかさ、女子にチヤホヤされてるイケメン男子って、ツンな女の子に惹かれたり、しっかり者の女の子に惹かれるじゃん…。

なのに…なのに…なんでなんだよぉーーーー」


 勢いよく立ち上がり、ジョッキに半分ほど残ったウーロンハイを一気に飲み干し、横を通りがかった店員さんに声をかける。


「そこのお姉さん!ウーロンハイのおかわり下さい!濃いめで!」


「いや絶対モテないだろ、あんたの憧れてる恋愛小説の主人公は、ウーロンハイ濃いめをジョッキで飲まないだろ!

モテたいならカシオレとか可愛げのあるの飲みなさいよ」


テーブルの向かいに座る柚木からツッコミが入るが、かまいやしない。


「うっせーうっせーうっせーわ!彼氏の前ではカシオレです!」


「もう元カレでしょ、お前がうっせーわだわ

あっ、私もビールお代わり!ジョッキで」


 賑やかな居酒屋の中で、どんよりと重たいものを背負っているのはきっと私だけであろう。

分かっているのだ。


 恋愛漫画や小説は所詮ファンタジー、女の子達の憧れを詰め込んだお話、現実ではそんなにトントンで進みやしない。


2日前に3年間付き合った彼氏から突きつけられた言葉


「別れよう」


 薄々、言われるんじゃないかと気付いていた。

数週間前から妙に反応の悪い彼、そして神妙な声で話があると言われた時には確信していた。

 けれど、3年も付き合っていたのだ。

話し合いをして、ダメなところを正せば良い。

そんな風に思っていたのに取り付く島もなく、理由を聞けば


「きつい言葉に聞こえるかもしれないけど、青葉は可愛げがないんだよ…何でも自分でできちゃうしさ、俺がいなくても1人で生きていけそうっていうか…」


 そんな事ないと泣いて縋ったけど、一蹴されて終わり…。

3年間は何だったのか、泣きながら柚木に電話したのは記憶に新しい。


 何せ2日前…

飲みに付き合ってくれる我が友は本当に優しい。


「びえっ…私には柚木だけだよぉ~」


「何よ急に!泣かないでよ鬱陶しい!!」


前言撤回、そうでもない。


「お待たせしましたー、ウーロンハイ濃いめに生ジョッキでーす!

空いたグラスお下げしますねー」


 清々しいほど我関せずにテキパキと働く居酒屋のお姉さん、鬱陶しい客で面目ない。


はぁ…なんかもう…どこか遠くへ行きたい…


 散々飲んだつもりだったが時計を見れば22時になったところだ。

本格的に深酒する前にサッサと帰れ!と、柚木によりタクシーに押し込まれたものの、家に帰っても3年間の楽しかった日々を思い出しては、さめざめと泣くのが容易に想像できたため、コンビニの前で下ろしてもらいなんとなく、近所の神社へ向かう。


 こんな時間に酔っ払った女が1人で神社とか、防犯的にどうかなんて分かっちゃいるけど、何故だかわからないが妙に神社に行きたかった。


 毎年、一緒に初詣行ったもんな…結婚式は神前式がいいなーなんて話もしてたのに、バカみたいだ…。

結局、家でなくても思い出して泣き出してしまう。


 見えてきた石の鳥居を潜って、真っ暗な境内に入れば都会とは思えないほど静まり返っている。

お邪魔しますとお賽銭をあげると、鼻水を啜りながら境内にある階段に腰掛けて空を見上げる。


 明るい都会で見える星なんて数えるほどしかない。

またジワリと涙が出てくる。

散々泣いたのにな…。


「こんな夜中に女が1人でいたら危ないではないか」


 急にかけられた声に驚いて肩が揺れる。

 驚いて振り返ると、目元だけを隠すような狐面を付けた巫女服の女性が草履を履いて拝殿から出てくる所だった。


 あぁ…こんな時間に居るから不審者と思われたのかも知れない。

急に酔いが覚めて泣き腫らした目元を袖で拭うと


「すみません、ちょっと酔いを覚ましたくて寄っただけで、怪しい者では無くてですね…」


いや、どう見ても怪しい者だよなと内心焦る。


「よいよい。

座っておれ、そなた泣いておったであろう。

啜り泣く声が聞こえたものでな」


 妙に古風な話し方をする巫女さんだ。

目元は面で隠れており口元だけしか出ていないが、見た目は20代くらいだろうか?

話し方はキャラ付けか何かだろうか?


「ほら、茶でも飲め落ち着くぞ」


 あれ?手に湯呑みなんて持っていただろうか?

突然取り出したかのように湯呑みを差し出され「ありがとうございます」と、小さく礼を言って受け取り一口飲むと、ほうじ茶だろうか?

ほぉーと一息つけるような味がした。


石段に座り直すと、続いて巫女さんも私の隣に座った。


「こうやって氏子と話すのは随分と久方ぶりじゃな、それで?何故泣いておったのか我に話してみるが良い。」


 なんて優しい巫女さんなのか!

今は誰かの優しさが事の他、心に染みる。

またもジワリと涙が滲み出て、ポツリポツリと事の経緯を話し出した。


「そうであったか…

男というのは昔っから聞き分けの良い女より、手のかかる女を好むからの、男と違って女はリアリストじゃからな相容れぬ存在じゃ、互いを理解し必要としあう存在を見つけるのは、意外と難しいものじゃ、焦ることはない。」


 そう言うと私の涙を巫女服の袖で軽く拭ってくれる。

なかなかに達観した考えをお持ちの巫女さん、若そうに見えて意外と人生経験豊富なのだろうか?


うぅ…それにしてもなんて優しい巫女さんなんだ…


「今回は、向こうから好きだって言って猛アタックしてきたくせに…付き合ったらこんな事になって、私ってそんなにダメな人間ですかね…。

似たような理由でまたフラれて、うぅ…本当にもう…恋愛なんてしたくないです。

いっそ、誰も知らない遠くへ行きたいです…ふぇ…」


 ズビズビと鼻を啜りながらまたも流れ始める涙、いい年して膝を抱えて泣きじゃくる。

鬱陶し女この上ない。


人前で泣く女が嫌いなのに、自分がその嫌いな女になっている情けなさに更に涙が溢れてくる。


「誰も知らない遠くへか…

ふむ…いや…しかし…うーーん

まぁ、良いか!

我なら多少の無理も効くであろうし、そなた料理は得意か?」


ひとしきり自問自答をしていた巫女さんは、吹っ切れたように手を叩くと、私の両肩をがっしりと掴む


急な行動に思わず涙が止まり巫女さんの顔をガン見してしまう。


「えっ!?

あっ…はい?料理は自炊しているので、人並みくらいには作れるかと」


そう言うとニンマリ口角を上げる巫女さんは嬉しそうに


「そうかそうか!

実はな、異国に住む友が日本の食事をいたく気に入っての、向こうでも食べたい食べたいと、それはもぉー、毎日のように連絡してきて煩くての、我も向こうに行ったことはあるが、確かに何を食べても不味かった…。

あやつの気持ちは分からなくもない。

そこでじゃ、料理のできる者を向こうに送れば、万事解決というわけじゃ!」


 万事解決…しないでしょ!!

えぇ?海外移住?確かにどこか遠くへ行きたいとは言いましたけど、突拍子もない話すぎて家族だって…いや…

両親はそれぞれ再婚して家庭もあって子供もいる。


 1番下の弟も義父の援助で去年からイギリスに留学していて、向こうで仕事みつけるとか言ってたし、他の2人も社会人、別に私の役割はもう何もない。


 まぁ、海外移住したところで誰も何も気にしないか…。

もう、独り身だし…。


 考えれば考えるほど、思った以上にしがらみの無い自分、大量に摂取したアルコールと泣き疲れで、急に頭の回転が鈍くなり始める。


「そうですね…行っちゃおうかな海外…」


 急な眠気でコクリコクリと舟を漕ぎ始めてしまう。

あれ…なんでこんな急に眠く…


「おぉ!では決まりじゃな!

善は急げ!早速参ろうではないか!」


はしゃぐ巫女さんの声を遠くで聞きながら、いや、働くならビザとか必要だし、そんな簡単には…。

そう思ったのが最後、眠気に負けて意識を手放した。


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